「ジレンマ」という言葉をご存知でしょうか?主に「ジレンマを抱える」「ジレンマに陥る」などのように使います。
ただ、この言葉の具体的なイメージがつかみにくいと感じる人も多いようです。また、似たような使い方をする「葛藤」との違いも気になるところです。
そこで今回は、「ジレンマ」の意味を具体例を交えてなるべく簡単に分かりやすく解説しました。
ジレンマの意味を簡単に
まず、「ジレンマ」の意味を調べると次のように書かれています。
【ジレンマ】
①自分の思い通りにしたい二つの事柄のうち、一方を思い通りにすると他の一方が必然的に不都合な結果になるという苦しい立場。板ばさみ。
② 〘論〙 三段論法の一。二つの仮言的判断からなる大前提と、その判断を選言的に肯定もしくは否定する小前提から、結論を導き出すもの。両刀論法。
出典:三省堂 大辞林
「ジレンマ」とは、簡単に言うと「どちらもデメリットを持っているので、選択に苦しむ状態」のことです。一言で、「板ばさみ」と言いかえても構いません。
簡単な例を挙げましょう。
Aさんはジャングルで道に迷ってしまいました。すると、前方には血に飢えた「トラ」が、後方には凶暴な「オオカミ」が現れました。
不幸なことに、前に進んでも後ろに進んでも、どちらにしてもAさんは襲われてしまうでしょう。このような場面では、「Aさんはジレンマにおちいった」などと言うことができます。
もう一つ分かりやすい例を挙げます。
Bさんは家庭を持っている父親です。ある日、奥さんから「もう少し仕事を減らして子供と遊んでほしい」と頼まれました。
一方で、会社の上司からは「今は大事な時期なので、もっと働いてほしい」と頼まれました。
Bさんは、「仕事」を取るか「休み」を取るかの二者択一に追い込まれました。仕事を選択すれば奥さんとの関係が悪化し、休みを選択すれば上司との関係が悪化します。
このような状況はまさに、「Bさんはジレンマを抱えている」と言えます。
つまり、二者択一の状況でどっちを選んでも困難や苦痛が待っている状態を「ジレンマ」と言うわけです。
元々「ジレンマ」は、ギリシャ語の「dilemma」を由来としてできた言葉です。
ギリシャ語では、「di」は「2つ」、「lemma」は「課題・問題」を表すことから、「ジレンマ」は「問題が2つあること」を意味していました。
転じて、「2つの問題に苦しむこと」という意味になったわけです。
なお、選択肢が3つある場合は「トリレンマ」とも言います。「トリレンマ」とは「3つの問題が絡み合って選択に苦しむ状態」のことです。
ジレンマの使い方
「ジレンマ」は、主に次のような使い方をします。
論理学としてのジレンマ
「論理学としてのジレンマ」は、最初の辞書の説明だと次のように書かれています。
難しそうな記述ですが、言っている内容は先ほどの例とほとんど同じです。
A=「前にトラがいるが、進む」
B=「後ろにオオカミがいるが、戻る」
C=「襲われる」
A~Cを上のように定義すると、以下のような論理が成立します。
- 「AまたはBである」
- 「AならばCである」「BならばCである」
- 「よって、Cである」
このような結論を出す方法が、論理学としてのジレンマだと考えてください。
論理学では、「AとBのどちらであってもCが導かれること」を「ジレンマ」と言います。
難しい言い方だと、「両刀論法(りょうとうろんぽう)」とも言います。
「両刀論法」は、議論の相手を困らせる論法としてよく使われます。
分かりにくいと感じる人は、単に「2つの仮定から同じ結論が導かれる」と覚えても構いません。
ジレンマは「板ばさみ」の意味で使うことが基本ですが、実際には論理学としての意味で使われることも多いです。
ゲーム理論によるジレンマ
「ジレンマ」は、「ゲーム理論」においても使われる言葉です。ゲーム理論の中で最も有名なのが、「囚人のジレンマ」と呼ばれるものです。
ある犯罪で捕まった2人の囚人が、それぞれ別々の部屋に閉じ込められることとなりました。両者は顔も見えない離れた部屋にいるので、お互いにコミュニケーションを取ることはできません。
この2人が取る選択肢は、罪を正直に「自白する」か「自白しないか」の2択です。どちらを選択するかによって、お互いの刑の重さが変わってきます。
① 2人とも自白をした場合はどちらも懲役5年。
② 2人とも自白をしなかった場合はどちらも懲役2年。
③ 1人が自白をしてもう1人が自白をしなかった場合、自白をした方は無罪。ただし、自白をしなかった方は懲役10年。
この問題のポイントは、お互いの顔が見えない中、彼らは黙秘するのか?それとも相手を裏切って自白するのか?ということです。
囚人2人にとって、お互いが協力してどちらも自白をせずに懲役2年になるのが一番の理想と言えます。
しかし、もしも自分が自白をしないで相手が自白をした場合、自分だけが懲役10年というとんでもないペナルティーになってしまいます。
そのため、囚人たちは考えに考えた結果、最終的には互いに裏切り合って自分だけの利益を追求し、「どちらも正直に自白する」という結末を迎えます。これが「囚人のジレンマ」と呼ばれる理論です。
ゲーム理論の考えでは、一見すると自分にとって得になると思われる選択でも、実は自分を苦しめてしまう選択となりえるのです。
安全保障のジレンマ
「安全保障のジレンマ」とは「自国の安全を高めるために行った行動が、逆に自国の安全を脅かしてしまうこと」を表した言葉です。
例えば、ある国が自国の安全性を高めるために強力なミサイルを開発したとします。
ところが、その影響で他の国も危機感を感じ、自分たちの安全を守るために同じようなミサイルを開発しました。
結果的に、自国の周りは軍備強化された国ばかりで埋め尽くされてしまったとします。
このような状況は、安全保障政策を進める前よりも、国際的な緊張が高まってしまったと言えます。
また、自国だけで見れば良い選択であっても、世界単位で見ればネガティブな状況になっていると言えます。
よって、どちらを選択しても苦難に陥っているという意味で、「安全保障のジレンマ」と呼ぶのです。
ジレンマの類義語・対義語
続いて、「ジレンマ」の「類義語」と「対義語」を紹介します。まずは、類義語からです。
「ジレンマ」は「望ましくない選択肢から1つを選ばなければいけない状態」を表すものでした。したがって、「苦境」や「窮地」「対立」といった言葉が主な類義語となります。
この中では、「板挟み」はほぼ同じ意味なので「同義語」と言えるでしょう。ただし、「ジレンマ」と「葛藤」は厳密には異なる言葉なので補足をしておきます。
ジレンマと葛藤の違い
「葛藤」の意味は、辞書で引くと次のように書かれています。
【葛藤(かっとう)】
① 人と人とが譲ることなく対立すること。争い。もつれ。
② 心の中に相反する欲求が同時に起こり、そのどちらを選ぶか迷うこと。コンフリクト。
③ 禅宗で、解きがたい語句・公案、また問答工夫の意。
出典:三省堂 大辞林
「葛藤」は、「葛(かずら)」や「藤(ふじ)の蔓(つる)」がもつれて絡み合う様子を表した言葉です。すなわち、「植物が複雑に絡み合っている様子」からできた言葉ということです。
「葛藤」には、「2つの事柄の間で」という取り決めは特にありません。「葛藤」は「2つまたはそれ以上の欲求や意向が相反し、1つに定まらない状態」を指します。
したがって、「ジレンマ」や「トリレンマ」の意味も含んだ広い意味の言葉だと言えます。
さらに付け加えると、「葛藤」は自分の心の中であれこれと悩む複雑な心理状態を指しています。一方で、「ジレンマ」は「葛藤」を生み出す原因となっている問題そのものを指しています。
つまり、前後関係としては、「ジレンマに陥った後、葛藤する」のです。「ジレンマに悩んだり苦しんだりしている状態が葛藤」とも言えるでしょう。
ジレンマの対義語
「ジレンマ」の「対義語」と厳密に呼べるものは存在しません。しいて挙げるならば、「カタルシス」が挙げられるでしょう。
「カタルシス」とは「抑えられていた感情が解放され、心の中がすっきりすること」です。
「カタルシス」は、元々はギリシャ語で「排泄」を意味する言葉で、「精神の浄化」などと訳されることもあります。
ジレンマの例文
最後に、「ジレンマ」の使い方を実際の例文で紹介しておきます。
- 仕事と家庭のどちらを選ぶか、彼はジレンマに陥ってしまった。
- お金と時間のどちらを選んでも、私にとってはジレンマである。
- 本当のことを話しても話さなくても、彼は処罰される。まさにジレンマだ。
- 彼女は、生きるか死ぬかという究極のジレンマを抱えていた。
- 企業のビジネス戦略として、ジレンマに陥らないことは重要である。
- 「ヤマアラシのジレンマ」という話は、非常に教訓になる逸話である。
最後の「ヤマアラシのジレンマ」とは、精神科医のフロイトが考えた話です。
これは人間関係にも言えることで、「お互いの程良い距離感が大事である」という教訓を表した話だと言えます。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「ジレンマ」=どちらもデメリットを持っているので、選択に苦しむ状態。
「使い方」=「論理学・ゲーム理論・安全保障」など。
「類義語」=「板挟み・窮地・苦境・ピンチ・葛藤・対立・衝突・不和」
「葛藤」=心の中に相反する欲求が起こり、どれを選ぶか迷うこと。「ジレンマに陥った後、葛藤する」
「ジレンマ」は、様々な場面で使われている言葉です。これを機にぜひ正しい意味を理解して頂ければと思います。