人はなぜ贈与するのか 要約 わかりやすく 意味調べノート 解説 問題

『人はなぜ贈与するのか』は、松村圭一郎による評論文です。高校教科書・論理国語にも載せられています。

ただ、本文を読むと筆者の主張が分かりにくいと感じる箇所も多いです。そこで今回は、『人はなぜ贈与するのか』のあらすじや要約、意味調べなどをわかりやすく解説しました。

『人はなぜ贈与するのか』のあらすじ

 

本文は、五つの段落から構成されています。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。

あらすじ

①私たちは日々さまざまな交換をしている。この交換には、「贈与交換」と「商品交換」の二つの様式がある。贈与交換では、負債感や割り切れなさが残るが、商品交換ではそのようなことはない。贈与交換はあいまいで不均等な関係でなされるのに対し、商品交換は明快で対等な関係でなされる。

②現実の商品交換と贈与交換は連続線上にあり、さまざまなグラデーションがある。人類学は、人間社会のベースに贈与交換があり、そこに商品交換というあらたな交換の形式が生み出されたという視点から「贈与」の重要性に注目してきた。

③贈与交換では、送る側の人の人格が物に付帯する。人類は贈与によって共同体を形成し、集団同士のつながりを維持してきた。しかし、贈与交換には、従属関係を生み出す、相手の欲していないものを贈るなどの負の面もある。

④エチオピアの村では、コーヒーや病気はみんなと共有されるべきアイテムと考えられている。それは、他者の欲望や苦しみが常に感知され、掬い取られる社会だと言える。日本で暮らし、儀礼的な贈与交換を奇異な眼で見る私たちも、そうした価値観を失ってしまったわけではない。

⑤私たちに、他者とのつながりを感じさせるのは、具体的な物や言葉のやり取りである。それは、古来から儀礼という形式で行われてきた。「贈与」は、自分が手にした所有物を誰かに与えているわけではない。何かを与えるべき相手がいてはじめて「自分」という存在の意味が確かめられる、そう言えるのかもしれない。

『人はなぜ贈与するのか』の要約&本文解説

 

200字要約物の交換には「商品交換」と「贈与交換」があり、商品交換では人が対等な存在として描かれるが、それは「フィクション」に過ぎない。実際、人は他者によって支えられ、そのつながりの中で生きている。市場経済では個人の能力が重視され、他者とのつながりが覆い隠されがちだ。贈与は「所有すること」=「与えること」と深く結びつき、相手があってこそ「自分」の存在が確認される。その意味で、贈与は人間関係の本質を示している。(200文字)

本文では、「商品交換」と「贈与」という二つの物のやり取りの違いについて説明されています。

「商品交換」とは

「商品交換」とは、物やサービスを対等な価値で交換する行為です。お金と物を交換することによって、一見、物をやり取りする人々が平等な関係にあるように見えます。

しかし、筆者はこの関係が「フィクション」であると指摘しています。実際には、私たちは他者によって支えられ、そのつながりがあってこそ自分が成り立っているからです。

現代の市場経済では、個人の能力やお金を稼ぐことが重視され、他者とのつながりが見過ごされがちですが、実際には私たちは一人では生きられません。

「贈与」の重要性

「贈与」とは、物を与える行為であり、単なる物のやり取りにとどまりません。贈与によって、物を受け取った相手との関係が深まり、自分の存在も確立されます。

筆者は「物を所有することは、与えることと同じだ」と述べ、所有するものは他者に与えることで初めて意味を持つと説明しています。贈与は、単に物を渡すことではなく、相手とのつながりを確認し、強化する行為であり、それによって社会的な絆が育まれます。

「贈与」が示す人間関係の本質

「贈与」は、物の交換を超えて人間関係の本質を表しています。贈与を通じて、人々は互いに助け合い、社会を築いていきます。贈与は、他者とのつながりを強化し、共に生きる社会を作るために欠かせない要素であり、物を所有することだけでは得られない深い意味を持っています。

結論

この文章で筆者が伝えたいのは、商品交換が表面的には平等に見えても、実際には私たちが他者とつながり、支え合って生きているという現実を忘れてはならないということです。

また、贈与を通じて、物のやり取りを超えた人間関係の本質を理解し、周囲とのつながりを大切にすることが、より豊かな社会を作るために重要であるというメッセージも込められています。

『人はなぜ贈与するのか』の意味調べノート

 

【贈与(ぞうよ)】⇒物を与えること。

【等価(とうか)】⇒価値や量が等しいこと。

【下にも置かない(したにもおかない)】⇒非常に丁重に扱う。たいそう丁寧に扱う。

【トントン】⇒物事がうまく進むさま。

【後腐れ(あとくされ)】⇒物事が終わった後に残る面倒や問題。

【都度(つど)】⇒物事が行われるたびごと。毎回。

【義理(ぎり)】⇒立場上、また道義として、他人に対して報いなければならないこと。

【不均衡(ふきんこう)】⇒バランスが取れていないこと。均等でない状態。

【理念的(りねんてき)】⇒理想的な考え方に基づいたさま。

【自明(じめい)】⇒特に証明などをしなくても、明らかであること。

【フィクション】⇒虚構。現実でないこと。

【グラデーション】⇒徐々に変化していくさま。段階的な変化。

【ピンと来る】⇒直感的に理解すること。

【付帯(ふたい)】⇒主となる事柄に伴うこと。付随すること。

【儀礼(ぎれい)】⇒社会的な慣習によって行う正式な行為。

【源泉(げんせん)】⇒物事が発生してくるもと。

【先述した通り(せんじゅつしたとおり)】⇒前に述べたように。

【合理的(ごうりてき)】⇒理にかなっていて、無駄がないさま。

【陰口をたたく(かげぐちをたたく)】⇒人のいないところで他人の悪口を言う。

【まんざらでもない(まんざらでもない)】⇒まったくだめだというわけではない。必ずしも悪くはない。

【募る(つのる)】⇒募集する。集める。

【差異(さい)】⇒違い。異なる点。

【蓄積(ちくせき)】⇒積み重ねること。蓄えること。

『人はなぜ贈与するのか』のテスト対策問題

 

問題1

次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。

セイキュウの明細を確認する。

②お年寄りに席をユズる。

③現状をイジするしかない。

④来週、花火大会をモヨオす。

⑤新しい命がタンジョウした。

解答①請求 ②譲 ③維持 ④催 ⑤誕生
問題2「商品交換では普通、このようなことはありません。」とあるが、「このようなこと」とは何か?
解答負債感のようなものが残り、その「割り切れなさ」が相手との関係を継続する原動力になること。
問題3「現実の商品交換と贈与交換は連続線上にあって、さまざまなグラデーションがあるのです。」とあるが、ここでの「グラデーション」とはどのようなことか?
解答商品交換と贈与交換は明確に区分けされるわけではなく、ある時は商品交換の性質が贈与交換の性質より強く、また別の時は商品交換の性質が贈与交換の性質より弱いといった濃淡があるということ。
問題4「イヤホンでやり過ごす」とあるが、ここではどのようなことか?
解答寄付をしないことに内心ではうしろめたさを感じながらも、イヤホンをしているために聞こえない風を装って、その場を無視して通り過ぎること。
問題5

次のうち、本文の内容を表したものとして最も適切なものを選びなさい。

(ア)贈与交換と商品交換は明確に区別され、両者が混ざり合うことはない。

(イ)贈与交換では、相手に負債感を抱かせるため、社会的なつながりを生むことはない。

(ウ)贈与交換は、人と人との関係性を築く上で重要な役割を果たしており、社会の成り立ちに深く関わっている。

(エ)贈与の本質は物のやり取りにあり、相手の受け取り方や社会的な意味合いは重要ではない。

解答(ウ)→ 本文では、贈与交換が共同体の形成や人間関係の維持に寄与することが述べられており、贈与が社会の成り立ちに深く関わっていることが強調されている。

まとめ

 

今回は、『人はなぜ贈与するのか』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。なお、本記事を読んだ後は、以下の記事もおすすめです。