布団をしく ひく 違い 使い分け どっち 意味

押し入れなどから出した布団を平らに広げる場合、「布団を敷く」もしくは「布団を引く」と言います。ただ、この場合「しく」と「ひく」のどっちを使えばよいのかという問題が生じます。

そこで本記事では、「布団を敷く」と「布団を引く」の正しい使い分けを解説しました。

布団をしくとひく。正しいのは?

 

結論から言いますと、「敷く」が正しく、「引く」は誤りということになります。つまり、「布団を敷く」が正式な表現ということです。

しかしながら、「布団を引く」という言い方が絶対的に成り立たないか?というとそうではありません。その理由を詳しく述べていきたいと思います。

布団を敷くの意味

 

まず、「敷く(しく)」とは「幅や長さのあるものを平らに広げておくこと」という意味の動詞です。主な使い方としては、次のようなものが挙げられます。

  • 部屋に畳を敷く
  • 新聞紙を広げて敷く
  • 馬小屋にわらを敷く
  • 床にじゅうたんを敷く
  • 段ボールの底に紙を敷く

この意味では日本語として古くから用いられており、『古事記』や『万葉集』にも次のような用例が残されています。

葦原のしけしき小屋に菅畳、いやさや斯岐て我が二人寝し。 出典:『古事記』神武紀

ぬばたまの黒髪之伎て長き日を、待ちかも恋ひむ、はしき妻らは。出典:『万葉集』四三三一

これらの万葉仮名の表記を見ると、前者が「斯岐」で後者が「之伎」でいずれも「しき(敷き)」です。対して、「ひく(引く)」の方には「平らに広げて置く」という意味での用例は見当たりません。

布団を引くは誤り

 

ではなぜ「布団を引く(ひく)」という言い方も現在では行われる場合があるのか?という話です。それについては二つの理由が考えられます。

一つは、「意味の連想から」です。布団を平らに延べる動作というのは、畳んだ布団の端を手で持つことにより、自分の方へ近寄せる形で行われます。

この動作は「引き寄せる」形で「引き延ばす」ことになるため、「布団を引く」という意味の連想が働くことになります。

この事から、日常会話の中で「布団をしく」という言い方を聞きながらも、「布団を引く」と誤って用いるようになったというものです。

そして二つ目は、「[し]と[ひ]の発音が似ているため」です。

「し」と「ひ」は似たような発音でさらに同じ母音であるため、聞き間違える人が多いです。例えば、「人」を「シト」と発音したり「火鉢」を「シバチ」と発音したりすることは、現在の方言でもされています。

「敷く」に関しても同様に、耳で聞いた「布団をしく」という言い方が次第に「布団を引く」に変わっていったということです。

しかし、音声ではなく文字で書き表せば、「布団を敷く」の読み方は間違いなく「ふとんをしく」です。

これは、「掛け布団」に対する「敷き布団(しきぶとん)」、シーツの事を「敷布(しきふ)」、「カーペット」を「敷物(しきもの)」と呼んでいることからも分かるかと思います。

布団を引くが使われる場合

 

「布団を引く」が、ごくまれですが使われることもあります。それは、「実際に布団を引き寄せる」という意味での用例です。

例えば、志賀直哉の有名な小説『暗夜行路』には次のような記述が残されています。

被せたガーゼを被ると、割りに手荒く蒲団を引き寄せ、直子の床にそれを附けた。

出典:志賀直哉『暗夜行路』

上記の一文は、看護婦が赤ん坊の布団を母親である直子の布団の方へ引き寄せた時の描写です。

この時の描写は、「布団をこちらへ引き寄せる・たぐりよせる」という意味での「引く」です。「平らに広げる」という意味の「敷く」ではありません。

よって、この場合に関しては「引く」を用いることになるわけです。

以上の事から考えますと、「布団を敷く」を正しいとするのは最初に取り上げた「幅や長さのあるものを平らに広げておくこと」という意味での用例に限ることになります。

まとめ

 

以上、本記事のまとめです。

布団を敷くと布団を引く」⇒「敷く」が正しく、「引く」は誤り

敷くを使う理由」⇒「敷く」はモノを平らに広げる行為を表す動詞であるため。

布団を引く」⇒まれに「布団を引き寄せる」という意味で使うことはある。

基本的には「布団を敷く」を使えば問題ありません。「布団を引く」に関しては「意味の連想」と「発音」の問題から生じた誤用ということになります。