事件や事故などのニュース速報で、「命にべつじょうはない」という言い方がよくされます。ただ、この場合漢字の書き方が問題になってきます。
つまり、「別状」と「別条」のどちらが正しい表記なのか?ということです。そこで本記事では、両者の違いについて詳しく解説しました。
別状の意味
まずは、「別状」の意味からです。
【別状(べつじょう)】
⇒普通と変わった状態。異状。
出典:三省堂 大辞林
「別状」とは「普通と変わった状態」という意味です。一言で「異状」と言い換えることもできます。
例えば、「事故にあったが、命に別状はなかった。」などのように用います。この場合はつまり、「命に対して変わった状態はなかった」⇒「無事だった」という意味です。
「別状」は、一般に「命に別条はない」「命に別状はありません」などの言い方が多いです。事件や事故のニュースでよく使われる表現で、主に怪我人や病人の安否を伝えるような際に使います。
別条の意味
続いて、「別条」の意味です。
【別条(べつじょう)】
⇒変わった事柄。
出典:三省堂 大辞林
「別条」とは「変わった事柄」という意味です。言い換えると、「他とは違った事柄」ということです。
使い方としては、「当方は別条なく暮らしております。」などのように用います。この場合は「特に変わったことはなく無事に暮らしている」という意味です。
「別条」は例文のように、後ろに「~なく」という言葉がつくことが多いです。もちろん、「別条はない」という使い方もできます。
別状と別条の違い
ここまでの内容を整理すると、
「別状」=普通と変わった状態。「別条」=変わった事柄。
ということでした。
この二つにはどのような違いがあるのでしょうか?
まず、それぞれの漢字の語源を比較してみると、「別状」の「状」は「状況」「状態」「実情」などの語からきています。
「状」には、元々「すがた・かたち」という意味がありました。ここから転じて、「様子・状態」などの意味になったのです。
一方で、「別条」の「条」は「箇条」「条項」「条約」などの語からきています。
「条」は元々「細長い枝」という意味があり、そこから「ひとくだりずつに書き分けた文」という意味になりました。転じて、「事柄・こと」という意味になったのです。
整理すると、
「別状」=普通のときと特に変わった状態。
「別条」=普通のことと特に変わった事柄。
となります。
つまり、ほとんど同じ意味だがわずかに違いがあるということです。
ただ、違いがあると言っても「状態」と「事柄」というのは、境界があいまいな場合もあります。そのため、実際には両者の違いは意識されない場合がほとんどと言っていいです。
別状と別条の使い分け
以上の事から、「別状」と「別条」の使い分けはどちらを使ってもよいことになります。ただ、一般的には「別条」の方がよく使われています。
まず、新聞やテレビなどの報道機関は「別条」の方を使うことで統一しているようです。逆の言い方をすると、「別状」の方は使わないということです。
メディアというのは、漢字の混同を嫌う傾向にあるため、まぎらわしい漢字がある場合は一つに統一するのです。
基本的にはメディア以外の業界もこのルールに則り、「別条」の方を使っているようです。そのため、迷った場合は原則として「別条」を使えば問題ありません。
では、なぜ「別条」の方に統一しているのかということですが、これはおそらくですが漢字の歴史に基づいた判断だと思われます。
「別条」の方は江戸時代の頃から、浄瑠璃や滑稽本などに多くの用例が載っています。以下、実際の用例です。
内の用心を見やうと思って、手燭を持って表裏を見たが、別条もなし。
出典:浮世風呂 全編上
「イヤ、別条があるよふだ。」
出典:東海道中膝栗毛 二編上
御修行のお方と聞けば別条もあるまい。
出典:一谷嫩軍記 二段目
一方で、「別状」の方は比較的最近の近代の文学作品から登場しています。
命に別状はなさそうだが、ものの役に立つかどうかあやぶまれた。
出典:幸田文「おとうと」
「詰めてなさって、根気なことでございますなぁ」といってきた番頭にも別状はなかった。
出典:中野重治「むらぎも」
「ハイ、御蔭様で別状も無いようですが、」
出典:木下尚江「火の柱」
このように過去の作品を見ていくと、元々「別条」と書いていたものを時代と共に「別状」と書くようになったという経緯が判明します。
「べつじょう」には「異状」という意味もあります。そのため、近代になって同じ「状」を使った「別状」を用いる習慣が広まったのでしょう。
まとめ
以上、今回は「別状」と「別条」について解説しました。
「別状」=普通のときと特に変わった状態。
「別条」=普通のことと特に変わった事柄。
「使い分け」⇒原則として「別条」の方を使う。(メディアは別条で統一)
両者は意味自体はわずかに違いますが、「状態」と「事柄」は境界があいまいなこともあります。そのため、メディアは「別条」で統一しています。漢字本来の歴史から言えば、「別条」が元からあり、「別状」は後から使われるようになったものだと覚えておきましょう。