葉桜と魔笛  あらすじ 解説 テスト対策問題 文学国語 現代文

『葉桜と魔笛』は、太宰治による文学作品です。教科書・文学国語にも掲載されています。

ただ、実際にこの話を読むと内容が分かりにくいと感じる箇所も多いです。そこで今回は、『葉桜と魔笛』のあらすじやテスト対策問題などを分かりやすく解説しました。

『葉桜と魔笛』のあらすじ

 

本文は、五つの段落から構成されています。ここでは、各段落ごとのあらすじを紹介していきます。

あらすじ

①老夫人(私)は、三十五年前の思い出を語る。当時二十歳の「私(姉)」は、腎臓結核を患い余命百日と宣告された十八歳の妹と、頑固一徹で学者気質の父と三人で暮らしていた。五月半ばの「あの日」、「私」は死にゆく妹のことを思って苦しい気持ちで野道を歩いていた。すると、土の底から恐ろしい物音が響いてきた。「私」は恐怖のあまり座り込んで泣いてしまった。あとで知ったことだが、その音は日本海大海戦の軍艦の大砲の音だった。そんなことは知らずにいた「私」には、地獄の底で打ち鳴らしている不吉な太鼓の音のように聞こえたのだった。

②「私」が帰宅すると、妹から手紙について尋ねられた。妹が眠っている間に私が置いておいた妹あての手紙について、妹は差出人の「M・T」を知らないと言った。だが、五、六日前に妹のたんすを整理していたときに私は手紙の束を見つけ、こっそり見てしまった。そのため、妹が貧しい歌人の「M・T」という男と文通していたこと、さらには恋愛関係にあったことを知っていた。そして、彼が妹の病気を知るとともに去っていったことに、自分自身のことのように胸を痛め、苦しんでいた。妹は、その日届いた手紙を「私」に読むように促した。

③手紙には、妹への謝罪が書かれていた。貧しく無能であることから、妹をどうしてあげることもできないことがつらくて別れたが、それは間違いであったこと。そして、それを謝罪してせめて言葉だけでも贈ること、小さな贈り物でも恥じずに差し出すことが勇気ある男らしい態度だとして、これからは毎日歌を作って送ること、毎晩六時に庭の外で軍艦マーチの口笛を吹いてあげることを約束するとあった。

④手紙を読み終わると、妹は「ありがとう、姉さん、これ、姉さんが書いたのね。」と言った。実はその手紙は、妹の苦しみを見かねた「私」が書いたものだった。「私」が恥ずかしさに動揺を隠せないでいると、妹はあの手紙は自分が書いたものだと告白した。大事な青春を思い通りに過ごせずに死んでいくことがかわいそうだと嘆く妹に、「私」はさまざまな感情がこみあげた。たまらず妹の痩せた頬に自分の頬をつけると、涙を流しながら妹を抱いた。そのとき、庭から軍艦マーチの口笛が聞こえてきた。時計を見ると六時で、手紙に書いたとおりになったことに「私」と妹は恐怖を覚え、抱き合ったまま身じろぎもせずに耳を澄ましていた。それから三日目に妹は穏やかに息をひきとった。「私」は驚かず、何もかも神様のおぼしめだと信じていた。

⑤現在の「老夫人」は語る。年をとった今は、もろもろの物欲が出てきて、恥ずかしく感じている。あの口笛も、ひょっとしたら父の一世一代の狂言だったのではないかと思うこともある。しかし、やはり神様のお恵みだったのだろう。私はそう信じて安心したいが、どうも年をとると物欲が起こり、信仰も薄らいで、いけないと思う。

『葉桜と魔笛』の本文解説

 

太宰治の短編小説『葉桜と魔笛(はざくらとまてき)』は、死期の迫った妹と、その姉との心のやり取りを通して、人の優しさや信じる気持ちの大切さを描いた作品です。物語は、老夫人となった語り手が三十五年前を回想する形で進みます。

当時二十歳の姉は、腎臓結核で余命百日と宣告された十八歳の妹と暮らしていました。ある日、姉は妹を励ますため、かつて妹と恋仲だった歌人である「M・T」からの手紙を偽造します。

手紙には、別れを謝罪し、これから毎日歌を贈ることや、毎晩六時に軍艦マーチの口笛を吹く約束が書かれていました。

しかし手紙を読んだ妹は、「ありがとう、姉さん、これ姉さんが書いたのね」と言い、さらに「あの手紙は自分が書いたのよ」と告白します。

この言葉は、本当に妹が自作していた可能性もあれば、姉を思いやるための優しい嘘だった可能性もあります。ここには、事実よりも相手の気持ちを守ろうとする思いやりが表れています。

そして不思議なことに、その直後、庭から軍艦マーチの口笛が聞こえてきます。偶然なのか、父の仕掛けなのか、神様のお恵みなのかは分かりませんが、二人は抱き合って耳を澄まします。三日後、妹は穏やかに息を引き取りました。

現在の老夫人は、あの出来事が父の狂言だったかもしれないと疑いつつも、やはり「神様のお恵み」だと信じて安心したいと語ります。この揺れ動く心こそが、人間らしさの象徴です。

この作品のテーマは、真実かどうかよりも「人を慰めるための物語」や「信じる気持ち」の価値です。嘘や偶然であっても、相手を救う力がある。その瞬間の優しさや希望こそが、人生を支えるのだと太宰は読者へ伝えています。

『葉桜と魔笛』のテスト対策問題

 

問題1

次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。

①この本をハイシャクしてもいいですか。

②それはジョウダンだと信じたい。

ガマンの限界が近づいている。

④文法の授業でケンジョウ語を学ぶ。

スウコウな志を持ち続ける。

解答①拝借 ②冗談 ③我慢 ④謙譲 ⑤崇高
問題2「知らないことがあるものか。私は、その手紙の差し出し人のM・Tという男の人を知っております。ちゃんと知っていたのでございます。」という箇所には、どのような効果があるか?
解答妹は「M・T」と文通していたことを隠そうとして「知らない」と装っているが、自分はそれを知っているのだと、もどかしく思う「私」の気持ちを表す効果。
問題3「私(姉)」が、手紙を書いたのはなぜだと考えられるか?
解答最初は妹の苦しみを病気のせいだと考えていたが、妹が隠していた「一束の手紙」を見つけたことで、恋をして相手に去られたことでも苦しんでいると知り、その姿を見かねたから。
問題4「妹」が、手紙を書いたのはなぜだと考えられるか?
解答病気になって死期が近づく中、これまで厳格な父のもとでずっと真面目に生き、青春らしい経験をほとんどしてこなかったことを後悔し、よその男の人と話したことすらなかった自分があまりに寂しいと感じ、せめて擬似的にでも恋愛をして自分の心を慰めたかったから。
問題5「私は、そのとき驚かなかった。何もかも神様の、おぼしめしと信じていました。」とあるが、なぜか?
解答「私」が妹のために書いた手紙の内容どおり、本来ならば聞こえるはずのない軍艦マーチの口笛が庭から聞こえ、その出来事が「私」と妹に驚きと安らぎを与えたことから、神様の存在や、その力によって物事がなされるということを強く信じるようになったから。

まとめ

 

今回は、『葉桜と魔笛』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。