言語と他者 要約 解説 意味調べノート あらすじ 漢字

『言語と他者』は、熊野純彦による文章です。高校教科書・論理国語にも採用されています。

ただ、本文を読むと筆者の主張が分かりにくいと感じる箇所も多いです。そこで今回は、『言語と他者』のあらすじや要約、意味調べなどを解説しました。

『言語と他者』のあらすじ

 

本文は、五つの段落から構成されています。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。

あらすじ

①この世界に生まれた私は、ことばを手に入れ獲得する。ことばが獲得されるものであるならば、ことばを現に使用していることは、その所有を意味しているように思われる。

②ことばを獲得するとは、ことばが名ざし、言語が切りわける世界を手にすることである。ことばの獲得とは一つの世界の領有である。それはことばによって囚われること、ことばの手に落ちることでもあるが、それだけだろうか。

③ことばだけが、<もの>たちに変わらないなまえを与え、変化の過程そのものを名ざして分類する。しかし、絶えず変化する世界は、ことばから逃れてゆく。ことばによる世界の所有は、その喪失でもある。

④ことばを使用すること、ことばを語りだすこと自体が、ことばによる世界の所有をくつがえす。ことばで名ざすことは、他者とのかかわりを前提とするふるまいである。ことばによる指示において<もの>は他者に差しだされ、<他者のもの>ともなる。こうして世界は共有され、私は他者とともに共通の世界にあずかることになる。

⑤指示することは<贈与>となる。ことばは、他者に対して語られるとき、世界の所有というよりも、私からの贈与に近いものとなる。そして、ことばの意味を介して<もの>を他者たちと分かちあうことが可能になり、ことばの意味と無限な反復可能性は、対象を他者に対しても呈示可能なものとする。言語による一般化とは、他者との関係を不断にはらみつづけ、その関係を更新しつづけるものである。

『言語と他者』の要約&本文解説

 

200字要約人はことばを獲得することで、ことばが切り取る世界を所有するが、それは同時に、変化し続ける現実がことばから逃れていくという喪失でもある。ことばで名ざすことは他者との関係を前提とし、<もの>は他者に差し出され、共有される対象となる。ことばは他者に対して語られるとき、贈与に近いものとなり、意味を介して世界を分かち合う手段となる。その反復可能性は、他者との関係を絶えず生み出し、更新しつづけるものである。(199文字)

筆者の主張を簡潔にまとめると、 「ことばとは、単に世界を所有する手段ではなく、他者と共有し、つながるための贈り物である」ということです。

ことばを手にすること=世界を所有すること?

私たちは、生まれてから少しずつことばを覚えていきます。ことばを手にするということは、目の前のものに名前を与えたり、気持ちや考えを表現できるようになるということです。

たとえば「机」や「悲しい」といった言葉を使えば、身の回りの物事を理解したり伝えたりできるようになります。

このように、ことばの獲得は「世界を理解し、自分のものとして扱えるようになること」と考えることができます。ここから、「ことばを手に入れる=世界を“所有”すること」とみなす考え方が生まれてくるのです。

本当に「所有」しているといえるのか?

しかし筆者は、この「所有」という考え方に疑問を投げかけます。たしかに、ことばを使えば世界を理解できるようになります。

しかしその反面、ことばに従うことで、私たちは“ことばのルール”に縛られ、ことばの枠組みに囚われてしまっているのではないか、という指摘がされています。

ことばは世界を切り分けるが、世界は変わり続けている

たとえば「花」という言葉を使うとき、咲きかけの花も、満開の花も、しおれた花も、すべて「花」と一括りにしてしまいます。このように、ことばは変化するものに対して、変わらない名前を与えてしまう性質を持っています。

ことばで世界を「持っている」と思っても、実際にはその変化のすべてをとらえきれているわけではありません。ことばによって世界を獲得することは、同時にその豊かな変化の一部を失ってしまうことでもあるのです。

ことばは「他者」と関わるための手段

筆者が強調するのは、ことばが「他者との関係の中で使われる」という点です。私たちは、ことばをただ独り言のように使うのではなく、誰かに向けて話し、伝え、反応を受け取ります。つまり、ことばは“共有”のための道具でもあるのです。

ことばを使うことは、世界の一部を他者に差し出す行為であり、そうすることで私たちは「世界を他者とともに持つ」ことができるようになります。

ことばは「贈り物」のようなもの

最終的に筆者が伝えたいのは、「ことばとは、他者に贈るものである」ということです。

ことばは、自分の世界を他者に渡し、共有するためのプレゼントのようなものです。意味を介して伝えられたことばは、他者にもその世界を経験させ、共有させてくれます。

このように、言語は単なる所有の手段ではなく、他者との関係を築き、更新していく力を持つものなのです。

まとめ:筆者の主張

  • 人はことばを通して世界を理解できるようになるが、それは、自分だけのものにすることではない。
  • ことばは本質的に他者との関わりの中で使われ、他者とともに世界を共有するための“贈り物”のような存在である

これが筆者の主張です。

『言語と他者』の意味調べノート

 

【断片的(だんぺんてき)】⇒全体の一部だけで、つながりがはっきりしないさま。

【介する(かいする)】⇒間に入って関係をつなぐ。

【事物(じぶつ)】⇒事柄や物。

【輪郭(りんかく)】⇒物の外形を示す線。物の大まかな形。

【浸透(しんとう)】⇒しみとおること。ゆっくりと中まで入り込むこと。

【不断(ふだん)】⇒絶え間なく続くこと。

【火影(ほかげ)】⇒火の光。特に、火に照らされた影や光。

【かたどる】⇒形をまねて作る。

【法外(ほうがい)】⇒程度がひどすぎること。常識から外れていること。

【剰余(じょうよ)】⇒余り。使ったあとに残ったもの。

【喪失(そうしつ)】⇒大切なものをなくすこと。

【消息(しょうそく)】⇒物事の動きや成り行き、またはその内容。

【享受(きょうじゅ)】⇒受け入れて楽しむこと。

【譲渡(じょうと)】⇒他人にゆずり渡すこと。

【前出(ぜんしゅつ)】⇒文章で、それより前に示してあること。また、そのもの。

【装丁(そうてい)】⇒本の表紙や見た目のデザイン。

【遂行(すいこう)】⇒物事を最後までやりとげること。

【かくて】⇒このようにして。こうして。

【あずかる】⇒関係する。関与する。

【贈与(ぞうよ)】⇒物を無償で相手に与えること。

【剥奪(はくだつ)】⇒権利や資格などをうばいとること。

【差異(さい)】⇒ちがい。差。

【顧慮(こりょ)】⇒気にかけて配慮すること。考えに入れること。

『言語と他者』のテスト対策問題

 

問題1

次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。

①信頼をカクトクする。

②顔のリンカクを描く。

③記憶をソウシツする。

④芸術をキョウジュする。

⑤金品をゾウヨする。

解答①獲得 ②輪郭 ③喪失 ④享受 ⑤贈与
問題2「このことをことばによる世界の所有と呼ぶとするならば、」とあるが、「このこと」とは何か?
解答ことばが、絶えず変化する世界や<もの>たちに変わらないなまえを与え、変化の過程を名ざして分類すること。
問題3「ことばの獲得とはひとつの世界の領有である」とは、どういうことか?
解答ことばを手にするということは、ことばが名ざし、言語が切り分ける世界をじぶんのものとして、その世界に住まい、住みなれてゆくことである、ということ。
問題4「ことばによる世界の所有はその喪失でもある」とは、どういうことか?
解答ことばは、世界とその内部に存在する存在者や、それらの変化の過程をとりまとめ、かたどるが、それらは絶えず変化して、ことばから逃れるということ。
問題5「言語による一般化」とは、どのようなものか?
解答他者との関係そのものを不断にはらみつづけ、またその関係を更新しつづけるもの

まとめ

 

今回は、『言語と他者』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。