『サイボーグとクローン人間』は、教科書・現代の国語で学習する文章です。そのため、定期テストの問題にも出題されています。
ただ、本文を読むと筆者の主張が分かりにくいと感じる箇所も多いです。そこで今回は、『サイボーグとクローン人間』のあらすじや要約、意味調べなどをわかりやすく解説しました。
『サイボーグとクローン人間』のあらすじ
本文は、四つの段落から構成されています。ここでは、各段落ごとのあらすじを紹介していきます。
①アメリカのロボット研究の現状を見ると、文明の行方について改めて考えさせられた。研究の一つの方向は、ロボットの精神的な能力を拡張し、判断力や感情さえ持った機械を造ろうという試みである。もう一つの方向は、人間の身体の一部を機械で置き換え、脳と機械を直結するサイボーグを造ろうという動きである。不思議なのは、現場の研究者も評論家も、こうしたロボットやサイボーグの研究にきわめて楽天的なことだ。クローン人間の研究には嫌悪感や忌避を示していたのとは対照的である。これは、人間を神の被造物と見るキリスト教の思想だろうが、その禁忌が機械的な人間の製造や改造に及ばないことが印象深い。
②クローン人間の誕生は、非人間的な事件ではない。クローン人間とは、子が親と同一の遺伝子を持って生まれることだが、同一の遺伝子の共有は、必ずしも個性の否定にはつながらない。人間の個性は環境や教育に左右されるところが多く、遺伝子だけでは決定されない。また、クローン人間は人造人間ではなく、そこには当然、家庭が生まれ、親子の愛や葛藤も芽生えるはずで、子どもが感情の砂漠の中で育つ心配は少ない。しかも、優生学的改良に直結する懸念も薄い。これに比べると、ロボットやサイボーグは人間の恣意に従いやすく、特定の価値観や世界観の奴隷になる危険が高い。肉体の腕よりも強い義手は、強いことはよいことだという思想の実現であり、より多く環境を支配したいという無意識の願望の反映と言える。クローン技術は、生命の法則に対しては受動的であり、細胞核を入れ替えた後の過程に手を出すことはできない。だが、身体を機械で置き換える技術はどこまでも能動的であり、細部まで人間の思うとおりに造り上げてしまう。しかも、そうして造り上げた身体はやがて心に影響を及ぼし、人間の考え方や生き方を思いがけぬものに変化させる。身体が機械になり心が神になれば、二十世紀までの文明を終わらせる恐れさえある。
③サイボーグ肯定の思想の背後にあるのは、近代の脳中心の人間観である。心と身体を二つに分け、心は脳に宿っていると考える先入観である。科学者を含めた大多数の現代人は、この二元論を信じて、身体を取り替えても心の同一性は守れると感じている。また、現代人は個人の福祉を絶対視し、現に生きている人の幸福を至上命題と考えている。障害者や高齢者に補助器具を提供し、身体能力を回復することは正義だという世論を、現代人は疑うことはできない。おそらくサイボーグは二十一世紀の「超人」を生むのだろうが、それは平均的生活を求める庶民のいじらしい願望がもたらすことになりそうだ。
④文明とはいつの時代も変わるものであるし、合理的な「進歩」と無関係に変化するものである。文明を変えるのは、冒険的な好奇心ではなく、ある時代に最も常識的な、社会の通念でありえるという逆説である。人々が「危険」な好奇心を警戒しているうちに、ひそかに安全な良識がそれ自体の足元を覆してしまう。それが人間の悲しさというべきか、尽きない魅力の源泉というべきだろうか。
『サイボーグとクローン人間』の要約&本文解説
この文章で言いたいことは、「文明は理性的な判断や科学技術の進歩だけでなく、その時代の『常識』という価値観によって変わる」ということです。
現代では、ロボットやサイボーグの技術がどんどん進んでいますが、それに対して人々はあまり疑問を持たず、むしろ歓迎しています。
一方で、クローン人間の研究には強い拒否感を示す人が多いです。しかし、よく考えてみると、クローン技術は遺伝子の同じ人間を作るだけで、それ自体が危険なわけではありません。
むしろ、サイボーグ技術の方が、機械の力によって人間の考え方や価値観まで変えてしまう可能性が高いです。それなのに、人々がそこに危機感を抱かないのは不思議だということを筆者は指摘しています。
この違いが生まれる理由の一つが、「身体と心を別々のもの」と考える近代的な価値観です。多くの人は、身体を機械に置き換えても「心は変わらない」と信じているため、サイボーグ化を肯定しやすいです。
そのため、機械の身体が心に影響を与え、社会全体の価値観まで変えてしまうかもしれないという考えを疑うことはしないのです。
そして筆者は、文明の変化は「人々の冒険的な好奇心」ではなく、「その時代の常識的な社会通念(普通の考え方)」によって進んでいくと述べています。
これはつまり、多くの人が「当たり前」「正しい」と思う常識が、気づかぬうちに文明の方向性を決めてしまうということです。それが人間の悲しさでもあり、同時に人間らしさでもある、というのが本文の結論となります。
『サイボーグとクローン人間』の意味調べノート
【精妙(せいみょう)】⇒細かく優れていて、巧みなこと。
【感受(かんじゅ)】⇒感じ取ること。
【究極(きゅうきょく)】⇒物事を突き詰めていった最後の到達点。
【四肢(しし)】⇒両腕と両脚のこと。
【楽天的(らくてんてき)】⇒物事を良い方向に考え、くよくよしないさま。
【嫌悪(けんお)】⇒強く嫌うこと。
【勧告(かんこく)】⇒あることをするようにすすめること。
【対照的(たいしょうてき)】⇒二つのものがはっきりと対比されているさま。
【忌避(きひ)】⇒嫌って避けること。
【被造物(ひぞうぶつ)】⇒神によって創られたもの。
【禁忌(きんき)】⇒してはいけないとされること。タブー。
【葛藤(かっとう)】⇒心の中で相反する感情がぶつかり合うこと。
【懸念(けねん)】⇒気にかかって不安に思うこと。
【保証(ほしょう)】⇒確実であると認め、責任を持つこと。
【先天的(せんてんてき)】⇒生まれつき備わっていること。
【恣意(しい)】⇒自分勝手な考えで行動すること。
【世界観(せかいかん)】⇒世界や人生に対する考え方。
【忘却(ぼうきゃく)】⇒すっかり忘れること。
【受動的(じゅどうてき)】⇒自ら動かず、他からの働きかけを受けるさま。
【能動的(のうどうてき)】⇒自ら進んで行動するさま。
【傲慢(ごうまん)】⇒思い上がって人を見下すこと。
【思いなす(おもいなす)】⇒そうだと考える。思い込む。
【倫理的(りんりてき)】⇒道徳や善悪の基準にかなっているさま。
【即断(そくだん)】⇒すぐに決めること。
【紛れもない(まぎれもない)】⇒疑う余地がない。明らかである。
【先入観(せんにゅうかん)】⇒最初に持った固定的な考え。偏った見方。
【哲学(てつがく)】⇒人生や世界の根本を探究する学問。
【相互作用(そうごさよう)】⇒二つのものが互いに影響を及ぼし合うこと。
【二元論(にげんろん)】⇒対立する二つの要素で物事を説明する考え方。
【専有物(せんゆうぶつ)】⇒特定の個人や集団が独占するもの。
【至上命令(しじょうめいれい)】⇒何よりも優先すべき命令。
【追い風(おいかぜ)】⇒物事がうまく進むような有利な状況。
【警世の論(けいせいのろん)】⇒世の中の人々に警告を与える主張。
【通念(つうねん)】⇒世間一般に広く受け入れられている考え。
【逆説(ぎゃくせつ)】⇒一見すると矛盾しているが、実は真理を含んでいること。
【良識(りょうしき)】⇒常識的な考え方。
【源泉(げんせん)】⇒物事の生じるもと。
『サイボーグとクローン人間』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①カンジュ性が高い人。
②医者からのカンコクを無視する。
③彼は責任をキヒして逃げた。
④大切な思い出がボウキャクされる。
⑤知識のゲンセンは読書にある。
本文中の「通念」の意味として最も適切なものを、次の中から選びなさい。
(ア) 一般的に広く認められている考えや価値観
(イ) 未来に対する不安や心配
(ウ)特定の人だけが持つ特別な信念
(エ)矛盾しているように見えるが真実を含む考え
次のうち、本文の主張として最も適切なものを選びなさい。
(ア)文明の発展は科学技術の進歩によってのみ決まる。
(イ)クローン技術は倫理的に問題があり、サイボーグ技術は安全である。
(ウ)文明の方向性は、理性ではなく、その時代の常識によって決まる。
(エ)人間はどんな技術にも同じ基準で賛成または反対する。
まとめ
今回は、『サイボーグとクローン人間』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。