「エートス」という言葉は、一般に現代文における重要単語として用いられています。特に、「パトス」や「ロゴス」などの他の語と一緒に用いられることが多いです。
ただ、実際にはどのような意味を持つのか分かりにくいと感じる人も多いと思われます。そこで今回は、「エートス」の意味や語源、類義語、反対語などを含めなるべく簡単に解説しました。
エートスの意味
まず、「エートス」を辞書で引くと次のように書かれています。
エートス《「エトス」とも》
①アリストテレス倫理学で、人間が行為の反復によって獲得する持続的な性格・習性。⇔パトス。
②一般に、ある社会集団・民族を支配する倫理的な心的態度。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
①アリストテレス倫理学の重要概念。習慣的、持続的な性状を意味し、行為の習慣によって獲得した資質をいう。
②一般に、ある民族、社会集団文化、時代における慣習、習俗、道徳。あるいは基底となった精神、特質。
③特に、芸術的作品に内在する道徳的、理性的特質。気品。品位。
出典 精選版 日本国語大辞典
上記二つの辞書から引用しました。「エートス」には複数の意味がありますが、現代文で使われる際は、一般に②の意味として使われます。
すなわち、「ある社会や集団、民族を支配する倫理的な心的態度」のことです。一言で、「慣習・性格・行動様式」などと訳されることもあります。
分かりやすい具体例を挙げますと、学校の「校風」や会社の「社風」などはエートスに近い言葉だと言えます。
「校風」というのは、「校則が緩い」「生徒が熱心」「文化祭が盛り上がる」などのような、学校という集団組織における慣習です。
また、「社風」というのも「風通しが良い」「アットホーム」「実績を重視する」などのように、「会社」という集団組織における性格を表しています。
このように、ある集団を支配しているような倫理的・道徳的な態度の事を「エートス」と呼ぶわけです。
エートスの語源・由来
「エートス」は、古代ギリシア語の「エシックス(ethikos)」を語源とします。
「エシックス」は「慣習」や「習俗」を表す言葉ですが、現代では「日本人のエートス」「資本主義のエートス」などのように「ある社会や文化を特徴づける気風や精神性」という意味で用いられることが多いです。
先ほど紹介した、「校風」や「社風」などがこの意味に近い用例だと言えます。
「エートス」は原義が「慣習・習俗」であることからも分かるように、集団や社会の中で培われるものです。
集団や社会の中で、それにふさわしい行為を実践するなかで体得されるのが「エートス」なのです。そのため、個人的な習慣や態度によって生み出されるものではありません。
例えば、毎日早起きをして筋トレをすることが日課になったとしても、それを「エートス」と呼ぶのは誤用となります。
エートスの類義語
「エートス」の類義語は以下の通りです。
- 道徳
- 慣習
- 気風
- 習俗
- 性格
- 因習
- 精神性
- 決まりごと
- 行動様式
- 行動パターン
基本的には「社会や民族における気風・習俗」などを表した言葉で言い換えることができます。他には、「持続的な心の状態」と同義で使われることもあります。
エートスの対義語
「エートス」の「対義語」は「パトス」と言います。
「パトス(pathos)」とはギリシャ語で「受動的・一時的な心の動き」などの意味を持つ語です。
「パトス」の原義は「他から働きを受けること」であり、本来は「受動」や「受難」などの意味を持ちます。
しかし、一般には「情熱・激情」のような論理では割り切れない一時的な心の状態を指します。
この意味での対義語は、アリストテレス倫理学におけるものです。
辞書の説明でも紹介しましたが、「エートス」には「習慣的、持続的な性状を指し、行為の習慣によって獲得した資質」という意味もあります。
「持続的」というのはつまり「連続していること・切れ目がないこと」を表します。したがって、「一時的な性質」を表す「パトス」が反対語となるのです。
なお、一般に「パトス」を用いる場合、エートスの反対語ではなく「ロゴス」と対立する概念という位置付けで用いられることが多いです。
「ロゴス」とは「言葉・論理・理性・比例」などの意味を持つギリシア語で、西欧的な理性の根本にある概念です。
論理のことを英語で「ロジック」などとも言いますが、このロジックの語源もギリシア語の「ロゴス」から来ています。
逆に、「感性・情熱・受動」などの感性を表す際は「パトス」が用いられます。「理性」と「感性」はそれぞれ対義語同士なので、両者を比較しながら用いられるということです。
エートスの使い方・例文
最後に、「エートス」の使い方を具体的な例文で紹介しておきます。
- ある社会の成員や集団が持つ、他とは明確に区別された行動様式をエートスと呼ぶ。
- エートスは、特定の集団の中で持続的な習慣を繰り返すことで生まれるものである。
- いくら倫理的に素晴らしいといっても、個人的な道徳はエートスには含まれない。
- 彼らが組織の気風に染まっているのは、社会的なエートスと言うことができるだろう。
- 礼儀や作法などにより安心を得るのは、日本国民の変わらないエートスなのである。
- 哲学の世界では、エートスとパトスはそれぞれ異なる概念として認識されている。
- エートスを社会認識の基軸として再びとらえたのは、マックス・ウェーバーである。
「エートス」は、主に倫理や道徳、哲学などをテーマとした評論文の中で用いられます。特に、近代における倫理の構造を語る文章の中で登場することが多いです。
日常的な文章の中で使うことも可能ですが、普段の会話などで用いられることはほぼありません。普段の会話の中で用いる際は、「道徳・気風・性格」などの語を使うことを推奨します。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「エートス」=ある社会や集団、民族を支配する倫理的な心的態度。
「語源・由来」=古代ギリシア語の「エシックス(慣習・習俗)」から。
「類義語」=「道徳・慣習・気風・性格・行動様式・行動パターン」など。
「対義語」=「パトス」。ギリシャ語で「受動的・一時的な心の動き」。
「エートス」は、元はギリシャ語から生まれた言葉ですが、現在では日本でも使われています。正しい意味を理解した上で、実際の文章を読んで頂ければと思います。