「片腹痛い」という慣用句があります。気になるのは、「片腹」という言葉ではないでしょうか。
なぜただの腹ではないのか?といった疑問を抱く人が多いと思われます。そこで本記事では、「片腹痛い」の意味や由来、使い方・類語などを含め詳しく解説しました。
片腹痛いの意味・読み方
最初に、読み方と基本的な意味を紹介します。
【片腹痛い(かたはらいたい)】
⇒他人が実力以上のことを行っているのが、こっけいで苦々しく感じるさま。笑止千万。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「片腹痛い」は「かたはらいたい」と読みます。
意味は、「他人が実力以上のことをしているのが、おかしくてたまらないこと」を表したものです。辞書の説明の「こっけい」とは、簡単に言うと「バカバカしい様子」のことです。
例えば、学年一頭の悪い生徒が東大を目指すと宣言したとします。東大というのは日本で一番偏差値の高い大学です。普通に考えれば、そんな大学に学年ビリの子が合格できるわけがありません。
このような場面では、「彼の発言は片腹痛い。」などと言うことができます。
つまり、「片腹痛い」とは身の程知らずなバカげた行動をとる人の様子を表した慣用句ということです。逆に言えば、とんでもなくバカげた人でない限り使われない言葉ということになります。
片腹痛いの語源・由来
「片腹痛い」は、「古語」の「傍(かたわ)ら痛し」が誤って広まったものと言われています。
「傍ら」とは「すぐ近く・そば」、「痛し」とは「心が痛む様子」を意味します。つまり、「傍ら痛し」とは「そばで見聞きしていても、心が痛む様子」を表すことになります。
これが本来の意味だったのですが、なぜか時代と共に誤用が広まるようになりました。具体的には、中世以降、次のように言葉が変わっていったのです。
「傍ら痛し」⇒「傍ら痛い」⇒「片腹痛い」
詳しい理由は不明ですが、おそらくは発音の問題でしょう。「かたわら」は「かたはら」に近い発音のため、「かたはらいたい」だと「片方の腹が痛くなるほど笑える」という意味になります。
この意味だと、一応「ばかばかしい」というニュアンスに近くなります。そのため、片方の腹が痛くなるほどばかばかしいという間違った解釈が広まったのだと考えられます。
ただし、元々の意味としては「お腹」という要素は一切含まれていません。したがって、「お腹」のイメージはキレイさっぱり忘れてもらって結構です。
「片腹」に関してはあくまで「当て字」だと覚えておきましょう。「当て字」とは漢字本来の意味を無視した字が、一般に広まったものです。
片腹痛いの類義語
続いて、「片腹痛い」の類義語を紹介します。
全部で4つ紹介しましたが、「おかしな様子・バカバカしい様子」であれば基本的に類義語となります。また、本来の語源から言えば「近くで心が痛むこと」なので、「気の毒」などの語も類義語と言えるでしょう。
片腹痛いの英語訳
「片腹痛い」は、英語だと次のように言います。
「ridiculous(ばかげた・ばかばかしい)」
「absurd(おかしな・こっけいな)」
どちらも似たような意味を持った単語ですが、多少のニュアンスの違いがあります。「absurd」は、「ridiculous」よりもバカげた度合いが強く、まったく不合理なものを指します。
また、「absurd」のほうがフォーマルな文章に適している一方で、「ridiculous」はくだけた文章に対して使うのが適しています。
例文だと、それぞれ次のような言い方です。
That is a ridiculous idea.(それはバカげた考えだ。)
It’s absurd to argue from this problem.(この問題について議論する事自体こっけいである。)
また、「慢心」や「うぬぼれ」を表す「conceited」を使ってもよいです。
He is such a conceited fool.(彼はなんてうぬぼれた人なんだ。)
片腹痛いの使い方・例文
最後に、「片腹痛い」の使い方を例文で紹介しておきます。
- 知識も経験もなしでビジネスを始めるなんて片腹痛いよ。
- 万年最下位なのに優勝を目指すとは片腹痛い発言をするね。
- あの演技力で役者を目指す?片腹痛いとは君のことだよ。
- 素人がプロのボクサーに喧嘩を挑むなんて片腹痛いことである。
- 金があれば何でもできるなんて幻想だ。あなたの発言は片腹痛いよ。
- 上にはペコペコ、下には偉そうな態度。見ていて片腹痛くなるね。
「片腹痛い」は、例文のように身の程知らずなバカげた行動を取る人に対して使います。
ある意味では、用途が限定された言葉と考えても構いません。ただ、もしも使い方を間違えると相手をバカにした失礼な表現にもなりかねないため、注意が必要です。
例えば、「あなたの漫才は本当に片腹痛くなる」のような言い方は誤用と言えます。この場合だと、ほめているようで相手をバカにした意味になってしまうからです。
使う場面としては、実力と言動が明らかにかけ離れた人を対象とするようにしましょう。
また、「気の毒な」という意味で使うこともあるので注意が必要です。例文だと、最後の2つです。
この意味で使うことは少ないですが、本来の語源としては「気の毒な様子」から来ているため、こちらの意味も忘れずに覚えておくとよいです。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「片腹痛い」=他人が実力以上のことをしているのが、おかしくてたまらない。気の毒な。
「語源・由来」=古語の「傍ら痛し」が、誤って定着したことから。
「類義語」=「噴飯物・失笑噴飯・笑止千万・チャンチャラおかしい」
「英語訳」=「ridiculous」「absurd」
「片腹」は「当て字」です。元々は「片腹痛い」という言葉など存在しませんでした。ところが、時代と共に誤用が広まった結果、今の言葉が使われるようになったと覚えておきましょう。