「猪鹿蝶」という言葉があります。花札をやったことがある人は一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
ただ、この言葉の具体的な由来が気になるという人は多いと思われます。特に縁起が良いのか悪いのかは知っておきたいところです。
そこで本記事では、「猪鹿蝶」の意味や読み方、語源、使い方などを含め詳しく解説しました。
猪鹿蝶の意味・読み方
まず最初に、「猪鹿蝶」を辞書で引いてみます。
【猪鹿蝶(いのしかちょう)】
⇒花札で、萩 (はぎ) の10点(猪 (いのしし) )、紅葉 (もみじ) の10点(鹿)、牡丹 (ぼたん) の10点(蝶)の3枚。また、それをそろえた役。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「猪鹿蝶」は「いのしかちょう」と読みます。意味は「花札で猪・鹿・蝶が描かれた萩、紅葉、牡丹の10点札3枚を揃えた役」のことです。
花札は1月~12月まであり、それぞれ4枚ずつ札があります。ひと月が4枚なので、全カードは4枚×12ヵ月で48枚です。
花札の簡単なルールを紹介すると次のようになります。
①手札と場にランダムに札を配る。
②手札から1枚を場に出し、同じ月の札が場にあれば合わせて取ることができる。
③山から一枚を引いて場に出す。この時も同じ月の札があれば取ることができる。取れなければ場に並べる。
④これを自分と相手で交互に行い、取った札で役ができたら一回戦が終了となる。
⑤できた役により点数が変わり、7点以上で上がると2倍の点数を獲得することができる。
このように決められた回数を勝負し、合計得点が高い者が勝利となります。必ずしも1対1で勝負するわけではなく、二人で遊ぶ「こいこい」、三人で遊ぶ「花合わせ」、三人から七人で遊び「はちはち」などいくつかの種類があります。
例えば、「こいこい」だと「猪鹿蝶」は5点とカウントされ、他の10点札が一枚増えるごとに1点がプラスされることになっています。
「猪鹿蝶」は出来役としてはおおむね中堅どころの位置付けなので、そこそこの得点を狙える役です。また、初心者でも比較的覚えやすくて分かりやすい役です。
そのため、花札の役の中でも一般に知名度の高いものだと言われています。
猪鹿蝶の語源・由来
「猪鹿蝶」は、花札に描かれた植物と動物の関係性に由来しています。
それぞれの関係性は、①「萩と猪」②「紅葉と鹿」③「牡丹と蝶」の三つです。
まず①「萩と猪」ですが、「萩」とはマメ科ハギ属の植物、「猪」はイノシシ科の動物のことを表します。
古来から萩は「臥猪の床(ふすいのとこ)」、すなわち猪が伏せて寝る所だと言われてきました。凶暴な野生の猪も、美しくて優雅な萩の前ではゆっくりと身体を休めます。
この事から、優雅な萩と凶暴な猪を対照的な物同士として古来から絵のモチーフにしていたということです。
次に、②「紅葉と鹿」ですが、「紅葉」とは「もみじ」という葉、「鹿」とはシカ科の動物のことを表します。
「鹿」は秋の季語であることから、「鹿」=「紅葉」を連想させる言葉として有名です。その証拠に、平安時代の『古今和歌集』には次のような詩が残されています。
奥山に 紅葉踏みわけ 鳴く鹿の声きく時ぞ 秋は悲しき
出典:『古今和歌集』 猿丸太夫(さるまるだゆう)
意味としては、「人里離れた奥山で、散り敷かれた紅葉を踏み分けながら、雌鹿が恋しいと鳴いている雄の鹿の声を聞くときこそ、いよいよ秋は悲しいものだと感じられる」となります。
つまり、「紅葉」と「鹿」は同じ秋を連想させる言葉として古くから用いられていたということです。
江戸時代に肉食が禁止されていた頃、鹿肉のことを隠語で「もみじ」と呼んでいたのも、この頃からの由来だと言われています。
そして最後の「牡丹と蝶」ですが、「牡丹」とはボタン科ボタン属の花、「蝶」とはアゲハチョウ上科に属する昆虫の事を表します。
「牡丹」は、華やかで美しい花です。あの楊貴妃も牡丹に例えられたほど、花の中では美を象徴するものとして知られています。
一方で、「蝶」は古来から魂や復活を象徴する生き物として認識されており、ギリシャやローマの古代彫刻の一部にも描かれています。
日本でも「蝶」は「長」に通じることから、長寿(命)を示唆する縁起のよい生き物だと信じている人もいるくらいです。
この事から、「美」を象徴する「牡丹」と「永遠」を象徴する「蝶」は同じ縁起の良いもの同士という理由で二つに合わせられたのではと言われています。
猪鹿蝶は縁起がいい?
「猪鹿蝶」は、花札では点数の高い役なので花札をよくする人からすれば、良いイメージの言葉です。また、各漢字には次のような意味も含まれています。
「猪」=子孫繁栄の象徴。
「鹿」=財運・金運の象徴。
「蝶」=魂・復活の象徴。
「猪」は一見すると畑を荒らす凶暴な動物という側面がありますが、実は多産な動物としても知られています。メスだとおよそ1年で妊娠し、21日ごとに発情期を迎えます。そのお腹からは6匹~12匹ほどの子供が生まれます。
また、「鹿」は中国語だと「給料」と同じ発音であるため、財運を招く動物だと言われています。日本でも鹿の置物や鹿のツノを家に飾っているシーンを見たことがないでしょうか?これは風水などで鹿は富を呼び込むパワーがあると信じられているためです。
「蝶」に関しても、すでに説明したように漢字の「長」と読み方が同じであることから、長寿(命)を呼び込む縁起のよい生き物という認識がされています。
「蝶」は人間の血を吸う「蚊」や汚いものに住み着く「ハエ」などとは異なり、春になると美しい姿で舞います。そのため、風水では「喜び」を表す虫とも言われているのです。
ですので、「猪鹿蝶」は非常に縁起のいい言葉であるということが分かります。動物本来の詳しい意味を紐解いていくと、このように良いイメージの言葉であることが分かるのではないでしょうか。
まとめ
以上、本記事では「猪鹿蝶」について解説しました。
「猪鹿蝶」=花札で猪・鹿・蝶が描かれた萩、紅葉、牡丹の10点札3枚を揃えた役。
「語源・由来」=「萩と猪」「紅葉と鹿」「牡丹と蝶」の三つの関係性から。
「猪」は「子孫繁栄」、「鹿」は「財運」、「蝶」は「魂」の象徴なので、縁起の良い言葉。
「猪鹿蝶」は日本や中国の歴史が込められた言葉です。今後、花札をする際には意味を知った上で楽しんで頂ければと思います。