角田光代 旅する本 解説 あらすじ テスト問題 語句調べノート

「旅する本」は、角田光代による小説文です。高校教科書・文学国語にも掲載されています。

ただ、本文を読むとその内容が分かりにくいと感じる部分も多いです。そこで今回は、「旅する本」のあらすじや語句の意味、テスト問題などを含め解説しました。

「旅する本」のあらすじ

 

本作は、その内容から6つの段落に分けることができます。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介します。

あらすじ

①私は十八歳のとき、東京でひとり暮らしを始めた。部屋はせまくお金もないので、本やレコードを全部売ることにした。古本屋に行くと、主人からこの本を本当に売るのかどうかと訊かれたが、私には意味がよくわからなかった。本の売値の安さにびっくりしたが、私は売ることにした。私が帰ろうとすると、主人にこの一冊を本当に売っていいのかと念押しされたので、戸惑い、不安を感じた。

②しばらくのあいだ、古本屋の主人の言葉が気になり、あの本を手放したことに不安を感じていた。だが、その後も不都合は何もなかったので、主人に念押しされたことはおろか、本を売ったこと自体、忘れていた。

③私は卒業旅行でネパールに行き、雨で暇だったので古本屋に行った。そこには多くの本が並んでいたが、その中に私がかつて古本屋の主人に売ったものと同じ本を見つけた。初めはよくある本だと思ったが、本の最後のページに書かれた自分のイニシャルと花の絵から、自分が売った本だと分かり、驚いた。これも何かの縁だと思い、私は迷った末に、結局その本を買うことにした。

④私は自分の売った本を読み始めたが、ものすごい思い違いをしていたことに気付かされた。私は記憶のなかのストーリーとの、間違い捜しに夢中になって本を読んだ。いつのまにか、活字の向こうに、高校生だった私が見え隠れするのを感じた。

⑤私はその本をカトマンズでもう一度売った。本当は持って帰るつもりだったが、荷物が重いので、他の荷物と一緒に売り、その代金でネパール最後の夜の晩餐を一人で楽しんだ。

⑥三度目に私がその本にあったのは、アイルランドの古本屋だった。まさか同じ本であるはずがないと思ったが、自分が売った本だった。その本を買って読むと、またもや意味がかわっているように思えた。しかし、かわっているのは本ではなく、私自身なのだと気づいた。どういうわけか、この本は私と一緒に旅をしているので、また数年後、どこかの町の古本屋で私はこの本と出会い、性懲りもなく買うだろう。それを読むことで、自分の変化の有無を知ることになるだろうと思い、再びこの本を売ろうと思う。

「旅する本」の本文&テーマ解説

 

筆者は、自分が売った本との再会を通じて、「本」が人生の変化を映し出す鏡のような存在であることに気づきます。

本は一見すると変わらない物体ですが、読むたびにその内容の意味が変わって感じられるのは、読み手である自分自身が変わっているからです。

筆者は、18歳で本を手放したときには、その本が自分にとって意味のあるものかどうかよく分かりませんでした。しかし、ネパールやアイルランドで再びその本と出会うことで、自分自身の記憶や感性が少しずつ変わっていることに気づきます。

このように、同じ本であっても、その本の内容が変わったように感じるのは、自分の視点や感性が変わったからです。

つまり、本作のタイトルにもなっている「旅する本」というのは、筆者にとっての自己発見の旅でもあるということです。本の旅と人生の旅の交わりが描かれているのが、この作品の大きな特徴だと言えます。

「旅する本」の語句調べノート

 

【じろりと】⇒目玉を動かして、相手を鋭い目つきで見るさま。

【初版本(しょはんぼん)】⇒ある書籍が初めて出版された時の最初の版。第一般。

【絶版(ぜっぱん)】⇒一度出版した本を、出版社がそれ以上の印刷や販売を終了し、新たに発行しないこと。

【苦学生(くがくせい)】⇒働いて学費や生活費を稼ぎながら、勉強している学生。

【~に免じて(めんじて)】⇒~であることを考えに入れて。

【身を切られるような思い】⇒体を刃物で切られるほどつらい思い。

【念押し(ねんおし)】⇒注意して確かめること。間違いがないように、もう一度相手に確認すること。

【周遊(しゅうゆう)】⇒各地を旅行してまわること。

【心許なく(こころもとなく)】⇒頼りなく、不安で。

【しわがれた】⇒声がかれて、かすれた。

【縁(えん)】⇒めぐりあわせ。つながり。

【肩をすくめる】⇒あきれたり、どうしようもないという気持ちを表したりする際に、両方の手のひらを上に向け、両肩をあげる。

【放浪(ほうろう)】⇒あてもなくさまよい歩くこと。

【晩餐(ばんさん)】⇒ごちそうの出る夕食。

【フェスティバル】⇒祭り。

【滞在(たいざい)】⇒よそに行って、ある期間そこにとどまること。

【ぽかんと】⇒何かに驚いたり、ぼんやりとしたりして、放心状態にあるさま。

【投げやり(なげやり)】⇒物事をいいかげんに行うこと。

【顛末(てんまつ)】⇒物事の始まりから終わりまでの一連の流れ。物事の最初から最後までの事情。

【克服(こくふく)】⇒努力して困難にうちかつこと。

【性懲りもない(しょうこりもない)】⇒同じ過ちを繰り返しても、一向に改めない。

「旅する本」のテスト対策問題7

 

問題1

次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。

①食事をガマンする。

キンパクした場面。

③各地をホウロウする。

④ホテルにタイザイする。

⑤弱点をコクフクする。

解答①我慢 ②緊迫 ③放浪 ④滞在 ⑤克服
問題2「活字の向こうに、高校生だった私が見え隠れする。」とあるが、どういう意味か?
解答本を読んでいる内に、その本を読んでいた高校生のときの自分が、本の内容をどう受け取り、どんな印象を抱いていたのかが思い出され、当時の感情が蘇ってくるということ。
問題3「これは夢なのではなかったか。」とあるが、この一文には筆者のどのような気持ちが表れているか?
解答自分が以前手放した本に、外国の古本屋で再び出会うこと自体が非常に珍しい出来事であり、さらに二度目となると現実的にあり得ないように感じ、その状況が夢のような出来事だと疑ってしまう気持ち。
問題4「気がつけば店は徐々にこみはじめ、あちこちに見知らぬ人の交わす楽しげなおしゃべりが満ちていて、私は声を張り上げて、カウンターの奥にいる店主にギネスのお代わりを注文する。」とあるが、この一文にはどのような効果があるか?二つ答えなさい。
解答本との夢のような不思議な体験から、「私」が現実に引き戻されたことを表す効果。また、本から活力を得てこれからの人生を生きていこうとする「私」の様子を、店の賑わいと重ねて伝える効果。

まとめ

 

今回は、角田光代「旅する本」について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。