『物語としての自己』は、教科書・論理国語で学習する文章です。高校の定期テストの問題にも出題されています。
ただ、本文を読むと筆者の主張が分かりにくいと感じる箇所も多いです。そこで今回は、『物語としての自己』のあらすじや要約、意味調べなどを解説しました。
『物語としての自己』のあらすじ
本文は、四つの段落から構成されています。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。
①自分が経験したさまざまな出来事や思いは、語られることで整理され、関連づけられて自己物語となる。こうして、「自己」は一定のまとまりと一貫性をもつものとして存在するようになる。この自己物語の一貫性は、「現在」が物語の結末になるように組織化されることで得られる。
②わたしたちは、自分で物語をつくり出す存在である一方で、すでにできあがっている物語を生きる存在、物語に制約される存在でもある。たとえば、明治時代の日本という時代背景では、「立身出世」や「刻苦勉励」などの人生物語が生まれた。そうした定型的で「支配的な物語」を下書きにして、自己物語は語られる。
③通常、自己は確固とした構造を持っているものとしてイメージされるが、実は語ることにより変形されるものである。自分を語ることが、そのひとの輪郭をかたちづくっていく。自分を語ることとそれに対する相手の語りのやりとりの中で、「自己」は姿を現し、変形され、更新されていくのである。
④「本当の自分」という、自分の核と思われる部分さえ、語りのなかに存在するものである。自己をどのように表現するか、そのひとつひとつの言葉づかいが、そのつど、自己の輪郭を刻んでいく。したがって、「ほんとうの自分」という言葉を使わないひとにとっては、「ほんとうの自分」は存在しない。このように考えると、自己を語る際の言葉や言い回しは、自己の存立にとって実は大きな意味をもっていることが分かる。自分をどのように語るか、どのような言葉を使って語るか、そのこと自体が、自己をかたちづくっていく。
『物語としての自己』の要約&本文解説
私たちは、「自分とは何か」、「ほんとうの自分」とは何かを考えることがあります。
それは、あらかじめ決まったものとして心の中にあるのでしょうか?それとも、自分の経験を語る中で少しずつ形づくられていくものなのでしょうか?
本文は、こうした「自己」の成り立ちについて、「語ること」に注目しながら考察しています。
自己は「語り」によってつくられる
まず筆者が述べているのは、「自己」はただの記憶の寄せ集めではない、ということです。私たちは、過去の出来事や経験をただ思い出すだけでなく、それらを「語る」ことで意味づけし、つなぎ合わせてひとつの「物語」にしています。
たとえば、「小さいころに引っ込み思案だったけれど、中学で演劇部に入って自信がついた」というように、自分の経験をストーリーとして整理することで、「今の自分」を説明しようとします。このような語りによって、「自己」にまとまりや一貫性が生まれるのです。
自分でつくる物語、社会から与えられる物語
私たちは自分自身の物語をつくる存在です。しかし同時に、社会や時代の中で「こう生きるべきだ」という物語の型(テンプレート)にも影響を受けています。
たとえば、昔の日本では「貧しくても努力して成功する」という物語が一般的でした。このような「支配的な物語」によって、私たちの自己物語はある程度決まった方向へと導かれてしまうこともあります。
つまり、私たちは自由に自己を語っているようでいて、実は社会の枠組みにも左右されているのです。
語るたびに自己は変わる
私たちは「自分」というものを固定された存在だと思いがちですが、筆者はそれを否定します。むしろ、語るたびに「自己」は少しずつ形を変えていくといいます。
さらに、その語りは他人とのやりとりの中で変化します。たとえば、あるエピソードを話したとき、相手の反応によって「やっぱりあの出来事は大事だったんだ」と思い直すことがあります。
このように、自分の語りと他者の受け止め方のあいだで、「自己」はつねに更新され続けるのです。
「本当の自分」は語りの中にしか存在しない
私たちはときどき「これが本当の自分だ」と言いたくなりますが、筆者はそれさえも「語り」の中にあると指摘します。「本当の自分」という考え方も、実は言葉の使い方によって形づくられているというのです。
つまり、「本当の自分」とは心の奥底にあるものではなく、「どんな言葉で自分を語るか」という行為の中にだけ存在するものなのです。だからこそ、自分をどう語るか、どんな言葉で説明するかが、「自己そのもの」をかたちづくる重要な要素になります。
結論:語ることが「わたし」をつくる
筆者が伝えたいことは、「自己」とは最初からあるものではなく、語ることによってつくられ、変わり続けるものである、という点です。
そして、その語りは自分の意志だけでなく、社会の価値観や他人との対話によっても形づくられていきます。つまり、「わたし」とは、語ることでつくられる“物語の登場人物”なのです。
『物語としての自己』の意味調べノート
【物語(ものがたり)】⇒ここでの物語は、竹取物語などの文学的な筋を持つ話ではなく、「複数の出来事や思いをつなぎ合わせて結末に向かう話」を広く指している。
【制約(せいやく)】⇒自由な行動や思考に制限を加えること。
【自己物語(じこものがたり)】⇒自分自身の経験や思いを語って作られる個人的な物語。
【文明開化(ぶんめいかいか)】⇒近代化の過程で、西洋文化が日本に広まり生活や考え方が変わったこと。
【立身出世(りっしんしゅっせ)】⇒努力によって社会的な地位や名声を得ること。
【刻苦勉励(こっくべんれい)】⇒苦労をいとわず努力して、勉強や仕事に励むこと。
【鼓舞(こぶ)】⇒気持ちを奮い立たせて励ますこと。
【定型(ていけい)】⇒決まった形。あらかじめ定まった型や形式。
【取捨選択(しゅしゃせんたく)】⇒必要なものを取り、不必要なものを捨てて選ぶこと。
【挫折(ざせつ)】⇒途中で失敗したり、くじけたりして物事をあきらめること。
【悲運(ひうん)】⇒不幸な運命。つらい境遇にあること。
【輪郭(りんかく)】⇒物の外まわりの形。物事のおおまかな形や構造。
【更新(こうしん)】⇒新しくすること。今までの状態を変えて新しいものにすること。
【二分法(にぶんほう)】⇒物事を正反対の二つに分けて考える方法。
【存立(そんりつ)】⇒成り立って存在すること。存在を保つこと。
『物語としての自己』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①イッカンした態度をとり続ける。
②時間にセイヤクがある仕事だ。
③コブされて勇気が出てきた。
④顔のリンカクがはっきり見えた。
⑤毎月アプリをコウシンしている。
まとめ
今回は、『物語としての自己』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。