『人を指す言葉-自称詞・対称詞・他称詞』は、鈴木孝夫による文章です。教科書・論理国語にも採用されています。
ただ、本文を読むと筆者の主張が分かりにくいと感じる箇所も多いです。そこで今回は、『人を指す言葉』のあらすじや要約、意味調べなどを解説しました。
『人を指す言葉』のあらすじ
本文は、四つの段落から構成されています。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。
①日本人は自分や相手を指す時に人称代名詞はあまり使わない。代わりに、親族名称<父、母、おじ、おば、兄、妹>や相手の職業名<先生、お医者さん、お巡りさん、運転手さん>をよく用いる。日本語の<私、あなた>のような語の起源は、特定の意味を持つ言葉であるか、あるいは場所や方向を示す語彙の転用である。これらのことから、日本語の<私>や<あなた、彼>といった語彙は、ヨーロッパ語の人称代名詞と同列に扱うには無理がある。そこで私は、日本語で自分および相手を指すのに用いられる言葉を、自称詞、対称詞、他称詞と呼ぶことにした。そして日本人は自分と相手、そして他者をどのように呼んでいるか調べた結果、「日本人は相手と自分を共に含むその場に相応しい何らかの社会的な枠組みを設定し、その中での相互の位置関係を表すような言葉を自称詞、対称詞、他称詞として使っている」ことがわかった。
②日本語ではヨーロッパ語とは違って、直接話の相手を言葉で指すことを極力さけて、間接的に相手だということを示す。相手との関係はむき出しの直接的なものより、やんわりとした間接性のあるもののほうがよいという感覚を持つ。それは、対立対決の欧米型とはほど遠い柔らかなものである。
③このことが、日本人は議論が下手だと評されることと無関係ではないだろう。そもそも対話の仕組みそのものが対立対決的ではなく、同じ社会的な枠組みを共有する仲間としての相手に同意強調することを前提としているからだ。また、日本語では多くの場合、自称詞と対称詞が話し手と相手の上下関係を構造的に取り込んでいることも、日本語での対話や議論が対立的になりにくい理由だろう。
④日本語で、自分のことを相手に対して「ひと」と称することは、相手と赤の他人になる一種の絶現宣言だと考えられる。このような特殊な自称行為を見ても、日本語で話者が自分をどんな言葉で表すのか、相手を何と表現するかの問題は、ヨーロッパ諸語における人称代名詞とは異なることが分かる。
『人を指す言葉』の要約&本文解説
この文章の筆者は、日本語における「人」を指す言葉の特徴について述べています。
ヨーロッパの言語と比べると、日本語の自称詞(自分を指す言葉)・対称詞(相手を指す言葉)・他称詞(第三者を指す言葉)は、単に人称を示すだけではなく、社会的な関係性や場面に応じて使い分けられているのが特徴です。
たとえば、日本語では「私」「あなた」のような人称代名詞よりも、「お母さん」「先生」「お巡りさん」などの親族名や職業名を使って相手を指すことが多くあります。これは、話し相手との関係性や状況を表現するためです。
子どもが母親に「お母さん、あれ取って」などと言うのは、話している相手が誰かを明確にしなくても、お互いの関係性から自然に伝わるためです。
また、日本語では、相手を直接「あなた」と呼ぶことを避ける傾向があります。これは、相手との関係をやわらかく保ちたいという文化的な感覚からきています。
欧米では、議論や対立を前提とした会話が一般的ですが、日本語では相手と共通の立場に立って共感を大事にする話し方が主流です。このため、「日本人は議論が下手だ」と言われることもあるのです。
さらに、日本語の「自称詞」や「対称詞」は、話し手と聞き手の上下関係を表すことが多く、「私」「僕」「俺」「わたくし」などの言い方が、相手との関係や場面によって使い分けられます。
このように、日本語では単に「人を指す」だけでなく、相手との関係性や場の空気を読みながら言葉を選ぶ必要があるのです。
このような複雑な人称表現から、日本語の対話は欧米の言語とは違うルールで成り立っていることが分かります。
言い換えれば、日本語では「誰をどう呼ぶか」そのものが、文化や人間関係を反映する重要な要素になっているのです。
『人を指す言葉』の意味調べノート
【当該(とうがい)】⇒そのことに関係している。それに関わりのある。
【規範(きはん)】⇒行動や判断の基準となる手本。
【擬似的(ぎじてき)】⇒本物に似せているが、実際は違うさま。
【口を開く(くちをひらく)】⇒話し始める。沈黙を破って話す。
【(…を)問わず】⇒…に関係なく。…を気にせず。
【対照的(たいしょうてき)】⇒互いに違いがはっきりしているさま。
【把握(はあく)】⇒しっかりと理解すること。
【いわば】⇒たとえて言うなら。言ってみれば。
【極力(きょくりょく)】⇒できる限り。
【概して(がいして)】⇒全体的に見て。大まかに言って。
【気色ばむ(けしきばむ)】⇒怒りなどの感情を顔に表す。
【ほどがある】⇒限度というものがある。許容できる程度を超えている。
【赤の他人(あかのたにん)】⇒全く関係のない他人。
【侵害(しんがい)】⇒他人の権利や領域などをおかすこと。
【憤慨(ふんがい)】⇒ひどく怒ること。腹を立てること。
【懇願(こんがん)】⇒心からお願いすること。
【絶縁(ぜつえん)】⇒関係を完全に断つこと。
【類似点(るいじてん)】⇒似ている点。
『人を指す言葉』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①トウガイ商品について説明する。
②ヒカクの結果、こちらを選択した。
③著作権をシンガイしないようにする。
④迷惑をかけてので、シャザイする。
⑤ルイジの商品に注意が必要だ。
次のうち、本文の内容を表したものとして最も適切なものを一つ選びなさい。
(ア)日本語の「私」「あなた」は、ヨーロッパ語の人称代名詞と同様に、誰に対しても使える中立的な表現である。
(イ)日本語では、対話において直接的な表現を好む傾向が強く、相手の立場に関係なく名前や代名詞を使う。
(ウ)日本語では、話し手と聞き手が共有する社会的枠組みに基づいて、相互の関係性を示す言葉が用いられる。
(エ)日本語の対話は対立や議論を前提としており、対称詞や自称詞も論理的な構造に重きを置く傾向がある。
まとめ
今回は、『人を指す言葉』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。