「言質」という言葉は、普段の文章だけでなくビジネスにおいてもよく使われています。
ただ、この場合漢字の読み方が問題になってきます。つまり、「げんち」と読むのかそれとも「げんしつ」と読むのかということです。また、場合によっては「げんしち」と読むこともあります。
本記事ではこれらの疑問を解消するため、「言質」の意味や読み方、語源・由来などを詳しく解説しました。
言質の読み方・意味
まず、「言質」を辞典で引くと次のように書かれています。
【言質(げんち)】
⇒言質とは、後々証拠になる言葉のこと。相手から後で証拠にできるような言葉を引き出すことを「言質を取る」という。また、言質を取るために行動することを「言質を引き出す」という。
出典:実用日本語表現辞典
「言質」とは「後々証拠になる言葉のこと」を意味します。
例えば、政治家が記者会見をする際に「言質をとられないように発言を気を付ける」などのように用います。
そして、読み方ですが現在のほとんどの辞典では「言質」は「げんち」と表記されています。また、「げんち」以外に「げんしつ」や「げんしつ」などの読み方が記されている辞典もあります。
しかし、いずれの読み方も国語辞典に見出し語として採録されたのは比較的近年になってからです。例えば、『和英語林集成』の各版をはじめ、『言海』『日本大辞書』『ことばの泉』などの古い辞典にはすべて採録されていません。
ただ、これらの辞典には「ことばじち(言葉質・詞質)」という語は採録されています。
『日本大辞林』と『大言海』では、「ことばじち」に「言質」を当てていますが、前者はいずれの読み方も掲げず、後者は「げんしち」の項に「(一)コトバジチ。(二)コトバジリ、げんち(言質)のアヤマリ。」としながら、「げんち」の見出しはありません。「げんしつ」も見出し語としては掲げていないです。
各種辞典を確認してみると、「言質」を「げんしつ」として最初に採録したのは、『ことばの泉 補遺』(明治41刊)であり、「げんち」として掲げたのは『改修 言泉』(昭和3年刊)です。両者とも、参照項目としての取り扱いで「ことばじちに同じ。」としています。
以上の事から考えますと、「言質」という言葉は最初は「げんち」と読んでいなかったということが分かります。
言質は「言葉質」が語源
元々は「げんち」と読んでいませんでしたが、時代が明治から大正、昭和へと移ると、次第に「げんち」という読みがされるようになってきます。
戦後刊行の国語辞典では、「げんち」「げんしつ」を見出し語とし、「げんち」を本項目とするものが増えてきました。
「げんしつ」を参照項目としているものも多いですが、両者をともに本項目としているものもいくつかあります。
「ことばじち」を見出しとして立てているのは、いわゆる大辞典・中辞典であり、ほとんどの小型辞典ではこの項目を載せていません。
また、「げんしち」を見出し語としているのは、前述の『大言海』の他に、『大辞典』『大日本国語辞典(修正版)』『日本国語大辞典』『三省堂国語辞典(第二版)』などがあります。
しかし、「げんしち」を「げんちの誤り。」と書いているのは『大空海』だけであり、『日本国語大辞典』では「本来は誤り。」として、他は単なる参照項目扱いとなっています。
正しい読み方はどれか?
以上の流れから判断しますと、「後々の証拠となる言葉」という意味を持つ語は、明治の頃は「言葉質」が一般的であり、大正頃からそれが「言質」となり、最終的な読み方が「げんち」になったという事が分かります。
ところが、「言質」という語はその字面から判断して「げんしつ」や「げんしち」と読まれるようにもなりました。なおかつ、「言葉質」という語は日常語とは言い難いほどに一般には使われなくなりました。
そのため、現在では「げんち」「げんしつ」「げんしち」という複数の読み方がされているのです。
現在では、「げんち」だけを認める立場、「げんしつ」も認めようとする立場、さらに「げんしち」をも語形として認めようという立場があります。
そのため、一概にどれが正しい読み方なのかは断言できないという部分があります。ただ、ビジネスなどで用いる際は一般に「げんち」と読むことが多いようです。
これは様々な理由が考えられますが、一つは「発音のしやすさ」というのが挙げられます。
「げんしつ」や「げんしち」と読むよりも、「げんち」と三文字で簡潔に発音した方が読みやすいですし、聞き手としても聞き取りやすいです。
また、前述したように「げんしつ」や「げんしち」は、漢字の字面によって読まれるようになった言わば「慣用読み」と呼ばれるものです。ゆえに、現在では「げんち」と読まれることが多いのだと考えられます。
言質の漢語の由来は不明
補足しますと、「質」に対する「ち」という読みはこの漢字の字音の一つであり、その字義は「品物を質において金を借りること」「人質」などです。
「かたにおく」の意味で、「言質」を「げんち」と読むのは根拠がないわけではありません。しかし、漢和辞典の類では「言質」という漢語の由来は明らかになっていないため、正確な由来は不明ということになります。
ただ、日本には古くから「しちにとる」の「質」が「しち」が入っており、前述したように近世の初め頃から「ことばじち」の語も見られます。
そのため、この「ことばじち」を漢語風に「言質」と書いたところから「げんち」という学者読みの語が生じたものだ考えられます。
なお、昭和23年内閣告示の「当用漢字音訓表」には「ち」の読みは掲げられていませんでした。ところが、昭和48年の「当用漢字音訓表」では特別な読み・用法のごく狭いものとしての取り扱いではあるものの、「チ」の字音も掲げ、例として「言質」と掲げてあります。
したがって、少なくとも昭和の後半頃には「げんち」という読み方が世の中に定着していたものだと考えられます。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「言質(げんち)」=後々証拠になる言葉のこと。
「読み方」=「げんち」「げんしつ」「げんしち」など複数の読み方が可能だが、一般には「げんち」と読むことが多い。(一概にどれが正しい読み方とは言えない。)
「語源・由来」=「言葉質(ことばじち)」が転じたものとされているが、正確な漢語の由来は不明。
「言質」は現在では「げんち」と読むのが一般的です。「げんしつ」や「げんしち」でも読めないことはないですが、これらの読み方は慣用読みといって主流のものではありません。元になった語源などの経緯から考えましても、「げんち」と読むのが妥当だと言えます。