日本語には似たような言葉が数多くあります。「間違い」と「間違え」もその中の一つです。
「間違いないです」「間違えました」などのように、普段の生活からビジネスまでよく用いられています。この2つはどちらが正しい表記なのでしょうか?
本記事では、「間違い」と「間違え」の違いや使い分けについて詳しく解説しました。
どちらが正しい言葉か?
結論から言いますと、どちらも誤りではありません。つまり、一方が正解でもう一方が不正解などではないということです。
ただ、両者は文法上は明確に異なる言葉だと言えます。また、後に詳しく解説しますが、意味としてもお互いが異なる言葉同士です。
まず、「名詞」として使う場合は一般に「間違い」の方を使う傾向にあります。「間違え」に関しては、通常は名詞としては使いません。
両者の違いを簡潔にまとめると、以下のようになります。
「間違い」=「間違う」の連用形が名詞化したもの。「正しい基準から外れること」を表す。
「間違え」=「間違える」の連用形が名詞化したもの。「取り違えること」を表す。
すなわち、「間違い」と「間違え」の一番の違いは、元の動詞が活用した時の語尾の変化によるものということです。
語尾の変化が異なるため、意味も異なってくるということになります。
間違いの意味・使い方
「間違い」とは「間違う」という動詞の連用形が名詞化したものを意味します。
「間違う」はワ行五段活用と言い、語尾が「わ」「い」「う」「え」「お」というように変化していきます。
「間違わ」「間違い」「間違う」「間違う」「間違え」「間違お」
(未然形)(連用形)(終止形)(連体形)(仮定形)(命令形)
「語尾」とは「単語の後ろの部分のこと」だと考えて下さい。今回だと二番目の「間違い」の「い」という箇所が語尾に該当します。
つまり、本来は「間違う」という動詞が「間違い」に変化し、結果として名詞になった言葉が「間違い」ということです。
このように、本来は名詞ではない別の品詞から作られた名詞のことを「転成名詞(てんせいめいし)」と言います。
「間違う」は五段に活用する動詞で、古くは自動詞にも他動詞にも使われていました。
意味としては「正しい基準から外れる」ということを表します。
例えば、人として間違った生き方をしたり、道徳的に外れた生き方をしたりした人がいた場合に、「人としての道を間違う」のように用いるわけです。
「間違い」も「間違う」から変化した形なので、「正しい基準から外れること」と考えれば分かりやすいです。
間違えの意味・使い方
「間違え」とは「間違える」という動詞の連用形が名詞化したものを意味します。
「間違え」はア行下一段活用と言い、語尾が「え」「え」「える」「える」「えれ」「えろ・えよ」と変化していきます。
「間違え」「間違え」「間違える」「間違える」「間違えれ」「間違えろ・えよ」
(未然形)(連用形)(終止形)(連体形)(仮定形)(命令形)
上記2番目の箇所である「間違え」は「連用形」です。見て分かるように、本来の動詞である「間違える」から名詞である「間違え」に変化しています。
この「間違え」という名詞が慣用化されるようになったのが、現在の「間違え」ということです。
「間違える」は、「間違う」が下一段に活用する他動詞となります。五段に活用する「間違う」とは異なる点に注意です。
「間違える」は「(AとBとを)取り違える」という意味があります。
例えば、くつの左右を逆に履いてしまったような場合は、「右と左を取り違えてしまったこと」を表します。よって、このような場合は「くつの左右を間違える」のように言うわけです。
「間違え」も「間違える」が変化した形なので、「(AとBとを)取り違えること」と考えれば問題ありません。
両者の違い・使い分け
以上の事から考えますと、両者の意味は次のように定義できます。
「間違い」=正しい基準から外れること。
「間違え」=(AとBとを)取り違えること。
つまり、「間違い」は本来あるべき基準から外れていることなのに対し、「間違え」の方は何かと何かを取り違えることを表すということです。
同じような例文で比較してみると、
(A)=この答案は間違いだ。(B)=この答案は間違えだ。
(A)は、「一定の基準に外れている」という意味で「正しくないと判断していること」を表した文です。
対して、(B)は「問題の意味を取り違えている」とか「〇〇と書くべき所を取り違えて××と書いてしまった」といったことを表した文です。
いずれにせよ、後者の方は「何かと何かを誤って取り違える」という意味合いが強い言葉です。したがって、具体的なミスや失敗をした時に「間違え」の方を使うと考えるのが分かりやすいかと思います。
ただし、実際には名詞として「間違え」を使うシーンは多くありません。ほとんどの場合、名詞として使う場合は「間違い」の方を用います。
例えば、「間違い電話」「間違い探し」などの語はいずれも「間違い」を使っています。「間違え電話」「間違え探し」などの語でも意味は通じますが、通常はこのような言い方はしません。
一般に、一部の例外を除いて、転成名詞は自動詞から作られるものです。ところが、「間違え」の方は他動詞である「間違える」から派生したものなので、厳密に言うと正式な転成名詞ではないとされています。
そのため、名詞として使う場合は「間違え」ではなく「間違い」の方が使われているということです。
現在では、「間違い」を名詞として使う場合、「取り違えること」という意味で使われることも増えています。
一方で、「間違え」の方を使う場面としては、「間違えた」「間違えて」「間違えやすい」など動詞の一部として使うことが多いです。その他、「間違えないように」「間違えないでください」などの表現もよく使われます。
間違いと間違えの例文
最後に、「間違い」と「間違え」の使い方を実際の例文で確認しておきましょう。
【間違いの使い方】
- 学校の先生から今回起こした間違いを正すよう指導された。
- 人生において間違いは誰にでもある。問題はその後の対応だ。
- 友人たちと間違い探しをするゲームを朝までずっと行った。
- 突然、間違い電話がかかってきたので、相手に注意を喚起した。
- 起業すれば誰もが成功できると考えるのは大きな間違いだろう。
- 自分の思い通りにいかないからと言ってすぐに怒るのは間違いだ。
- 犯人は、「私がやりました。間違いありません。」と供述した。
【間違えの使い方】
- 前回間違えたクイズだったので、今回こそは正解したいです。
- みんなが知っている問題を間違えたので、恥ずかしい思いをした。
- 彼はどうやら服のサイズを間違えて購入してしまったようだ。
- 1万円ではなく、間違えて10万円を振り込んでしまった。
- 最後の設問はとても間違えやすい問題なので注意が必要である。
- こちらが実際に話した言葉を、聞き間違えないでください。
- あの標識は見にくいので、見間違えないように気を付けた方がいい。
例文のように、「間違い」の方は名詞として使われていることが分かるかと思います。主に「正しい基準から外れること」という意味で使われますが、単に失敗やミスといった意味で使われることもあります。
対して、「間違え」の方は名詞としては使われません。こちらは、「間違えて」「間違えた」などのように動詞の一部として使います。
もちろん、すでに説明したように名詞として使われることもあります。例えば、ビジネスシーンでは「お間違えのないように~」などの文がよく使われます。
ただ、正しくは「お間違いのないように~」です。「間違え」でも意味は通じますが、一般的には「お間違いのないように~」と表記します。
口語などの話し言葉では「間違え」も許容されていますが、文章などの書き言葉として使う場合は「間違い」を使うようにしましょう。
本記事のまとめ
以上、本記事のまとめです。
「間違い」=正しい基準から外れること。「間違う」の連用形が名詞化したもの。
「間違え」=(AとBとを)取り違えること。「間違える」の連用形が名詞化したもの。
「使い分け」=「名詞」として使う場合は、原則「間違い」を用いる。
「間違い」と「間違え」はどちらも正しい言葉ですが、名詞になる前の動詞が異なります。「間違い」は「間違う」が名詞化したもの、「間違え」は他動詞である「間違える」が名詞化したものです。
転成名詞は、通常「自動詞」から作られます。そのため、名詞として使う場合は「間違い」を使うのが文法に沿った使い方となります。