夏の花 原民喜 要約 テスト対策 意味調べノート 教科書 漢字

『夏の花』は、原民喜という作者によって書かれた文章です。教科書・文学国語にも掲載されています。

ただ、本文を読むとその内容が分かりにくいと感じる箇所も多いです。そこで今回は、『夏の花』のあらすじや要約、語句の意味などを解説しました。

『夏の花』のあらすじ

 

本文は、10の段落から構成されています。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。

あらすじ

①戦争のため、妻の初盆にあたる8月15日に墓参りができるか不安だった私は、街で花を買い、妻の墓を訪れた。墓石に水を打ち、花を供えると、心が少し清められるように感じた。そこには妻だけでなく、父母の骨も納められていた。原子爆弾が落とされたのは、その二日後のことであった。

②8月6日の朝、私が家にいると突然の衝撃が走った。視界を失うほどの光と音に包まれながらも命は助かり、家は倒壊こそ免れたが、内部はほとんど壊れていた。妹が駆けつけ、身の回りのものを探していると、事務室のKが現れた。隣の倉庫から炎が上がるのを見て、私たちは川へ避難することにした。

③私と妹、Kの三人は川を目指して進んだ。橋のたもとには避難する人々が集まり、途中でKとはぐれてしまう。混乱の中で、人々の疲れ切った表情を目にしながら、私は自分が生きていることの意味を考え、「このことを書き残さねばならない」と心に誓った。

④やがて対岸の火災が広がり、熱風と黒煙が吹き荒れた。人々はお互いの無事を確かめ合い、再び炎が燃え上がる様子を見つめていた。竜巻のような風が木々を巻き上げ、まるで地獄絵図のような光景だった。兄夫婦とも合流したが、家族の安否はまだ分からなかった。私たちは川辺で一夜を過ごし、遠くで人々のうめき声が聞こえていた。

⑤8月7日の朝、家族はそれぞれ焼け跡や救護所へ向かった。施療所には多くの負傷者が並び、混乱の中でわずかな再会や別れがあった。重症者であふれる境内の狭苦しい場所で、私たち6名はわびしい夜を迎えた。

⑥8月8日、夜明け前から念仏の声がしきりにして、次々と誰かが亡くなっていった。次兄の長男と末の息子も行方がわからない。やがて兄が戻り、荷馬車で郊外の八幡村へ避難することになった。

⑦馬車は次兄の家族と私、妹を乗せて八幡村へ向かった。西練兵場の近くを通りかかったとき、次兄の末の息子・文彦の遺された姿を見つけた。次兄は静かにそのそばに寄り、身につけていたバンドを形見として受け取り、名札をつけて、そこを立ち去った。

⑧馬車は市内の中心部を進み、焼け跡の広がる街を進んだ。そこは一面が灰色の世界で、静寂と虚無だけが残っていた。転覆して焼けた電車や転倒した馬は、「超現実派の画の世界」のように見えた。やがて日が暮れ、緑の残る八幡村へとたどり着いた。翌日からは、悲惨な生活が始まった。

⑨八幡村へ移って4、5日目に、行方不明だった中学生の甥(次兄の長男)が帰ってきた。逃げ延びた生徒は4、5名だけで、彼はいっしょに逃げた友人の所で世話になっていたのだ。

⑩Nは疎開工場のほうへ汽車で出掛けていく途中、トンネルに入ったとき、原爆の衝撃を受けた。彼は目的地からその足で引き返した。火災でまだ熱いアスファルトを進み、妻の勤めている女学校へ行ったが、妻の姿はどこにも見つからなかった。三日三晩、探し回り、最後にまた女学校の跡地を訪れた。

『夏の花』の要約&本文解説

 

100字要約被爆により街が崩壊し、多くの人々の苦しみを目にした私は、生き残った自分の存在を強く意識する。家族を失った悲しみとともに、戦争の現実を語り継ぐことの必要を感じ、この体験を書き残すという決意を固めた。(98文字)

この作品は、広島での原子爆弾の被害を体験した筆者が、自らの体験を淡々と記録したものです。

筆者の主張は、「人間が作り出した戦争の悲惨さと、それを忘れてはならない」という強い警告にあります。

文章全体は、感情的に訴えるというよりも、淡々と出来事を描写することで、かえって恐ろしさと現実味を深く伝えています。

前半では、妻の墓参りという日常的で穏やかな場面から始まります。しかしその直後、原爆が落とされ、平和な生活が一瞬で崩れ去ります。

筆者は、妹や兄たちと共に避難する中で、無数の負傷者や亡くなった人々を目にします。その光景は「地獄絵図」と表現されるほど悲惨で、筆者自身もその現実を受け止めきれない様子が見られます。

それでも「今生きていることの意味を自覚し、このことを書き残さなければならない」と感じる場面には、筆者の使命感が表れています。

後半では、家族を失いながらも、わずかに生き延びた者たちが再会する様子が描かれます。しかし、生き残ったからといって救われるわけではなく、心身の傷を抱えながら「悲惨な生活」が始まると語られます。

筆者は、広島の街を「銀色の虚無」「新地獄」と表現し、人間の文明が生み出した破壊の極限を冷静に描いています。

この作品は、単なる戦争記録ではなく、「生きるとは何か」「人間の営みとは何か」という問題を読者に問いかけています。

どんな悲惨な状況でも、真実を語り継ぐことこそが、次の時代を生きる人への責任だという筆者の思いが込められています。

『夏の花』の意味調べノート

 

【小弁(こべん)】⇒小さな花びら。

【可憐(かれん)】⇒かわいらしく美しいさま。

【野趣(やしゅ)】⇒自然のままの素朴な味わい。

【厠(かわや)】⇒便所。

【難じる(なんじる)】⇒非難する。

【闖入(ちんにゅう)】⇒無断で入り込むこと。

【奇異(きい)】⇒不思議なさま。普通ではないさま。

【普請(ふしん)】⇒家を建てること。

【蒼顔(そうがん)】⇒青ざめた顔。

【暗幕(あんまく)】⇒夜間の空襲に備えて、明かり漏れを防ぐために窓に張りめぐらす暗い布。

【無機物(むきぶつ)】⇒ここでは、「生活機能を持たない物質」を指す。

【相(そう)】⇒様子・形・姿。

【炎の息(ほのおのいき)】⇒炎の勢い。

【蝟集(いしゅう)】⇒ハリネズミの毛のように、多くのものが一時に一か所に寄り集まること。「蝟」はハリネズミのこと。

【長兄(ちょうけい)】⇒一番上の兄。

【火照り(ほてり)】⇒対岸の火事の熱気。

【沛然として(はいぜんとして)】⇒雨が激しく振るさま。

【閃光(せんこう)】⇒瞬間的に発する強い光。

【喚叫(かんきょう)】⇒大声で叫ぶこと。

【唖然(あぜん)】⇒驚きや恐怖で言葉を失うこと。

【混濁(こんだく)】⇒さまざまなものが激しく入り乱れること。

【兄嫁(あによめ)】⇒兄の妻。

【哀切(あいせつ)】⇒もの悲しくあわれなさま。

【憐憫(れんびん)】⇒かわいそうに思い、同情すること。

【哀願(あいがん)】⇒悲しみながらお願いすること。

【暗然として(あんぜんとして)】⇒心が沈んで重苦しいさま。

【施療所(せりょうじょ)】⇒傷病者の治療・看護を無料で行う場所。

【小耳に挟んだ(こみみにはさんだ)】⇒ちょっと耳にした。

【路傍(ろぼう)】⇒道端。

【加療(かりょう)】⇒病気や怪我などの治療を加えること。

【燻製の顔(くんせいのかお)】⇒すすや煙で黒くなった顔。

【荷馬車(にばしゃ)】⇒荷物を運ぶ馬車。

【目抜き(めぬき)】⇒街の中心的な場所や目立つ通り。

【災禍(さいか)】⇒戦争による災厄。

『夏の花』のテスト対策問題

 

問題1

次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。

テンプクした船から人を救出する。

②想定外の出来事に心がサクランする。

③建物のホウカイを防ぐ方法を学ぶ。

④火事でヒナンする人々がいた。

ロボウの花が静かに咲いていた。

解答①転覆 ②錯乱 ③崩壊 ④避難 ⑤路傍
問題2「昨夜まで読みかりの本がページをまくれて落ちている。長押から墜落した額が殺気を帯びて小床を塞いでいる。」という描写で文末を現在形で止めているが、これはどういう効果があるか?
解答それまでの日常の風景が崩れ去ってしまったという現実を示し、文章に緊張感を生む効果。
問題3傷ついた少女が「火はこちらへ燃えてきそうですか。」と私に繰り返し尋ねるのはなぜか?
解答誰かに言葉をかけることで、不安や絶望といった思いを紛らわせようとしているため。
問題4「暑い日の一日の記憶」を私が思い返す描写には、どのような表現効果があるか?
解答かつての平和な日常を「夢のように平和な景色」と感じさせることで、現実の悲惨さを際立たせる効果。
問題5

次の内、本文の内容を表したものとして最も適切なものを選びなさい。 

  (ア)筆者は、被爆直後に安全な場所へ避難し、家族ともすぐに再会して日常生活を取り戻した。

(イ)筆者は、戦争の前にすでに家族を亡くしており、被爆後は一人で生き延びた。

(ウ)筆者は、被爆を免れた別の町から救助活動のため広島に入り、現地の惨状を記録した。

(エ)筆者は、被爆後に家族とともに避難し、次兄の家族の一部を失いながらも、のちに一部の家族と再会した。

解答(エ)

まとめ

 

今回は、『夏の花』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。