「おられる」と「いらっしゃる」は、どちらも敬語を使った表現です。特にメールや履歴書などのビジネスシーンにおいて用いられています。
ただ、この場合に両者をどう使い分ければいいのか?という疑問があります。そこで今回は、「おられる」と「いらっしゃる」の違いや使い方について解説しました。
「おられる」と「いらっしゃる」の違い
まず結論から言いますと、「おられる」と「いらっしゃる」の間に敬意の差はほとんどありません。
「おられる」が「丁寧語」、「いらっしゃる」が「尊敬語」という違いはありますが、どちらの方が目上に使った方がいいなどの明確な基準はないです。
ただ、その使い方に関しては両者とも異なってきます。
「おられる」は、やや文章語的で改まった言い方です。対して、「いらっしゃる」の方は、口語的で日常的な言い方です。
同じビジネスシーンで比較しますと、例えば、ビジネスメールなどでは「部長が興味を持っておられるようです」などと言います。
一方で、社内の会話などでは「山田部長はいらっしゃいますか?」などのように言います。
文章の中で「部長が興味を持っていらっしゃる」と言ったり、話し言葉の中で「山田部長はおられますか?」と言ったりは通常しません。
これは、両者が敬語表現になる前の元の語に違いがあるためです。
「おられる」と「いらっしゃる」は、「~(て)いる」を尊敬化した状態表現と、「~である」を尊敬化した「指定表現」があります。
状態表現の「ている」を尊敬化する場合
状態表現の「ている」とは、動詞の後ろに付き、その動作や作用、状態が継続中であることを表す語です。
「ている」を尊敬の表現にすると、次のような言い回しが可能となります。
- 先生は手紙を書いておられる。
- 先生は手紙を書いていられる。
- 先生は手紙を書いていらっしゃる。
- 先生は手紙を書いておいでになる。
1の「おられる」は、動詞「おる」に尊敬を表す助動詞「れる」が付いたものです。
元々、「おる」という動詞は謙譲語として使っていましたが、後に丁寧語に転じたものと言われています。
謙譲語に尊敬の「れる」を付けるのはおかしいですが、「おる」を丁寧語と捉えれば尊敬表現としても問題ないことになります。
2の「いられる」は、動詞「いる」に尊敬の助動詞「られる」が付いたものです。
「いられる」と「おられる」では、その用例にほとんど差はありませんが、実際の文章の中では「おられる」の方が尊敬表現として多く用いられています。
これは、「いられる」の方が尊敬表現ではなく可能表現に多く使われるようになったこととも関係しています。
- 【例】⇒彼はもう一日も生きてはいられないだろう。
3の「いらっしゃる」は、関東の話し言葉としては「おられる」や「いられる」よりも多く用いられています。
「おられる」「いられる」は単に「いる」の尊敬表現ですが、「いらっしゃる」に関しては「いる」の他に「行く」「来る」の尊敬表現としても広く使われています。
4の「おいでになる」は、今日においてはやや古風な言い方とされています。それだけに、1・2・3よりも敬意が高い表現だと言えます。
指定表現の「である」を尊敬化する場合
指定表現の「である」とは、相手の存在や所在を表す際に使われる語のことです。
指定表現の「である」を尊敬化する場合は、「おられる」ではなく「(で)いらっしゃる」を使います。
- あなたは山田さんでいらっしゃいますか。
- おじいさまはご丈夫でいらっしゃいますね。
逆に、次のような使い方は通常はしません。
- あなたは山田さんで
あられますか? - おじいさまはご丈夫で
あられますね。
江戸時代の末期には、「あらっしゃる」(「あらせられる」の変化した語)が使われていましたが、現在は「いらっしゃる」がその機能を受け持つようになっています。
したがって、相手の存在を表すような際は原則的に「いらっしゃる」を用いることになります。
その他、形容詞の後ろに付き、性質や状態を尊敬化するような場合も、現在では「いらっしゃる」を使います。
- 奥様は(お)若くていらっしゃる。
- 旦那様は(お)忙しくていらっしゃる。
逆に、次のような言い方をすることは基本的にありません。
- 奥様は(お)若くて
あられる」 - 旦那様は(お)忙しくて
あられる」
履歴書の志望動機に書く場合は?
「履歴書」や「職務経歴書」などの志望動機欄に、「おられる」もしくは「いらっしゃる」を使うケースもあります。
この場合は、どちらの表現も使うことができます。
- 貴社は幅広い事業をしておられるため、
- 貴社は幅広い事業をしていらっしゃるため、
上記の表現は、両方とも状態表現の「ている」を尊敬化したものです。
「~しておられる」に異和感をもつ人も多いですが、この言い方は辞書でも認めている表記です。そのため、履歴書などに書く際に使う分には、特に問題ありません。
ただ、どちらを使うか迷った場合は「おられる」を使うのが望ましいです。
冒頭でも紹介した通り「いらっしゃる」の方は、口語的で日常的な言い方です。
「いらっしゃる」は促音便「っ」の使用から、「おられる」よりも口語的なので、親しい手紙や日常会話などに適している表現です。
一方で、公用文や公文書などの公的な文章では、やや文語的・書き言葉的なニュアンスのある「おられる」を使う傾向にあります。
履歴書などは公的な文章に近いものなので、この場合は「おられる」を使った方が好ましいということです。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「おられる・いらっしゃる」=指定表現の「ている」もしくは状態表現の「ている」を尊敬化した表現。前者は動詞の後ろに付き、その動作や作用・状態が継続中であることを表す。後者は相手の存在や所在を表す。
「違い・使い分け」⇒敬意の差はほとんどないが、使い方に違いがある。「おられる」は、やや文章語的で改まった言い方をする際に使い、「いらっしゃる」は、口語的で日常的な言い方をする際に使う。
「履歴書での用例」⇒どちらも使うことができるが、「おられる」を使う方が望ましい。
「おられる」と「いらっしゃる」は、どちらも敬語表現として使われています。ただ、「おられる」は文語的、「いらっしゃる」は口語的に用います。そのため、履歴書などに関しては、一般に「おられる」を使う傾向にあります。