「FAX(ファックス)」という言葉は、私たちにとって非常になじみがあるものです。会社での業務においてもよく用いられています。
ただ、この場合、「ファックス」と「ファクシミリ」のどちらを使えばよいのかという問題があります。さらに、状況によっては「ファクス」などと言うこともあります。
本記事では、これらの言葉の違いや使い分けについて詳しく解説しました。
ファックスとファクシミリの意味
まず、それぞれの意味を辞書で引いてみます。
ファックス【fax】
①⇒ファクシミリ
②ファクシミリで送信すること。また、送信されたもの。「訂正原稿をファックスする」
出典:デジタル大辞泉(小学館)
ファクシミリ【facsimile】
①文字・図形などを電気信号に変えて電話回線で送り、受信側で原画と同様な画像を紙面に再現する通信方式。また、そのための機械。ファックス。
②書物・絵画・原稿などの、複製。複写。模写。複製本。コピー。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
国語辞典では、「ファックス」ではなく「ファクシミリ」の方が詳細に記述されています。
「ファックス」の方は見出しはありますが、「⇒ファクシミリ」「ファクシミリを見よ」などと簡易的に表記されているものが多いです。
「ファクシミリ」は英語の「facsimile」から来た言葉で、「文章や絵画などの正確な複製」という意味で使われていました。
しかし、現在では「文字や図形などを電気信号に変えて電話回線で送る通信方式」という意味で使われ、通称ファックス(fax)とも呼ばれています。
元々、「ファクシミリ」は日本においては新聞社だけが使っていたものでした。
朝日新聞では、本社(東京)と北海道札幌支社間で1956年にファクシミリの使用が開始され、1959年からファクシミリによる朝夕刊が北海道で発行されるようになりました。
そして、全国紙が各支社に向けて全国的ニュースを含む紙面をファクシミリで送る形態が増えるようになります。
その後、1972年にNTT(日本電信電話株式会社)が「公衆電機通信法」の改正を機に、電話交通網にて「ファクシミリ」を使用できるようにしました。さらに、1973年に認可申請をし、その年に商用化されました。
しかしながら、「ファクシミリ」が一般化されるにつれ、正式名称ではなく略称として呼ばれることが増えるようになりました。
その結果、現在では「ファックス」という呼び名が一般化されるようになったということです。
ファックスとファクシミリの違い
以上の事から考えますと、「ファクシミリの略称としてファックスが用いられるようになった」ということが分かります。
つまり、「ファクシミリ―」が正式名称、「ファックス」が略語ということです。
したがって、どちらか一方が間違いでもう片方が正しいというわけではありません。意味としては両方とも変わらないので、使い手の好みの問題ということになります。
ただ、一般的には「ファックス」の方が使われる傾向にあります。これは様々な理由が考えられますが、一番には「呼びやすさ」すなわち「発音のしやすさ」が挙げられます。
外来語を日本語として発音する場合、語尾が「ミリ」よりも「クス」の方が発音がしやすいです。身近な外来語をみても、語尾が「ミリ」で終わるような単語はほとんどありません。
このような発音上の理由により、次第に「ファックス」の方が一般化されていったのだと思われます。
「ファクシミリ」の方も使われていないわけではありませんが、こちらは裁判所や法律事務所など限定的な場面で使われることが多いです。一般企業や各家庭などでは、通常は「ファックス」を用います。
なお、「ファクシミリ―」の本来のスペルは「facsimile」ですが、略語だと「facs」ではなく「fax」と表記されています。
これは単に、英語圏でそのような表記が定着したからという理由に過ぎません。「Thanks」を「Thx」 や「 Thanx」などと表記するのと同じ理由です。
ファクスとは?ファックスとの違いは?
似たような言葉で、「ファクス」が使われることもあります。「ファクス」とは「外来語を短くするために発生した表記」のことです。
外来語の表記は、通常、「ソックス」「サックス」「シックス」「エックス」などのように「ッ」が入るのが基本ルールです。
しかしながら、工業製品などではメーカー自身が「ッ」を入れずに表記をするような場合があります。
例えば、大手電機メーカーのキャノンでは「ファックス」ではなく「ファクス」と表記しています。
その他には、「コンピューター」を「コンピュータ」と表記したり、「プリンター」を「プリンタ」などと表記するメーカーも存在します。
したがって、これらの言葉の違いは、各メーカーが独自に使い始めた表記のゆれと考えるのが妥当です。
すなわち、意味自体には違いはなく、どちらも同じ意味として使ってよいということです。
他にも表記の揺れのあるものとしては、
- 「レーンコート」⇒「レインコート」
- 「ティーンエージャー」⇒「ティーンネージャー」
- 「プラットホーム」⇒「プラットフォーム」
などが挙げられます。
いずれも左側が従来の基本形であり、右側が本来の形から派生していったものです。表記のゆれは外来語にはよくある現象なので、「ファクス」も似たような例と考えれば問題ありません。
なお、「ファクス」と表記するようになった理由として、英語のfucks(相手を罵倒する言葉)に聞こえやすいからというのは正しいものではありません。
なぜなら、「ファックス」でも「ファクス」でも同じく fucks に聞こえてしまうからです。
fax は母音が「ae」ですが、日本語の「ファクス」「ファックス」はいずれにせよ、fucks の「u」に近い発音です。
「ファクス」の場合は、「コンピュータ」などと同様に「言いやすいから」「文字が少なくて読みやすいから」という理由で生まれたと考えるのが妥当でしょう。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「ファックス・ファクシミリ」=文字や図形などを電気信号に変えて電話回線で送る通信方式。
「違い」=「ファクシミリ―」は正式名称。「ファックス」は略語。元々は「ファクシミリ」を使っていたが、次第に「ファックス」が用いられるようになった。
「使い分け」=一般的には「ファックス」を使えば問題ない。「ファクシミリ」は法律が絡む場面など限定的な時のみ。
「ファクス」=外来語を短くするために発生した表記。各メーカーが独自に使い始めた表記のゆれ。
「ファクシミリ」「ファックス」「ファクス」「FAX」は、いずれも同じものです。表記が違うだけで、実際の意味・内容は変わりません。ただ、状況や場面などによっては使い分けが必要になるので、そこだけは注意する必要があると言えます。