「とりあつかい」という言葉を漢字で書く場合、次のように複数の表記の仕方があります。
「取り扱い」「取扱い」「取扱」。
いずれもよく見る表記ですが、一体どれを使えば正しいのでしょうか?
本記事では、「とりあつかい」の違いや送り仮名の付け方、公用文での使い分けなどについて解説しました。
「取り扱い」が一般的な表記
「とりあつかい」という語は、動詞「取る」と「扱う」が合わさって名詞になったものです。
このような動詞と動詞が複合して名詞になった語は、「複合の語」と呼びます。そして、複合の語に関しては、内閣告示『送り仮名の付け方』の通則6にその表記の仕方が書かれています。
【本則】
複合の語(通則7を適用する語を除く。)の送り仮名は、その複合の語を書き表す漢字の、それぞれの音訓を用いた単独の語の送り仮名の付け方による。
取り扱い
要約しますと、「複合的な言葉は、それぞれの音訓を用いた単独の語で読む」ということです。「それぞれの音訓を用いた単独の語」とは「取り扱い」のように動詞が複合した結果できた名詞という意味です。
よって、「とりあつかい」を用いる際は、それぞれに送り仮名を付けて「取り扱い」と書くのが原則ということになります。
「内閣告示」というのは、行政機関のトップである内閣が必要な事項を公的に示したものです。ゆえに、一般に使う際にはこの通則6に従い「取り扱い」と書くわけです。
また、その他の理由で考えましても、言葉というのは送り仮名をしっかりと付けた方が読みやすいです。そのため、「取扱い」や「取扱」よりも「取り扱い」を用いるのが望ましいということになります。
「取扱い」「取扱」も許容の表記
ただ、先ほど紹介した本則6には続きがあり、次のようにも記されています。
【許容】
読み間違えるおそれのない場合は、次の( )の中に示すように、送り仮名を省くことができる。
書き抜く(書抜く) 申し込む(申込む) 打ち合わせる(打ち合せる・打合せる) 向かい合わせる(向い合せる) ~(以下略)~聞き苦しい(聞苦しい) 待ち遠しい(待遠しい)田植え(田植) 封切り(封切) 落書き(落書) 雨上がり(雨上り)日当たり(日当り) 夜明かし(夜明し)入り江(入江) 飛び火(飛火) 合わせ鏡(合せ鏡) 預かり金(預り金)抜け駆け(抜駆け) 暮らし向き(暮し向き) 売り上げ(売上げ・売上) 取り扱い(取扱い・取扱) 乗り換え(乗換え・乗換)
つまり、複合語は原則として送り仮名を付けるが、読み間違える恐れのない場合は送り仮名を省略することが可能ということです。
例えば、「乗降」は基本「じょうこう」と読みますが、「のりおり」と読み間違えてしまう可能性もあります。
また、「伸縮」は「しんしゅく」と読みますが、場合によっては「のびちぢみ」と読んでしまう恐れもあります。
このような読み間違える恐れのある複合語は、基本的に送り仮名を省くことはできません。
一方で、今回の「取扱」に関しては基本的に読み間違える恐れはない語です。「取扱」は「とりあつかい」という読み1択であり、「しゅごく」などと読む人はまずいないです。
たとえ複合語であっても、読み間違える恐れのない言葉であれば、送り仮名を省略しても問題ありません。したがって、「とりあつかい」も「取扱い」もしくは「取扱」と表記することが許容されているということです。
「取扱」のみを使うこともある
「とりあつかい」という語は、他の語が後ろに来るときは「取扱」と表記します。この表記の仕方は、文化庁の内閣告示『送り仮名の付け方』の通則7に記されています。
複合の語のうち、次のような名詞は、慣用に従って、送り仮名を付けない。
ウ その他。
書留 気付 切手 消印 小包 振替 切符 踏切 請負 売値 買値 仲買 歩合 両替 割引 組合 手当 倉敷料 作付面積 売上《高》 貸付《金》 借入《金》 繰越《金》 小売《商》 積立《金》 取扱《所》 取扱《注意》 取次《店》 取引《所》 乗換《駅》 乗組《員》 引受《人》 引受《時刻》 引換《券》《代金》引換 振出《人》 待合《室》 見積《書》 申込《書》
(注意)
(1)「《博多》織」、「売上《高》」などのようにして掲げたものは、《 》の中を他の漢字で置き換えた場合にも、この通則を適用する。
最後の箇所の(注意)を読むと、《 》の中を他の漢字で置き換えた場合にも、この通則を適用する。 とあります。
すなわち、「取扱所」や「取扱注意」の「所」や「注意」を他の語に換えてもよいということです。
例えば、「取扱」の後に語がつく言葉は他にも多くあります。
この中で最もよく使われているのが「取扱説明書」です。大手家電メーカーのシャープやソニー、東芝などの説明書を見ると、送り仮名を付けずに「取扱説明書」と記載されています。
このような、普段から慣用的に使われている語は原則として「取扱」と表記するわけです。
また、この形は「取扱~」だけでなく、通則7の《代金》引換の例にもあるように「~取扱」の形にも当てはまります。
ただし、この通則7の表記については単独の「とりあつかい」について送り仮名を省くことを示したものではありません。あくまで、他の語と合わさってセットになった場合の表記の仕方を表したものとなります。
公用文での正しい表記はどれか?
「公用文」に関しては、文化庁が出している『公用文における漢字使用等について』で次のように記されています。
2 送り仮名の付け方について
(1)公用文における送り仮名の付け方は,原則として、「送り仮名の付け方」(昭和48年内閣告示第2号)の本文の通則1から通則6までの「本則」・「例外」、通則7及び「付表の語」(1のなお書きを除く。)によるものとする。ただし、複合の語(「送り仮名の付け方」の本文の通則7を適用する語を除く。)のうち、活用のない語であって読み間違えるおそれのない語については、「送り仮名の付け方」の本文の通則6の「許容」を適用して送り仮名を省くものとする。なお、これに該当する語は、次のとおりとする。
明渡し 預り金 言渡し 入替え 植付け 魚釣用具 受入れ 受皿 受持ち 受渡し 渦巻 打合せ 打合せ 打切り 内払 移替え 埋立て 売上げ ~(以下略)~ 届出 取上げ 取扱い 取卸し 取替え
3 その他(1)
1及び2は、固有名詞を対象とするものではない。(2) 専門用語又は特殊用語を書き表す場合など、特別な漢字使用等を必要とする場合には、1及び2によらなくてもよい。(3)専門用語等で読みにくいと思われるような場合は、必要に応じて、振り仮名を用いる等、適切な配慮をするものとする。
要約しますと、「公用文に関しては、通則6の「許容」を適用して送り仮名を省く」ということです。
公用文の送り仮名は、原則として「送り仮名の付け方」の通則6が当てはまると書かれています。
しかしながら、読み間違える恐れのない語については、通則6の「許容」を適用すると書かれています。
そして、その例の中には「取扱い」の形だけが用いられており、「取り扱い」や「取扱」は用いられていません。
よって、公用文の表記の仕方は原則として「取扱い」を使うという結論になります。
ただ、一部例外として固有名詞や専門用語、特殊用語の一部として用いる場合などはその限りではないとも書かれています。
つまり、専門的な用語等で読みにくいと思われる場合は、必要に応じて振り仮名を振るっても構わないということです。
動詞だと「取り扱う」と表記する
なお、名詞としての「とりあつかい」ではなく、動詞としての「とりあつかう」だと「取り扱う」と表記します。
動詞としての用例は、仙台市教育局教育人事部教育センターが出している【用字・用語の表記例】『新訂 公用文の書き表し方の基準(資料集)』に記されています。
「 」→適切な使用例
取り扱う 「輸入品を取り扱う」
「とりあつかう」に関しては、先述した通則6の本則に従ったとしても、「取り扱う」と表記するのが妥当です。
そのため、次のような活用形としての用例は、公用文であっても「取り扱い」と表記することになります。
- お取り扱いになる
- お取り扱いいたします
- 払込は銀行でのみ取り扱い、信託会社等では取り扱わない
また、「義務教育諸学校教科用図書検定基準実施細則」(昭和52)によると、教科書の送り仮名については原則として通則6の「許容」を適用しないとなっています。
さらに、新聞やテレビなどの放送でも「許容」の項が用いられていません。
したがって、教科書だけでなく新聞や放送などの業界では「取り扱い」の形が用いられることになります。
これはつまり、名詞であろうと動詞であろうと両方とも送り仮名をすべて付けるという意味です。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「一般に用いる場合」⇒「取り扱い」と表記する。ただ、「取扱い」や「取扱」も読み間違える恐れはないため、許容はされている。
「他の語と合わさった場合」⇒「取扱」と表記する。(例)「取扱所・取扱注意・取扱説明書」など。
「公用文での使い方」⇒原則「取扱い」と表記する。専門的な用語等で読みにくい場合は、振り仮名を振る。
「動詞として使う場合」⇒「取り扱う」と表記する。(例)「お取り扱いになる・お取り扱いいたします」など。
私たちが一般に使う際には「取り扱い」と書きます。教科書での使用や新聞・テレビなどの放送業界もこの表記の仕方で問題ありません。ただ、公用文などに関しては「取扱い」と表記します。また、他の語とセットになった時は「取扱」を使うようにして下さい。