ビッグデータ時代の生の技法 要約 テスト問題 意味調べノート あらすじ 解説

『ビッグデータ時代の生の技法』は、教科書・論理国語で学習する文章です。高校の定期テストの問題にも出題されています。

ただ、実際に文章を読むと筆者の主張が分かりにくいと感じる箇所も多いです。そこで今回は、本文のあらすじや要約、意味調べなどを解説しました。

『ビッグデータ時代の生の技法』のあらすじ

 

本文は、三つの段落から構成されています。ここでは、各段落ごとのあらすじを紹介していきます。

あらすじ

①近代社会の核心であるCitizenshipという概念について、障害者の自立生活運動を例に考えてみる。障害があって、生きるために必要なことを自分一人だけで果たすことができない場合、その人は常に、「一人前」として扱われない問題に直面する。自立のためには、「自分についての情報を自分で所有したり、自分のことを自分に納得いくかたちで決めること」が必要なのに、「自己よりも自己の身体についての真理を知りうる」とされる専門職や介助者に権力が生じてしまい、障害者は自己の判断が妨げられる。これに抵抗し、自己を統治するには、自己の身体と自らの理性を区別し、「主体として自己を検討」し、命をかけて自らについての真理を語るという「理性の自立的使用」が必要である。これが外部からの影響のもと、自らとして生きていく<技法>であり、自立生活運動は障害者にとっての主体性の獲得闘争なのである。そして、最終的にはその闘争は主体化した障害者の勝利で終わらなければならない。

②ビッグデータとAIによる真理が、「命をかけて自らについての真理を語る理性」に介入してくる。ビッグデータによって強化学習されたAIの判断が規準となり、私たちの市民度をスコア化し、レーティングを与える。<規準>の正しさは問われない。問われるのは、私たちの生の正しさでしかない。私たちはその規準にどれだけ適合しているかを問われ、適合しない責任は個人に向けられ、私たちの主体は規準を追いかけるものとなる。「ビッグデータ×AI」によって、私たちの信用、理性、Citizenshipがレーティングされる社会は、私たちの主体化に代わって自己が統治されることである。

③だが、主体なき自己があるだろうか。理性なき市民が存在するだろうか。主体がなく他者理解もなく共存や共生ができるのか。未来にはビッグデータとAIにより、「真理」が解答されるかもしれないが、その「真理」は私たちが自己と他者をめぐって鍛え上げた自己統治の技、つまり生の技法とは異なるものである。ビッグデータとAIが解答した「真実」は、主体化された人間とはかけ離れており、つまらないものだろう。

『ビッグデータ時代の生の技法』の要約&本文解説

 

200字要約障害者の自立生活運動は、他者に委ねられた判断を自らの理性で取り戻す主体化の営みだった。しかし、AIとビッグデータは、個人を基準に照らし、スコア化することで主体性を奪い、個人の判断や理性を外部から支配する。その結果として示される「真理」は、自己と他者をめぐり鍛えられた生の技法とは異なり、主体を欠いたつまらないものとなる。情報に従うだけでなく、自ら考え選び取る生こそが、人間にとっての本質である。(197文字)

筆者の主張は、「ビッグデータやAIに私たちの生き方が支配される社会は、人間の主体性を奪ってしまう危険がある。だからこそ、私たちは『自分で自分をどう生きるか』という力=生の技法を持ち続けなければならない」ということです。

①「自分らしく生きる」とはどういうことか(障害者の例)

まず筆者は、「自分のことを自分で決める」という人間の基本的なあり方を、障害者の自立生活運動から考えています。

障害がある人は、どうしても他人の助けが必要になります。しかし、そのことで「一人前ではない」とみなされたり、専門家に勝手に行動を決められたりしてしまいます。

それに対して障害者たちは、「自分のことは自分で考え、語り、決める」という戦いをしてきました。

これが「主体性(=自分で考えて生きる力)」を持つということ、だと筆者は述べています。

②ビッグデータとAIが「自分で考える力」を奪う

次に筆者は、現代社会にある新しい問題を取り上げます。

AIやビッグデータは、私たちの行動を分析して「この人は信頼できる」「この人はダメ」などと評価します。

このような評価は、私たちが「自分でどう生きるか」ではなく、「AIが決めた正解にどれだけ従っているか」ばかりを求めてきます。

つまり、私たち人間が、自分の理性や意思で生きるのではなく、「AIに合わせて行動するロボットのような存在」になってしまうのです。

③AIの正しさは「人間らしさ」と違う

AIが答える「真理」は、たしかに効率的で正確かもしれません。

しかしそれは、人間が自分や他人について悩み、考え、語り合いながら作ってきた「生きる力=生の技法」とはまったく異なるものです。

AIによって決められた「正しさ」は、人間の深さや複雑さを無視していて、味気なく、つまらないものです。

だからこそ、筆者はたとえAIが発達しても、「人間は自分の理性と責任で生きる存在であるべきだ」と強く訴えているのです。

『ビッグデータ時代の生の技法』の意味調べノート

 

【概念(がいねん)】⇒ある物事の意味内容を、言葉でひとまとめに捉えたもの。

【核心(かくしん)】⇒物事の最も重要な部分。中心。

【根幹(こんかん)】⇒物事の基本となる大切な部分。土台。

【療養(りょうよう)】⇒病気やけがを治すために安静にして過ごすこと。

【過剰(かじょう)】⇒必要な量や程度を超えて多すぎること。

【近隣(きんりん)】⇒近くのあたり。近所。

【葛藤(かっとう)】⇒心の中で対立する感情や考えがもつれること。

【教導(きょうどう)】⇒教え導くこと。特に道徳や規律を教えること。

【統治(とうち)】⇒国や地域を治め、管理すること。支配。

【理性(りせい)】⇒感情に流されず、論理的に考えて判断する能力。

【萌芽(ほうが)】⇒物事の始まりとなる気配やきざし。

【橋頭堡(きょうとうほ)】⇒攻撃や進出の足がかりとなる重要拠点。よりどころ。

【間断ない(かんだんない)】⇒絶え間がない。切れ目なく続いているさま。

【種火(たねび)】⇒火を起こすために残しておく小さな火。または、希望や行動の元になるもの。

【規準(きじゅん)】⇒判断や行動のもととなる基準やよりどころ。

【愚直(ぐちょく)】⇒正直すぎて柔軟性に欠けるさま。

【駄作(ださく)】⇒つまらない作品。出来の悪い作品。

『ビッグデータ時代の生の技法』のテスト対策問題

 

問題1

次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。

①社会ホショウを充実させる。

カイジョが必要な場面だ。

③国をトウチする立場にある。

テイコウしても無駄だった。

⑤これは完全なダサクである。

解答①保障 ②介助 ③統治 ④抵抗 ⑤駄作
問題2『障害があって、~~~その人は常に「一人前」として扱われないという問題に直面する。』とあるが、ここでの「一人前」とはどういうことか?
解答生きるために必要なことを自分一人だけで果たすことができること。
問題3『それが決まる論理はブラックボックスで、~』とあるが、ここでの「ブラックボックス」とはどういうことか?
解答自分たちに与えられるレーティングはビッグデータとAIにより判断されるが、そのレーティングを判断する基準がどのようなものかは自分たちにはわからず、ビッグデータの向こう側にしかないということ。
問題4『わたしたちの主体化は、自立は、その外側に線を引かれる他者の理解と社会との関係性の構築を、同時に意味するものだったのである。』とは、どういうことか?
解答主体として自己を検討し自立するということは、自分と他者を区別することでもあるが、その過程を通して他者の主体化を理解し受け入れられるようになり、周囲の社会とも主体的な関わり方を考えられるようになるということ。
問題5

次のうち、本文の内容を最も適切に表しているものを選びなさい。

(ア)ビッグデータとAIの発展により、私たちは他者と共生する力を高め、より客観的に自己を理解することができるようになる。

(イ)障害者の自立生活運動は、社会からの支援を完全に拒絶し、自力のみで生活することを目的としている。

(ウ)理性と情報の力で主体性を確立した私たちは、ビッグデータとAIの真理に従うことで、より自由な市民社会を築くことができる。

(エ)AIやビッグデータに基づくスコア化や判断は、人間が自己と他者を通じて鍛えてきた主体性を奪い、私たちの生のあり方をつまらないものにしてしまう。

解答(エ)

まとめ

 

今回は、『ビッグデータ時代の生の技法』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。