「筆を執る」という慣用句をご存知でしょうか?
ビジネスで使われることが多く、特に手紙文でよく使われる表現です。ただ、具体的にどう使えばよいか分かりにくいと感じる人も多いと思われます。
そこで本記事では、「筆を執る」の意味や使い方、文例、英語訳などを詳しく解説しました。
筆を執るの意味・読み方
最初に、基本的な意味と読み方を紹介します。
【筆を執る(ふでをとる)】
⇒書画または文章を書く。執筆する。「さっそく返信の―・る」
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「筆を執る」は「ふでをとる」と読みます。意味は「書画または文章を書く・執筆する」という行為を表したものです。
「書画(しょが)」とは東洋美術の一分野のことで、「書と画」「書道と絵画」を指します。主に両者が一体化した芸術作品を指すことが多いです。
つまり、ただ単に文章を書くだけでなく書道を書いたり絵画を描くことも「筆を執る」と言うわけです。
例えば、昔の骨董品などで見かける価値の高い絵などは「筆を執って書かれた絵」ということになります。他には、書道教室などでお手本に従って筆を走らせることなども「筆を執る」と言います。
ただ、一般的には絵や書道ではなく文章を書く際に使われることが多いです。
「筆を執る」は、手紙や小説文、評論文、新聞記事などの文章を書く際に使われます。特に、ビジネスで特定の相手へ向けて手紙を書く際にこの「筆を執る」という表現がよく使われます。
なお、近年になりメール文やパソコンの文書などデジタルの文章を打ち込む機会も増えるようになりました。このようなデジタルの文書を打ち込む際にも「筆を執る」と表記することはあります。
しかしながら、実際にはこれらの場面では「筆を執る」はあまり使われる表現ではありません。なぜなら、「筆」というのは本来「毛筆」のことを表しているものだからです。
明確な使い分けが存在するというわけではありませんが、一般には万年筆や鉛筆、ボールペンなど人が握る道具で書いた文章に対して使われることが多いです。
筆を「取る」は誤用
「筆を執る」を「筆を取る」と表記するのは誤用です。これはよくある書き間違いなので注意してください。
「執る」の「執」という字は、「執筆」という熟語があるように「書く」という意味があります。一方で、「取る」の「取」という字は「採取」などの熟語があるように「手に持つ・握る」という意味です。
したがって、「筆を取る」だと「筆を持つ」「筆を握る」などの意味になってしまいます。このような表現がないわけではありませんが、本来の使い方とは言えないので誤用ということになります。
補足すると、「筆を執る」を「書き始める」という意味で使ってしまうのも誤りです。「筆を執る」は「書き始める」のではなく、「書く」という行為自体を指した言葉です。
「筆を執った」と書いた時点で、最初から最後まで文章を書いたことを意味します。
筆を執るの類義語
続いて、「筆を執る」の類義語を紹介します。
- 文を書く
- 文章を書く
- 執筆する
- 絵を描く
- 記述する
- 著述する
- 書き記す
- 書きつける
- 筆をふるう
- 筆を走らせる
- ペンを執る
「筆を執る」を言い換えた語はいくつかあります。
この中では「執筆する」「ペンを執る」などは比較的近い意味を持っています。どちらも手紙や文章を書いたりするときに使われる表現です。
ただ、「筆を執る」には「絵画をかく」という意味も含まれるということでした。したがって、全く同じ意味(同義語)と呼べるような言葉は残念ながらありません。
筆を執るの英語訳
「筆を執る」は、英語だと次のように言います。
「write」(書く・執筆する)
「take up one’s pen」(筆を執る)
「write」は、「書く」という意味を表す動詞です。ペンや鉛筆、タイプライターなどの道具を使って文字を書くときに使われる単語です。
また、「take up one’s pen」は直訳すると「ペンをとる」です。「take up」は「手にとる」「取り上げる」などの訳があるため、「pen」と合わせることで「執筆する」という意味になります。
例文だと、それぞれ以下のような言い方です。
I plan to write a book in the afternoon.(午後からは本を執筆するつもりです。)
I’m going to take up my pen again.(私は再びペンを執るつもりです。)
筆を執るの使い方・例文
「筆を執る」の使い方は、通常の文章もしくは手紙文で使う場合に分かれます。
【通常の文の場合】
- 彼は筆を執ることで自らお金を稼いでいる人物だ。
- 今日は最低でも原稿用紙2枚分の筆を執る予定です。
- 自らの主張を世に広めるために、筆を執り続けます。
- 私は新聞記者として10年間筆を執る仕事をしています。
- 家に帰り、ようやく落ち着いて筆を執ることができた。
通常の文章として用いる場合は、様々なシーンで使うことができます。小説を書く際、新聞記事を書く際などその場面は豊富です。
「書画を書く」という意味でも使うことができますが、実際の用例としては多いものではありません。
【手紙文の場合】
- 本日は、○○についてご相談申し上げたく、筆を執った次第です。
- 本日は、○○様に折り入ってご用立てのお願いがございまして筆を執らせて頂きました。
- 本日は折り入ってお願いしたいことがございまして、筆を執らせて頂いた次第です。
- 突然にて恐縮ですが、本日は折り入ってお願いしたい事がございまして筆を執らせて頂きました。
- 突然ではございますが、折り入ってお願いしたいことがございまして筆を執らせて頂いた次第です。
「手紙文」として用いる場合は、相手へ何かの依頼をする際に使われます。
依頼の手紙を書く時は、例文のようにまず一文目で敬語を使い丁寧にこちらの思いを伝えるのが一般的です。その後で、どういった内容の依頼なのかという本題を相手に分かりやすく述べていきます。
依頼する内容は状況にもよりますが、借用や借金の依頼、媒酌人(ばいしゃくにん)の依頼、祝辞の依頼など様々です。いずれも厳かで丁寧な依頼をする際に書かれるものなので、相手に失礼のない言い回しにすることが重要となります。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「筆を執る」=書画または文章を書く・執筆する。「筆を取る」は誤用。
「類義語」=「文を書く・執筆する・絵を描く・著述する・ペンを執る」等。
「英語訳」=「write(書く・執筆する)」「take up one’s pen」
「使い方」=主に手紙文や小説文などの文章を書く際に使われる。
「筆を取る」の「筆」は、元々は書道などで使う「毛筆」のことを指していました。しかし、現在ではそこから派生してボールペンや鉛筆などで文章を書く際にも用いられています。ビジネスで使われることが多いため、ぜひこの機会に使い方を覚えて頂ければと思います。