『日本文化の三つの時間』は、教科書・論理国語で学習する文章です。高校の定期テストの問題にも出題されています。
ただ、本文を読むと筆者の主張が分かりにくいと感じる箇所も多いです。そこで今回は、『日本文化の三つの時間』のあらすじや要約、意味調べなどを解説しました。
『日本文化の三つの時間』のあらすじ
本文は、四つの段落から構成されています。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。
①無限の直線としての時間は、分割して構造化することができない。すべての事件は、時間直線上で、「次々に」生まれる。それぞれの事件の現在=「今」の継起が時間に他ならない。「今」は瞬間ではなく、状況に応じてゴムのひものように伸縮する。さしあたりは、近い過去と近い将来を含み、その中では考察の対象の大枠が変わらない範囲、と定義することができる。
②歴史的時間は、方向性をもつ直線である。この直線上の事件には先後関係があるが、直線全体の分節化はできない。一方で、円周上を循環する自然的時間は、事件の先後関係ばかりでなく、分節をあきらかにすることができる。日本は四季の区別が明瞭で、自然の循環する変化が、農耕社会の日常的な時間意識を決定した。美的領域に関しても、日本ほど四季の変化への強い関心がある国は他にない。
③対して、『平家物語』の「諸行無常」は歴史的時間の循環ではなく、初めあり終わりある人生の話である。人生は一定方向へ進む有限の直線で、非可逆的な流れである。すなわち、無限の歴史的時間とは異なり、人生の経験された有限の時間は構造化される。
④日本文化には、始めなく終わりない直線=歴史的時間、始めなく終わりない円周上の循環=日常的時間、始めがあり終わりがある人生の普遍的時間という三つの異なる型の時間が共存している。そしてその三つの時間のどれもが、「今」に生きることの強調へ向かうのである。
『日本文化の三つの時間』の要約&本文解説
この文章では、「日本文化における時間の捉え方」について考察されています。
やや難解な表現もありますが、内容を簡単に言えば、「日本人の時間の感じ方には3つのタイプがあり、それぞれが文化や考え方に深く関係している」というものです。
では、それぞれの時間のタイプと筆者が何を伝えたいのか、順を追って見ていきましょう。
① 無限の直線としての時間(今がどんどん続いていく時間)
最初に紹介されるのは、「直線としての時間」です。これは、時間がまっすぐ一方向にずっと続いていくイメージで、「今」という瞬間が次々に流れていくものです。
筆者は、「今」はただの一瞬ではないと言います。たとえば、今日という「今」は、昨日の出来事や明日の予定ともつながっていて、それら全部を含んだ「今」だという考え方です。これは、時間が細かく分けられない、流れとしての時間だと考えられます。
② 自然のリズムに合わせた循環する時間(四季の時間)
次に出てくるのは「円のようにめぐる時間」です。これは日本の四季のように、春→夏→秋→冬→また春と、同じような出来事が毎年繰り返される時間のことです。
このような時間感覚は、農業を中心とした生活と関係が深く、日本人の暮らしや美意識(たとえば季節ごとの花や風景を愛でる気持ち)にも影響を与えてきました。
③ 人生としての時間(始まりと終わりのある時間)
3つ目の時間は「人生の時間」です。これは、始まり(生)と終わり(死)がある、一人の人間の時間の流れです。
『平家物語』の「諸行無常」(すべてのものは変わり続ける)という考え方は、この人生の時間を表しています。つまり、「いつか終わるからこそ、美しく、大切なのだ」という感覚です。
④ 三つの時間の共存と「今」の重視
最後に筆者は、「日本文化にはこの三つの時間の考え方が同時に存在している」と述べています。
- 歴史のようにずっと続く時間(直線)
- 自然のようにめぐってくる時間(円)
- 人生のように一度きりの時間(始まりと終わりのあるもの)
この3つの時間はそれぞれ違うように見えますが、どれも共通して「今という瞬間を大切にする」という意識につながっているのだ、と筆者は言いたいのです。
結論:筆者の主張は?
筆者が最も伝えたいのは、日本文化には「時間」に対する3つの見方があり、それぞれが「今をどう生きるか」という考えにつながっているということです。
私たちが日々感じている「時間」は、単なる時計の針の動きではなく、自然・歴史・人生という3つの視点からとらえ直すことができます。そして、それが日本人の文化や感性に深く関わっている――そういう深い洞察が込められている文章なのです。
『日本文化の三つの時間』の意味調べノート
【他(ほか)ならない】⇒まさしくそれである。それ以外にない。
【継起(けいき)】⇒物事が次々に続いて起こること。
【等価(とうか)】⇒同じ価値であること。
【さしあたり】⇒今のところ。とりあえず。
【分節化(ぶんせつか)】⇒ひと続きのものを、意味のある単位に区切ること。
【循環(じゅんかん)】⇒ひとまわりして元に戻ることを繰り返すこと。
【明瞭(めいりょう)】⇒はっきりしていて、わかりやすいこと。
【(…に)難(かた)くない】⇒…するのはたやすい。容易である。
【表象(ひょうしょう)】⇒心に思い浮かべること。また、それによって現れた心の像。
【洗練(せんれん)】⇒無駄を除いて、上品で美しくすること。
【観念(かんねん)】⇒頭の中で思い描いた事柄や考え。
【概念(がいねん)】⇒共通する特徴をまとめた、物事の抽象的な意味。
【抽象的(ちゅうしょうてき)】⇒具体的でなく、一般的・観念的であるさま。
【諸行無常(しょぎょうむじょう)】⇒この世のすべてのものは常に移り変わる、という仏教の考え。
【盛者必衰(じょうしゃひっすい)】⇒栄えたものは必ず衰えるという道理。
【超越(ちょうえつ)】⇒通常の枠を超えて、それをはるかに上回ること。
【哀感(あいかん)】⇒もの悲しく、しみじみとした感じ。
【非可逆(ひかぎゃく)】⇒元に戻すことができないこと。
【一回性(いっかいせい)】⇒一度きりしか起こらないという性質。
【かくして】⇒このようにして。こうして。
【普遍的(ふへんてき)】⇒すべてに共通し、どこにでも当てはまるさま。
『日本文化の三つの時間』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①ジュンカンする季節の中で生きる。
②秋のシュウカクが今年も楽しみだ。
③彼の説明はメイリョウで分かりやすい。
④センレンされた服装が印象的だった。
⑤盛者ヒッスイの理を説く。
次のうち、本文の内容を最も適切に表しているものを一つ選びなさい。
(ア)日本文化には、直線的な時間意識のみが根付いており、自然の変化や個人の人生はそれに従属している。
(イ)人生の時間は循環的であり、始まりと終わりを持たないため、歴史的時間と同一視される。
(ウ)日本文化における時間意識は、直線的・循環的・有限の三つの時間が共存し、それぞれが「今」に重きを置いている。
(エ)歴史的時間は自然的時間よりも構造化されており、季節の変化を通して「今」を把握する助けとなる。
(ウ)※(ア)は「直線的な時間意識のみ」とあるが、本文は三つの時間の共存を述べているため、限定的で不正確。(イ)は「人生の時間は循環的」とあるが、人生の時間は始まりと終わりを持つ非可逆的な有限の直線とされており、循環とは逆の概念。(エ)は「歴史的時間は構造化されている」とあるが、本文では歴史的時間は分節化(構造化)できないと明記されており、自然的時間の方が分節が可能だとされている。よって、(ウ)が正解。
まとめ
今回は、『日本文化の三つの時間』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。