『経験の教えについて』は、教科書・論理国語で学習する文章です。高校の定期テストの問題にも出題されています。
ただ、本文を読むと筆者の主張が分かりにくいと感じる箇所も多いです。そこで今回は、『経験の教えについて』のあらすじや要約、意味調べなどを解説しました。
『経験の教えについて』のあらすじ
本文は、四つの段落から構成されています。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。
①人は何より、経験に学ぶ。しかし、経験そのものが貴重なのではなく、そこから何を、どのように学ぶかが肝要である。古代ギリシアのイソップの寓話は、洋の東西を問わず、古今を通じて、少しも人気を失っていないという事実がある。この事実は、彼の「知恵」が、いかに普遍性を持っているかを証して余りある。
②イソップが物語全体を通して説いたのは、経験を生かす知恵である。この場合の経験とは、自分自身のそれではなく、他人の経験のことである。経験を生かすとは、何も自分の経験だけに限らない。人間は他人の経験からも十分に学ぶことができる。だが、人間は他人の経験どころか、自分の苦い体験でさえ、なかなか生かすことができない。
③では、なぜ人間は容易に経験に学ぶことができないのであろうか。それは、己を知らぬからだ。「イソップ寓話集」とは、自分を知らざる者の悲喜劇と言ってもよい。己を知らなければ、どうして経験を生かすことができようか。イソップが笑うのは、自分を正しく認識できない者、己について錯覚しか持ち得ぬ者の愚かな行為なのである。
④人間はまず経験によって自分の意識を持ち始める。次いで、形作られた自己意識をさらに経験によって修正、確認し、変質させていく。そして、その自我認識が再び経験による学び方を向上させる。人間はこの堂々めぐりの中を生きており、イソップが説いたのは、この己の正体をはっきり見定めよ、経験をしっかりと生かせ、という戒めだったのである。
『経験の教えについて』の要約&本文解説
この文章で筆者が伝えたいことは、 「人は経験から学ぶことができるが、ただ経験するだけでは不十分であり、自分を正しく知ることによって初めて経験を活かせる」 という点です。
1. 経験そのものよりも「学び方」が大事
筆者は冒頭で、人は経験に学ぶと述べています。しかし大切なのは「経験そのもの」ではなく、そこから 何を学び取るか だと述べています。つまり、ただ出来事を体験するだけでは価値がなく、そこから教訓や知恵を導き出すことが重要だということです。
2. 他人の経験からも学べる
筆者は、イソップ寓話の例を出し、経験とは自分のものだけでなく「他人の経験」からも学べることを強調しています。
しかし現実には、人間は他人の失敗どころか、自分の失敗すら十分に活かせないことが多い、と指摘しています。
3. 経験を活かせない理由は「自己認識の欠如」
では、なぜ人は学びを活かせないのか。その理由を筆者は、「己を知らないから」と説明します。
自分を正しく理解していない人間は、経験を生かすことができません。イソップ寓話が人間の愚かさを笑うのも、この「自分を誤解したまま行動する姿」にあると述べています。
4. 経験と自己認識の循環
人間は、経験を通じて自己意識を持ち、それをさらに経験で修正・確認しながら変化させていきます。こうした循環の中で人は成長します。
イソップが伝えた教えは、 「自分を正しく見つめ、経験をしっかりと生かせ」 という戒めだった、と文章は結論づけています。
まとめ
筆者の主張は簡潔に言うと、「経験は大切だが、それ以上に大切なのは自分を正しく知り、その経験から学びを引き出す力である」ということです。
要するに、筆者は「イソップの寓話」を通して、人間が本当に経験から学ぶためには自己理解が欠かせない、ということを伝えたいのです。
『経験の教えについて』の意味調べノート
【肝要(かんよう)】⇒最も大切なこと。要点。
【寓話(ぐうわ)】⇒教訓や風刺を含んだたとえ話。
【一向に(いっこうに)】⇒まったく。少しも。
【普遍性(ふへんせい)】⇒広くすべてに当てはまる性質。
【失敗譚(しっぱいたん)】⇒失敗を語った話。
【列挙(れっきょ)】⇒一つずつ並べて挙げること。
【同工(どうこう)】⇒技法や出来が同じであること。
【諷異(ふうい)】⇒風刺や皮肉をこめて違いを示すこと。
【横暴(おうぼう)】⇒人を押さえつけ、乱暴にふるまうこと。
【忘却(ぼうきゃく)】⇒すっかり忘れること。
【容易に(よういに)】⇒たやすく。むずかしくなく。
【末路(まつろ)】⇒最後のありさま。行き着いた結末。
【汝(なんじ)】⇒おまえ。あなた。
【悲喜劇(ひきげき)】⇒悲しみと喜びが入り混じった劇や人生模様。
【顛末(てんまつ)】⇒物事の最初から最後までの経過。いきさつ。
【錯覚(さっかく)】⇒思い違い。勘違い。
【堂々めぐり(どうどうめぐり)】⇒同じことを繰り返して進展しないこと。
【不即不離(ふそくふり)】⇒つかず離れずの関係。
【箴言(しんげん)】⇒戒めや教訓を含む短い言葉。格言。
【表裏一体(ひょうりいったい)】⇒表と裏のように切り離せず一つの関係にあること。
『経験の教えについて』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①レッキョして順番に読む。
②サイナン続きで困っている。
③オウボウな態度に怒る。
④ボウキャクされた記憶が蘇る。
⑤ジュンカンの仕組みを学ぶ。
次の内、本文の内容を表したものとして最も適切なものを選びなさい。
(ア)人は自分の経験だけに学べば十分であり、他人の経験から学ぶことは難しい。
(イ)イソップ寓話が長く読まれているのは、物語としての面白さに価値があるからだ。
(ウ)人は誰でも容易に経験から学ぶことができるため、自己認識の有無は問題にならない。
(エ)人間は経験によって自己を形成し、修正して成長するが、経験を真に生かすには自己を正しく認識することが必要だ。
まとめ
今回は、『経験の教えについて』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。