「命題」という言葉は、一般に数学において使われています。ところが、実際は現代文の用語として使われることも多いです。
そこで今回は、現代文と数学の両方に注目して「命題」の意味を簡単に分かりやすく解説しました。後半では、合わせてよく使われる「対偶」や「逆」「裏」などにも触れています。
命題の意味を簡単に
まずは、基本的な意味からです。
【命題(めいだい)】
①題号をつけること。また、その題。名題。
②論理学で、判断を言語で表したもので、真または偽という性質をもつもの。
③数学で、真偽の判断の対象となる文章または式。定理または問題。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「命題」には全部で3つの意味がありますが、一般的には②の意味として使われます。そのため、まずはこちらの意味から解説していきます。
「命題」とは「真または偽という性質をもつもの」を表します。簡単に言えば、「本当かウソかを判定できる文のこと」だと考えてください。
例えば、以下のような文は「命題」と言えます。
- 犬は動物である。
- 人間は卵を産む。
- 植物は土から栄養を得る。
この場合、1は「本当」、2は「ウソ」、3は「本当」ということが判定できると思います。
一方で、以下の文はどうでしょうか?
- 早く勉強しなさい!
- 大学に合格したいなぁ。
- お化けは本当にいる。
1は「命令文」、2は「願望文」、3は「真偽がはっきりしない文」です。
これらの文は、本当かウソかを判定することができません。よって、「命題」とは言えないのです。
大事なのは、その文が本当かどうかではなく「ウソか本当かを判定できるかどうか?」です。
したがって、あからさまなウソのような文でもウソと判定できれば「命題」と言えるのです。
元々、「命題」という言葉は「論理学」の用語として生まれました。「論理学」とは、ある事実から別の事実を導く法則を明らかにする学問のことです。
例えば、以下のような「命題」があったとしましょう。
- 「全ての人間は死ぬ。」
- 「ソクラテスは人間だ。」
上記2つの「命題」から、「ソクラテスは死ぬ」という「命題」を導くことができます。この事を論理学では「三段論法(さんだんろんぽう)」と言うのです。
「三段論法」は、ギリシア時代に生まれた論理学の言葉です。「命題」という言葉は、本来はこのような使い方だったことになります。
命題を数学的に解説
「命題」は数学の問題としてもよく出題されます。「数学」の場合は「正誤を判定できる文章や式」という意味で使われます。
こちらも例を挙げましょう。以下の文や式は「命題」だと言えます。
- 2は偶数である。(正)
- 1+3=7(誤)
- 三角形の内角の和は180度である。(正)
いずれも、「正・誤」を判定できるのが分かるでしょう。一方で、以下の文は「命題」とは言えません。
- 100は大きい数字である。
- 7は幸運な数字である。
「100」という数字は、「1」から見れば大きいですが、「1億」から見ればかなり小さいです。そのため、「正・誤」が判断できないので「命題」とは言えないのです。
また、「7が幸運」というのはその人の個人的な意見であり、科学的に証明されているわけではありません。よって、この場合も「命題」とは言えないのです。
一般的には、数学において「命題の正誤のこと」を「真(しん)」や「偽(ぎ)」と言います。
命題が正しい場合は「その命題は真である」と言い、命題が正しくない場合は「その命題は偽である」と言います。
例えば、以下のような式があったとしましょう。
(1)1+2+3=7 (2)4×3=12
この場合、
(1)の命題は偽である。(2)の命題は真である。
などと言うわけです。
逆・裏・対偶とは
「命題」とセットで使われる言葉が、「逆」「裏」「対偶(たいぐう)」の3つです。
これらの言葉は重要な内容なので、確認しておきましょう。まず、それぞれの意味は以下の通りです。
「逆」=「仮定」と「結論」が入れ替わったもの。
「裏」=「仮定」と「結論」両方が否定されたもの。
「対偶」=「逆」にしてかつ「裏」にしたもの。
簡単な例を挙げます。
【命題】⇒卵を産めば、動物である。
- 【逆】⇒動物であれば、卵を産む。
- 【裏】⇒卵を産まなければ、動物でない。
- 【対偶】⇒動物でなければ、卵を産まない。
最初の文の「卵を産めば」の部分を「仮定」と言い、「動物である」の部分を「結論」と言います。この「仮定」と「結論」を逆さにして入れ替えることを「逆」と言います。
また、「仮定」と「結論」の位置はそのままで、文自体を両方とも否定することを「裏」と言います。さらに、「逆」と「裏」を両方組み合わせたものを「対偶」と言います。
ここで大事なのは「命題」と、その他3つ「逆」「裏」「対偶」の関係性です。まず、「命題」と「対偶」の真偽は必ず一致します。
つまり、「命題」が「真」であれば「対偶」も必ず「真」となり、「命題」が「偽」であれば「対偶」も必ず「偽」になるということです。
一方で、「命題」と「裏」、「命題」と「逆」の真偽は、必ずしも一致するとは限りません。ここが非常に重要なポイントとなります。
先ほどの例で言うと、
「卵を産めば、動物である。」=(対偶)「動物でなければ、卵を産まない。」
という式は成り立ちます。
しかし、後者が「逆」や「裏」の場合は、真偽が一致するとは限らないのです。
「卵を産めば、動物である。」≠(逆)「動物であれば、卵を産む。」
「卵を産めば、動物である。」≠(裏)「卵を産まなければ、動物でない。」
どちらの場合も、後者(逆と裏)は、犬や猫、ライオンなど卵を産まない動物は数多くいます。そのため、真偽は一致しないことが分かります。
基本的に「命題」を扱う時は、仮定と結論を入れ替えたり否定したりします。特に、数学の証明問題ではその傾向がみられます。
したがって、命題と合わせて「逆」「裏」「対偶」の3つは覚えておく必要があるのです。
命題の使い方・例文
最後に、「命題」の使い方を実際の例文で紹介しておきます。
- すべての命題は、真か偽のどちらかに分かれる。
- ツチノコは絶対にいるという主張は、命題とは言えない。
- 「ウイルスは生物である」という主張は一つの命題である。
- ある命題を数学的に証明すると、「定理」と呼ばれるようになる。
- 理論や命題などを深く追究していくのが、学者という仕事である。
- 命題の真偽を知るには、その命題の意味を前もって理解しておく必要がある。
- 「1+1=2」と「1+1=3」は、どちらも真偽が分かるので命題と言える。
「命題」という言葉を「至上命題」と言い、「課題・任務」の意味で使う場合もありますが、本来の意味からするとこれは誤用です。「最優先課題」「重大任務」などのように使うのが正しいです。
なお、「命題」とよく似た言葉で「テーゼ」があります。「テーゼ」とは「ある観念についての主張を立てることや政治的方針」を意味します。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「命題」⇒真または偽という性質をもつもの。数学の場合は、正誤を判定できる文章や式。
「逆」=「仮定」と「結論」が入れ替わったもの。
「裏」=「仮定」と「結論」両方が否定されたもの。
「対偶」=「逆」にしてかつ「裏」にしたもの。
現代文や数学を学ぶ上で「命題」という言葉は避けて通れません。この記事をきっかけにぜひ正しい意味を理解して頂ければと思います。