訓示 訓辞 違い 使い分け 例文

上の者が教え戒めることを「訓示」もしくは「訓辞」と言います。どちらも同じ読み方で、「くんじ」と読む言葉です。

ただ、この場合に両者を同じ意味の語として扱ってよいのか?という問題が生じます。そこで今回は、「訓示」と「訓辞」の違いや使い分けについて詳しく解説しました。

訓示の意味・読み方

 

まずは、「訓示」の意味からです。

【訓示(くんじ)】

上位の者が下位の者に執務上の注意などを教え示すこと。また、その言葉。「部下に―する」

出典:デジタル大辞泉(小学館)

訓示」とは「上位の者が下位の者に職務上の注意などを教え示すこと」です。また、「その際の言葉」自体を指すこともあります。

例えば、社長や会長といった上位職の人が、社員たちにスピーチを行ったとします。そして、そのスピーチの内容が職務上の注意や心得を説くものだったとします。

この場合、「社長から訓示を頂いた」「社長が社員に訓示した」などのように言うことができます。

あるいは、会社内でなくても構いません。学校内で校長先生が各クラスの先生に教え示すことも「校長からの訓示を聞く」「校長が先生に訓示する」などと言うことができます。

「訓示」は、名詞と動詞の両方の意味で使うことができるのがポイントです。

名詞の場合は「訓示を・訓示が」などのように用います。一方で、動詞の場合は「訓示する・訓示した」などのように用います。

訓辞の意味・読み方

 

次に、「訓辞」の意味です。

【訓辞(くんじ)】

さとし戒める言葉。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

訓辞」とは「さとし戒める言葉」という意味です。「さとし戒める」とは「納得するように注意して、教え導くこと」を表します。

「訓辞」は、若干のニュアンスの違いはあるものの、基本的には「訓示」と同じような行為を指すと考えて問題ありません。

例えば、上司が部下に教え示す言葉や隊長が隊員に教え示す言葉のことを「訓辞」と言います。

ただ、「訓辞」の場合は「名詞」としての意味しか持っていません

「訓辞」は「訓辞は・訓辞を」などのように名詞的な使い方をします。逆に、「訓辞する・訓辞した」などのように動詞としての使い方はしません。

「辞」という字は「辞書」などの熟語があるように、「言葉」そのものを指しています。この点が「訓辞」の一番の特徴だと言えます。

訓示と訓辞の違い・使い分け

訓示 訓辞 違いは

以上の事から考えますと、「訓示」と「訓辞」は明確に異なる言葉ということになります。

過去の国語辞典や漢和辞典の取り扱い方を確認してみても、両者は例外なく別の語として載せられています。

だいたいの場合は、次のような記述で統一されているようです。

訓示」=教え示すこと。また、その教え。特に上位の者が下位の者に対して示す執務上の指示や心得。

訓辞」=教えさとす言葉。導き戒める言葉。

すなわち、「訓示」は名詞と動詞の両方の用例があるのに対し、「訓辞」は名詞としての用例しかないという内容です。

これは「示」の字義が「しめす」、「辞」の字義が「ことば」であることに由来するものです。そのため、例えば「訓示する」とは言いますが「訓辞する」とは言わないことになります。

なお、読み書きを専門とする新聞・放送業界では「訓示」を使うことで統一しているようです。逆に言えば、「訓辞」の方は原則的に使わないということです。

以下、実際の引用文となります。

くんじ(訓辞)⇒訓示 

出典:日本新聞協会『新聞用語集』昭和56

新聞や放送などのメディアは、漢字の併用を嫌う傾向にあります。これは似た言葉を誤用することによる混乱を避けるためのものです。

その点で、「訓示」の方は名詞と動詞の両方の意味として使うことができます。対して、「訓辞」の方は名詞としての意味しか使うことができません。

したがって、使い勝手のよい「訓示」に統一することで、混乱を避けるようにしているということでしょう。

以上、両者の使い分けの結論ですが、動詞および動作性の用法の場合は「訓示」だけを使うことになります。

また、名詞としての用法の場合は新聞業界は「訓示」に統一しているものの、意味を重視するならば、その意味の差に従い「訓示」と「訓辞」を書き分けることになります。

訓示と訓辞の使い方・例文

 

最後に、それぞれの使い方を例文で紹介しておきます。

【訓示の使い方】

  1. 社長自らが部下に訓示することで、意思の統一を図った。
  2. 営業本部長が部下たちに対して訓示を行ったようです。
  3. 新入社員としての理想の心構えを、入社式で訓示する。
  4. 商品の発注ミスについて、本部から訓示が貼り出された。
  5. 先輩の訓示をしっかりと受け止めた上で、改善します。

【訓辞の使い方】

  1. 社長から頂いた訓辞を忘れることのないようにします。
  2. 副社長が社員に対して祝辞と訓辞を述べる予定です。
  3. 今回も社長自身が壇上に上がり、自ら訓辞を述べた。
  4. 生徒たちは今から校長先生の訓辞を聞かなくてはいけない。
  5. 卒業式の最後に、卒業生たちへの送辞と訓辞が行われた。

 

「訓示」と「訓辞」は、主にビジネスシーンにおいて使われます。この点は両者の共通点だと言えます。

また、「訓辞」の方は「祝辞」や「送辞」などの語と並んで使われることが多いです。特に、卒業式などのイベントで校長先生が「訓辞」を述べる際にこの傾向にあります。

まとめ

 

以上、本記事のまとめです。

訓示」=上位の者が下位の者に職務上の注意などを教え示すことまた、その言葉。

訓辞」=さとし戒める言葉教えさとす言葉。導き戒める言葉。

違い」=「訓示」は名詞と動詞の両方の意味で使えるが、「訓辞」は名詞のみしか使えない。

使い分け」=新聞・放送業界では「訓示」を使うことで統一している。

「名詞」として使う場合は、どちらも使用可能です。ただ、動詞として使う場合は「訓示」を使い、「訓辞」は使いません。迷った場合は、報道業界にならい「訓示」を使えばよいでしょう。