漫罵 現代語訳 解説 意味調べノート 北村透谷

『漫罵』は、北村透谷による文章です。教科書・論理国語にも掲載されています。

ただ、本文を読むとその内容が分かりにくいと感じる箇所も多いです。そこで今回は、『漫罵』のあらすじや現代語訳、テスト問題などを簡単に解説しました。

『漫罵』のあらすじ

 

あらすじ

①第二橋から見える風景は、建物も人の格好も和洋折衷で、まとまりがない。私は落胆して嘆いた。今の時代に格調高い詩歌がないのは、このように、この国にはまとまった文化がないためではないか。

②今の時代は物質的な革命により、その精神が奪われつつある。この革命は、外部からのさまざまな刺激に動かされて起こったものである。今の日本人は、国としてのプライドや国民としての共通の感情などはない。彼らは、思想や詩歌は求めず、娯楽作品を楽しむことしかしないのだ。

③詩人となった者、詩人になろうとする者よ。国民が探偵小説や恋愛話を求め、自分の詩を認めないことを恨んではいけない。詩人も今の時代に合わせ、今の時代に評価されているものを楽しむべきだ。詩は評価されない時代なのだから、詩論を語り、詩歌を歌う者は帰れ。帰って店頭に出て働け。

『漫罵』の本文解説

 

「漫罵(まんば)」は、明治時代の詩人・評論家である北村透谷によって書かれた文語体による文章です。

まず、本文のタイトルにもなっている「漫罵」とは「相手をののしること」という意味です。

筆者は、当時の日本人に対して「日本人としてのプライドはどこにあるのか?」ということを強く批判しています。

当時の日本(明治期)は、外部からの刺激により物質的な革命が起こりました。しかし、筆者によると、それは革命ではなく外部からの刺激により変化し、単に外国からものが入ってきた「移動」にすぎないのだと述べています。

その事により、「日本人の精神は奪われてしまっている」ということを批判しています。

さらに筆者は、人々の精神が奪われた今、国民が詩人に求めるのは精神や思想の表現ではなく、娯楽作品であると述べています。

そのため、詩人は自分達の詩を国民が求めないことは嘆くのではなく、時代に従って娯楽を評価し、娯楽作品を作るべきだと主張しています。

そして、詩人に対して詩を作るのをやめて「店頭に出でよ」、つまり「普通の仕事をしろ」ということを命じています。

当然その裏にあるのは、筆者がもつ、時代に対する強い憤りです。

歴史の授業などでは、明治時代というのはそれまでの遅れを取り戻し、先進国に追いつくために飛躍的に発展したなどの良い面が語られることが多いです。

一方で、明治の初期は、当時の国民の精神や自尊心が奪われるといった負の側面もありました。その負の側面を、筆者は憤るという形で、文章によって表現しているのです。

『漫罵』の意味調べノート

 

【一夕(いっせき)】⇒ある晩。ある夜。

【繁熱(はんねつ)】⇒蒸し暑い熱気。

【漸く(ようやく)】⇒ようやく。やっとのことで。

【燭影(しょくえい)】⇒ともし火に照らされて映る物の影。また、ともし火の光。

【詩興(しきょう)】⇒詩情。詩を作りたいと思う気分。

【顧みる(かえりみる)】⇒振り向く。

【建家(たてや)】⇒建ててある家。建物。

【品する(ひんする)】⇒批評する。

【憮然(ぶぜん)】⇒失望・落胆してどうすることもできないでいるさま。

【歎ずる(たんずる)】⇒嘆く。

【激浪(げきろう)】⇒荒々しくはげしい波。

【縛する(ばくする) 】⇒自由のできないよう制約する。

【斯の如くにして(かくのごとくにして)】⇒このようにして。

【いづく】⇒どこ。

【晏逸(あんいつ)】⇒気楽に遊んで暮らすこと。安逸。

【遊惰(ゆうだ)】⇒仕事をせずぶらぶらしていること。

【思弁(しべん)】⇒論理的思考のみで、物事を認識しようとすること。

【優美(ゆうび)】⇒上品で美しいさま。しとやかで美しいさま。

【能(あた)はず】⇒できない。※「娯楽せしむること能はず」で「楽しませることはできない」という意味。「しむ」は「~させる」という使役の意味を表す。

【脳髄(のうずい)】⇒脳と同じ意味。

【慰藉(いしゃ)】⇒なぐさめ、いたわること。

【然(しか)らざれば】⇒そうでないのなら。

【大言壮語(たいげんそうご)】⇒おおげさに言うこと。できもしないことを大げさに言うこと。

【汝(なんじ)】⇒相手を呼ぶ古い言い方。多く、対等またはそれ以下の人に用いられる。

【勿(なか)れ】⇒~するな。

【艶語(えんご)】⇒男女の色っぽい話。

【情話(じょうわ)】⇒男女の恋愛に関する話。

【須らく(すべからく)】⇒ぜひとも。

【甘んずべし(あまんずべし)】⇒そのまま受け入れるべきだ。

【雪月花(せつげっか)】⇒雪と月と花。四季おりおりの風雅な眺め。

【幽遠(ゆうえん)】⇒世俗を離れた奥深さ。

『漫罵』のテスト対策問題

 

問題1

次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。

①外部のシゲキに動かされる。

エイヨにふさわしい賞。

③優秀な人材をカツボウする。

ユウダイな景色をながめる。

ゼイタクな暮らしをする。

解答例①刺激 ②栄誉 ③渇望 ④雄大 ⑤贅沢
問題2「本来の道義」と「新来の道義」とあるが、それぞれどのような考え方を指すか?
解答例

「本来の道義」=日本古来の考え方。

「新来の道義」=日本に移動して入ってきた西洋の考え方。

問題3『今の時代に創造的思想の欠乏せるは、思想家の罪にあらず、時代の罪なり。』と筆者が述べるのはなぜか?
解答例外国からものが急に入ってくるときは、その外部のものに対応することに時間をとられ、高尚な思弁や優美な想像に耽るような創造的思想に割く時間がとれないため。
問題4『作詞家を求むれども、詩人を求めざるなり。』とあるが、ここでの「作詞家」と「詩人」はそれぞれどういう作者を指すか?
解答例

「作詞家」=平凡な心理、普通の道義を繰り返す娯楽作品の作者。

「詩人」=精神や思想を表現する高尚優美な芸術作品の作者。

問題5『帰れ、帰りて汝が店頭に出でよ。』という一文は、どのようなことを述べているか?
解答例今の時代には詩は求められていないので、詩作をやめて、店に出るような普通の仕事をしろということ。

まとめ

 

今回は、『漫罵』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。