実体の美と状況の美 テスト問題 要約 解説 あらすじ 筆者の考え

『実体の美と状況の美』は、教科書・文学国語で学習する文章です。高校の定期テストの問題にも出題されています。

ただ、本文を読むと筆者の主張が分かりにくいと感じる箇所も多いです。そこで今回は、『実体の美と状況の美』のあらすじや要約、意味調べなどを解説しました。

『実体の美と状況の美』のあらすじ

 

この文章は、5つの段落から構成されています。以下に、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。

あらすじ

①ある先生から興味深い話を聞いたことがある。アメリカで「一番美しい動物は何か」と聞くと、具体的な答えが返ってくるが、同じ質問を日本人にすると、歯切れが悪く答えがはっきりしない。これは動物観の差異以上に、日本人とアメリカ人の美意識の違いをよく示すものと思われる。

②アメリカも含めて、西欧世界では、「美」はある明確な秩序を持ったもののなかに表現されるという考え方が強い。その秩序の内容はさまざまだが、いずれにしても客観的な原理に基づく秩序が美を生み出すという点で一貫している。ギリシャ彫刻では、「カノン(規準)」と呼ばれる原理に基づいて制作された彫刻作品そのものが「美」を表すものとなる。

③日本人は昔から、「実体の美」よりも「状況の美」を重視してきた。たとえば、「古池や蛙飛び込む水の音」という句で芭蕉は、古い池に蛙が飛びこんだ一瞬の状況にそれまでにない新しい美を見出した。また、『枕草子』冒頭の「春は曙。やうやうしろくなりゆく~」という冒頭は、模範的な「状況の美」であり、その感性は今も変わらずに生き続けている。

④「実体の美」は、そのもの自体が美を表しているため、状況が変わろうと、いつでもどこでも「美」であり得る。『ミロのヴィーナス』は、今日、パリのルーヴル美術館に並べられていてもその美しさに変わりはない。仮に砂漠の中に置かれていても、同じように「美」を主張する。だが、「状況の美」は状況が変われば当然消えてしまう。そのため、日本人は、美とは万古不易のものではなく、うつろいやすいもの、はかないものという感覚を育ててきた。

⑤実際、名所絵に見られるように、日本人にとっての美は季節などの自然の営みと密接に結びついている。日本の観光絵葉書を見てみると、モニュメントをそのまま捉えた西洋のものと異なり、満開の桜の下の清水寺や、雪に覆われた金閣寺など、季節のよそおいをこらしたものが多い。それもまた、「状況の美」を愛する日本人の美意識の表れだろう。

『実体の美と状況の美』の要約&本文解説

 

200字要約西欧では、明確な規準に基づく整った形そのものが美とされ、「実体の美」が重視されるため、作品が置かれた状況が変わっても価値は揺らがない。これに対し、日本では季節や一瞬の情景に美が生まれると考えられ、「状況の美」を大切にしてきた。俳句や『枕草子』、名所絵葉書に見られるように、日本の美意識は移ろう状況そのものに美を見いだす点に特徴がある。この違いから、美に対する判断基準は日本と西欧で異なるといえる。(198文字)

この文章の筆者は、日本と西欧の「美の感じ方」の根本的な違いを説明しています。ポイントは、西欧は“実体そのものの美”を重視し、日本は“状況によって生まれる美”を重んじるという対比です。

まずアメリカ人が「一番美しい動物」を即答できるのに対し、日本人は答えにくいという例が示されます。これは、日本人が美を固定的に考えず、「その時・その場の雰囲気」で美しさが変わると感じているためです。

西欧では、ギリシャ彫刻のように「カノン(規準)」という厳密な基準に基づいた形そのものが美とされます。そして、置かれた場所や状況が変わっても、美の価値は変わりません。これは、「実体の美」を象徴しています。

一方で、日本では、芭蕉の「古池や」や『枕草子』の「春は曙」のように、一瞬の情景や季節の移ろいに美が宿ると考えられます。たとえば、同じ清水寺でも、満開の桜の時期と雪景色の時期では感じる美がまったく違うという感覚です。これは「状況の美」と呼ばれ、日本人は「はかなく変わる美」を大切にしてきました。

観光絵葉書が、寺や神社そのものより「季節と組み合わせた風景」をよく採用するのも、この美意識の表れです。

このように、筆者の主張は、美とは文化によって捉え方が大きく変わるという点にあります。つまり、日本人の美意識の特徴を理解することで、文化の違いそのものを考えられるようになるということです。

『実体の美と状況の美』のテスト対策問題

 

問題1

次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。

イハン行為を注意する。

キンパクした空気になる。

アンイな判断は後悔を生む。

ヒガンには墓参りに行く。

⑤理論にイキョして説明する。

解答①違反 ②緊迫 ③安易 ④彼岸 ⑤依拠
問題2『ギリシャ人たちは、このような原理を「カノン(規準)」と呼んだ。』とあるが、「このような原理」とはどのような原理か?
解答紀元前四世紀のギリシャで成立した、人間の頭部と身長が一対八の比例関係にあるとき最も美しいというような、美を生み出す原理。
問題3『日本人のこのような美意識を最もよく示す例の一つは、「春は曙。~』とあるが、「このような美意識」とはどのような美意識か?
解答実体物として美を捉えるという考え方ではなく、どのような場合に美が生まれるかという「状況の美」に感性を働かせる美意識。
問題4『日本人は、季節ごとの美の鑑賞を、年中行事として特に好んで今でも繰り返している』とあるが、「繰り返している」のはなぜか?
解答日本人は、春の桜や秋の月などの季節ごとの美はうつろいやすいものであるがゆえに、いっそう貴重で愛すべきものという感覚をもち、特に好んでいるから。
問題5

次のうち、本文の内容を表したものとして 最も適切なもの を選びなさい。

(ア)西欧では季節や一瞬の変化を基準に美を判断し、日本では形そのものの秩序を重視する考え方が強い。

(イ)日本では形そのものに普遍的な美が宿ると考えられており、西欧では美は状況が変われば大きく揺れ動くとされている。

(ウ)日本と西欧はともに美を普遍的に捉える傾向が強く、両者の美意識には大きな差はないとされている。

(エ)日本は季節や一瞬の情景に美を見いだす「状況の美」を重んじ、西欧は形そのものに価値を置く「実体の美」を中心に考える。

解答(エ)

まとめ

 

今回は、『実体の美と状況の美』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。