制圧 征圧 違い 使い分け

「制圧」と「征圧」は、どちらも「せいあつ」と読む漢字です。それぞれ、「暴徒を制圧する」「癌を征圧する」などように用いられます。

ところが、両者は似たような場面で用いられることもあり、その使い分けに迷うという人も多いと思われます。そこで本記事では、「制圧」と「征圧」の違いについて詳しく解説しました。

制圧と征圧の違い

 

まず「制圧」ですが、「制圧」とは「威力で相手を押さえつけること」です。

「制」という字には様々な意味がありますが、この場合は「抑える・やめさせる」「思うままに支配する」などの意で用いられています。そして、「圧」という字は「抑えつける・支配する」の意味があります。

したがって、「制圧」とは「力をもって抑え付ける・支配する」という意味を表す語となるわけです。似たような漢字の組み合わせにより、総合的に「力で抑えつけること」を表すのが「制圧」となります。

一方で、「征圧」とは「征服して、押さえこむこと」です。

「征」は「征服」という熟語があるように、「攻める」「攻撃する」などの意味があります。したがって、「攻めうって支配すること」「攻撃して相手を完全に負かすこと」を「征圧」と呼ぶわけです。

以上の事から考えますと、「制圧」は相手を破壊させるところまでは行かず、その行動を抑え付ける段階にとどまっているのに対し、「征圧」は相手を征服し、徹底的にやりこめる段階にまで到達している言葉であることが分かります。

国語辞典での比較

 

過去の国語辞典を比較してみると、明治23年刊行の『言海』から平成4年までに刊行された61種の内、「せいあつ」は次のような結果となっています。

制圧」だけを採録しているもの・・・・・・56種

制圧」「征圧」共に採録しているもの・・・5種

実際の用例をみてみますと、「制圧」については「反乱を制圧する」「近隣を制圧する」「敵を制圧する」「反対党を制圧する」「首都を制圧する」「西部を制圧する」などがあります。

一方で、「征圧」を採録している5種の内、2種にはそれぞれ「がんの征圧」「癌を征圧する」という用例があります。

他の3種は用例を掲げていませんが、その内の1種(三省堂 新国語中辞典)には、その語釈に≪征服し圧迫する意≫⇒主として癌に対して使われる言葉でその病菌の活動を圧伏して広がるのを防ごうとすること。とあります。

その他、漢和辞典だと明治45年から平成4年までに刊行の22種は次のようになっています。

制圧」「征圧」共に採録していないもの・・・7種

制圧」を採録しているもの・・・・・・・・・15種

征圧」を採録しているもの・・・・・・・・・0種

この事から、「征圧」の方は用例としては少なく、病気の「癌」などに対してしか使われない限定的な言葉であることが分かります。

制圧と征圧の使い分け

 

厚生労働省では所轄法人の「日本対ガン協会」が、昭和35年に第一回「ガン征圧全国大会」というのを開いています。

この「ガン征圧全国大会」ですが、第一回以来「征圧」を用いています。これは、がんを徹底的に征服・撲滅したいという強い決意を表す意味で協会が使っているという旨の説明をしています。

また、平成4年刊行の『霞が関だより』では厚生労働省が「ガン征圧」と題する解説記事を載せています。

その注釈に「制圧月間を征圧月間としたのは、がんをなんとしても征伐したいという意を表現するためで、昭和35年の第一回以来この字を使用しています」と書かれています。

その他、郵政省(現総務省)では昭和41年10月21日に「がん征圧」運動にちなむ寄付金付きの郵便切手二種を発行しましたが、その図柄には大きく「がん征圧」と記されています。

新聞やテレビなどのメディアの文章においても、「癌」について語る場合は「征圧」を用いるようにしているようです。

以上の事から、「制圧」と「征圧」の使い分けは「癌」について述べるかどうか?という観点で比較すれば分かりやすいことになります。

「征圧」は、癌について述べるような際に使われます。一方で、「制圧」は癌以外の一般的な用語として用いるような場合に使われます。

私たちが身近に使う分には、癌などの医療に関して言及するようなことはほとんどありません。したがって、一般的には「制圧」の方を使うと覚えておけば問題ないです。

まとめ

 

以上、本記事のまとめとなります。

制圧」=威力で相手を押さえつけること

征圧」=征服して押さえこむこと

違い」=「制圧」は相手を破壊させるところまでは行かないが、「征圧」は相手を征服し、徹底的にやりこめる段階にまで達する。

どちらも「せいあつ」と読みますが、「制圧」は一般的な用語として用います。一方で「征圧」の方は癌に対して用いることになります。