「分限処分」と「懲戒処分」は、どちらも日々のニュースでよく目にするものです。
「教員が分限処分になった」「警察官が懲戒処分を受けた」などのように公務員全般に対して使われています。
ただ、どちらも似たような使い方がされているため違いが分かりにくいです。
そこで本記事では、「分限処分」と「懲戒処分」の意味の違い、種類などを分かりやすく解説しました。
分限処分の意味
「分限処分」は、「ぶんげんしょぶん」と読みます。
意味は、「職員が一定の事由により職責を果たせない場合に、公務の効率性を保つために、その職員の意に反して行われる処分」のことです。
「分限」とは「身分保障の限界」という意味です。
つまり、「あなたはこの仕事に向いていないのではないか」「他の職に移った方がいいのではないか」という意味合いが含まれた処分です。
「分限処分」は、地方公務員法の第28条にその詳細が書かれています。
(降任、免職、休職等)
第二十八条 職員が、次の各号に掲げる場合のいずれかに該当するときは、その意に反して、これを降任し、又は免職することができる。
一 人事評価又は勤務の状況を示す事実に照らして、勤務実績がよくない場合
二 心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合
三 前二号に規定する場合のほか、その職に必要な適格性を欠く場合
四 職制若しくは定数の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合
二 職員が、左の各号の1に該当する場合においては、その意に反してこれを休職することができる。
1心身の故障のため長期の休養を要する場合 2刑事事件に関し起訴された場合
三 職員の意に反する降任、免職、休職、及び「降給」の手続きは条例で定めなければならない。
出典:地方公務員法第28条「降任、免職、休職等」
要約すると、「分限処分」には「降任」「免職」「休職」「降給」の4つの種類があるということです。
①「降任」=現在の職よりも下位の職に就くよう命じる処分。
②「免職」=職員としての身分を失わせる処分。やめさせること。
③「休職」=職を保有しつつ、一定期間職務に従事させない処分。
④「降給」=給料を現在のものよりも低くする処分。
「降任」や「免職」は、主に勤務実績が悪かったり心身の病気・故障になってしまった人を対象とします。また、適格性の欠如や職制・定数の改廃、予算減少による廃職などの場合もあります。
「休職」は、病気にかかってしまったことや起訴されてしまったことなどが理由の場合が多いです。最後の「降給」は処分の基準が難しいため実際に行われることはほとんどありません。
このように、「分限処分」とは本来やるべきことを何かの原因でできなかった場合に、職務に支障を来たすと判断されて処分されるものを表すということです。
「分限処分」を下す目的はあくまで「公務の効率性」です。したがって、免職になったとしても退職金の支給などは通常通り行われます。
懲戒処分の意味
「懲戒処分」は「ちょうかいしょぶん」と読みます。
意味は「公職員が何らかの違反行為をした際に、制裁として行われる処分」のことです。
「懲戒」とは「不正または不当な行為に対して制裁を加えること」を意味します。簡単に言えば「こらしめること」です。
「懲戒処分」は、地方公務員法第29条に詳細が掲げられています。
(懲戒)
第二十九条 職員が次の各号の一に該当する場合においては、これに対し懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。
一 この法律若しくは第五十七条に規定する特例を定めた法律又はこれに基く条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合
二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
三 全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合
出典:地方公務員法 第28条(懲戒)
「懲戒処分」に関しても、「戒告」「減給」「停職」「免職」の4つの種類に分けられます。
①「戒告」=職員の規律違反の責任を確認し、将来を戒める処分。
②「減給」=職員の給与の一定割合を、一定期間減額して支給する処分。
③「停職」=一定期間、職員を職務に従事させない処分。職務を停止させる処分。
④「免職」=職員としての身分を失わせる処分。やめさせること。
「懲戒処分」の処分自由としては、法律や条例、規則などへの違反、職務上の義務違反、職務怠慢などが挙げられます。
実際に違反行為が行われた場合は、公務における規律や秩序を乱した人物に対して責任を追及し、なおかつ制裁を科すという意味で「懲戒処分」が行われます。
「懲戒処分」は言わば、「制裁的処分」です。そのため、懲戒免職などによって職を辞めることになったとしても退職金は支給されません。
なお、「懲戒処分」は公務員だけでなく民間の企業に対しても使われる言葉となります。
民間企業においては、使用者が懲戒を行うためには、あらかじめ就業規則にその種類や程度を記載しておく必要があります。これは労働基準法第89条に定められていることです。
就業規則に懲戒の詳細を書いておき、労働者にあらかじめ周知させておくことでいざ違反行為があった場合に「懲戒処分」が行われるという流れになります。
分限処分と懲戒処分の違い
内容を整理しますと、
「分限処分」=職員が一定の事由により職責を果たせない場合に行われる処分。
「懲戒処分」=公職員が何らかの違反行為をした際に制裁が行われる処分。
ということでした。
両者の違いはいくつかありますが、最も大きな違いは処分を下す目的にあります。
「分限処分」は、公務全体の効率性を保つために行われます。
例えば、病気で仕事をすることができなかったり、能力があまりに不足していたりする人がいると、全体としての公務の効率性が損なわれています。ゆえに、「降任」や「休職」、場合によっては「免職」という判断を下すのです。
対して、「懲戒処分」は職員に対して制裁を与えるために行われます。
例えば、職員の一人が不正や不当を行ったとなると、それは法律や条例に違反をしていることを意味します。そのため、違反行為に対しては一定の制裁を与えて処分をしなければいけないのです。
このように比較すると、「分限処分」で辞める場合は「退職金」が出て、「懲戒処分」で辞める場合は退職金が出ないという理由が分かるかと思います。
「懲戒処分」で職員が免職するのは、相当な違反を犯してしまったような場合です。したがって、当然退職金はもらえず、予告解雇などもなく即時解雇となるようなことが多いです。
一方で、「分限処分」で免職するのも辞めるのは同じですが、何か違反を犯してしまったというわけではありません。そのため、退職金の支給は行われ、解雇予告なども行われるのが原則となります。
なお、両者には共通している部分もあります。それは、「どちらも本人の意思とは関係なく、処分が行われる」という点です。
「分限処分」も「懲戒処分」も本人の意思とは関係なく、半ば強制的に行われるということに変わりはありません。
「分限処分」は制裁的な意味合いこそないものの、免職であれば民間企業の解雇に相当する厳しい処分です。したがって、免職になる理由は違えど、「分限処分」であっても本人の意向は考慮されないということになります。
分限処分と懲戒処分の例文
最後に、それぞれの使い方を例文で紹介しておきます。
【分限処分の使い方】
- 公務員については、余剰人員は分限処分の対象となる場合がある。
- 任命権者が分限処分を行う場合は、公正でなければならない。
- 職に必要な適格性を欠く場合、その者は分限処分の対象となる。
- 分限処分と懲戒処分の差異は、懲罰であるか否かという点である。
- 刑事事件に関して起訴された場合、分限処分によって休職の処分が下される。
- 分限処分とは公務能率の維持を目的とし、職員の意に反して課せられる処分である。
【懲戒処分の使い方】
- 職務上の義務に違反した場合または職務を怠った場合は、懲戒処分となる。
- 全体の奉仕者に相応しくない非行があると、それは懲戒処分の対象となる。
- 規則に違反し勤務中に眠った従業員は、懲戒処分を受けることもある。
- 懲戒処分で免職されると、即時解雇であっても退職金などの給付は支給されない。
- 職務上の義務や身分上に違反すると、懲戒処分になる可能性がある。
- 懲戒処分の目的は、職員の道義的責任の追及による服務規律及び秩序の維持である。
まとめ
以上、本記事のまとめとなります。
「分限処分」=職員が一定の事由により職責を十分に果たせない場合に、その職員の意に反して行われる処分。
「懲戒処分」=公職員が何らかの違反行為をした際に、制裁として行われる処分。
「違い」⇒「分限処分」は公務の効率性を保つために行われ、「懲戒処分」は職員に対して制裁を与えるために行われる。その他、「分限処分」は退職金が支払われるが、「懲戒処分」は退職金は支払われない、といった違いもある。
どちらも公務員が処分を受ける際にはよく使われる言葉です。これを機に両者の違いを正しく理解して頂ければと思います。