
『小景異情』は、室生犀星に書かれた詩です。高校の教科書・文学国語にも取り上げられています。
ただ、実際にこの作品を読むと意味が分かりにくいと感じる部分も多いです。そこで今回は、『小景異情』の形式や解釈、現代語訳をわかりやすく解説しました。
『小景異情』の全文と読み方
小景異情<室生犀星> (しょうけいいじょう・むろうさいせい)
ふるさとは遠きにありて思ふもの(ふるさとはとおきにありておもふもの)
そして悲しくうたふもの(そしてかなしくうたふもの)
よしや(よしや)
うらぶれて異土の乞食となるとても(うらぶれていどのかたゐ(い)となるとても)
帰るところにあるまじや(かえるところにあるまじや)
ひとり都のゆふぐれに(ひとりみやこのゆふ(う)ぐれに)
ふるさとおもひ涙ぐむ(ふるさとおもひ(い)なみだぐむ)
そのこころもて(そのこころもて)
遠きみやこにかへらばや(とおきみやこにかへ(え)らばや)
遠きみやこにかへらばや(とおきみやこにかへ(え)らばや)
『小景異情』の意味調べノート
【ふるさと】⇒ここでは、作者のふるさとの「金沢」を指す。生後間もなく養子に出されたふるさとでの作者は、子供の頃から苦労が多かった。
【ふるさとは遠きにありて思ふもの】⇒ふるさとは、遠く離れているからこそ、なつかしく思うものである。
【うたふ】⇒詩によむ。
【よしや】⇒たとえ。ここでは、「なるとても」にかかっている。
【うらぶれて】⇒落ちぶれて。
【異土(いど)】⇒異郷の土地。故郷以外の土地。
【乞食(かたい)となるとても】⇒乞食(こじき)になったとしても。
【帰るところにあるまじや】⇒帰るところでは決してないのだろうよ。「まじ」は打消推量の助動詞で「ではないだろう」という意味。
【都(みやこ)】⇒ここでは、「東京」のこと。
【そのこころもて】⇒そのような心をもって。「そのこころ」とは、どんなに都で辛いことがあろうとも、故郷にはもう決して帰らないという決意のこと。「ひとり都のゆふぐれに ふるさとおもひ涙ぐむ」を指す。
【遠きみやこにかへらばや】⇒遠い都に帰りたい。ここでの「みやこ」も「東京」を指す。二度繰り返しているのは、その決意の固さを表現したものともとれるし、その決意を自分自身に言い聞かせて、東京に帰る勇気を奮い起こしているともとれる。
『小景異情』の形式と技法
「小景異情」の形式は、文語自由詩です。7音と5音の音節が組み合わされた調子を持ち、反復などの技法が使われています。定型詩とは異なり、決まった音数や韻律のパターンにとらわれない自由な形式です。
【詩の形式】
「文語自由詩」⇒伝統的な文語の言葉遣いを用いて自由な形式で書かれた詩。「7音と5音の組み合わせ」が基本で、読みやすいリズムを作り出している。
【主な表現技法】
- 「文語表現」⇒文語的な表現を使い、簡潔で引き締まった韻律を作り出している。これらは、室生犀星の詩に共通して見られる特徴である。
- 「ことばの響き」⇒「ふるさと」「うたふ」「ゆふぐれ」などのように、柔らかな響きを持つ和語を使うことで、古典的な叙情の効果を出している。
- 「繰り返し」⇒「思ふもの」「うたふもの」の「もの」の繰り返しや、「遠きみやこにかへらばや」の繰り返しを使い、詩の調子を整え、感動を深めている。
【その他】
「小景異情」というタイトルは、「少しばかりの情景」と「風変わりな情緒」を意味する。詩人(室生犀星)の、故郷への思慕と都会への帰還という屈折した感情が表現されている。
『小景異情』の解釈・解説
『小景異情』は、室生犀星(むろうさいせい)が若き日に抱いた「ふるさと」への複雑な思いをうたった自由詩です。
詩の中には「ひとり都のゆふぐれに」「ふるさとおもひ涙ぐむ」といった言葉が登場するため、一見すると「都=東京」から故郷を思う内容のように見えますが、実はこの詩は「都に帰ること」を考えながら詠まれたものといわれています。
犀星は、若い頃あまり恵まれた家庭環境ではなく、二十代の初めに故郷・金沢を離れて東京へ出ました。しかし、東京での暮らしも決して楽ではなく、貧しさや孤独に苦しみ、何度も故郷と東京を行き来していたといいます。その中で、彼の心には「ふるさとへの愛着」と「そこに戻れない現実への嫌悪」という相反する感情が生まれました。
詩中の「うらぶれて異土の乞食となるとても 帰るところにあるまじや」という一節には、現実の故郷がもはや自分を受け入れてくれないという悲しい自覚がにじみます。かつて慣れ親しんだ土地であっても、そこに戻れば居心地の悪さや痛みが蘇る。だからこそ、「ふるさと」は遠くから静かに思い出すしかない場所になってしまったのです。
犀星にとって、ふるさとは「帰る場所」ではなく、「遠くから懐かしく思うもの」という実感でした。それは、現実に裏切られ、心の中でしか存在しなくなった理想の象徴でもあります。
このように、『小景異情』という作品は、愛と哀しみが交錯する「ふるさと」への想いを、美しい言葉で描いた犀星の魂の告白と言えます。
『小景異情』のテスト対策問題
詩の中で「ふるさと」はどのように描かれているか?次の中から最も適切なものを選べ。
A.いつでも帰ることができる安らぎの場所として描かれている。
B.遠く離れても変わらぬ誇りとして描かれている。
C.帰ることのできない、心の中で思うだけの場所として描かれている。
D.都会の生活よりも優れた理想郷として描かれている。
都会で孤独を感じながら、二度と帰れないふるさとを思い出し、その懐かしさと悲しさに心が揺れたから。(49字)
「ひとり」「ゆふぐれ」という言葉が、孤独と寂寥を象徴しています。ふるさとへの懐かしさと、帰ることを断念した悲しみが重なり、涙ぐむ心情が描かれています。
この詩全体を通して表現されている主題として、最も適切なものを次から選べ。
A.都会へのあこがれ
B.ふるさとへのなつかしさと帰れない悲しみ
C.人との別れの悲しみ
D.異国での自由な生き方
まとめ
本記事では、『小景異情』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。