方角を表す言葉で、「東南」と「南東」があります。風水や家相などの世界ではよく使われているものです。
ただ、「東」を先に言うのか、それとも「南」を先に言うのかという問題があります。これと同様の問題としては、「北東」と「東北」「南西」と「西南」なども挙げられます。
今回は、それらの疑問も含めて「東南」と「南東」の違いや使い分けを解説しました。
東南と南東の意味
最初に、それぞれの意味を辞書で引いてみます。
【東南(とうなん)】
⇒東と南との中間の方角。巽 (たつみ)。南東。ひがしみなみ。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
【南東(なんとう)】
⇒南と東との中間にあたる方角。東南。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
まず「東南」ですが、「東南」は辞書だと「南東」とも書かれています。ほとんどの辞書では、補足的ですが、最後のように「南東」としっかりと記述されています。
意味は「東と南の中間にあたる方角」を表したものです。
そして、「南東」の方ですがこちらも同様に「南東」=「東南」と記述されています。その他の辞書を確認してみても、「東南」と書かれていないものはありません。
「東」と「南」のどっちが先かという違いは抜きにして、どちらも同じ項目の中に表記されています。
すなわち、両者とも辞書の意味は同じということです。したがって、普通に使う分にはどちらも意味自体に違いはないことになります。
東南・南東の由来・用例
では、実際の用例はどうなっているのでしょうか?意味に違いがないのであれば、なぜ2つの表記があるのか気になる所です。
過去の参考資料を元に考察していくと、まず古代中国の書物である『易経』には次のような記述があります。
西南得朋。東北喪朋。(西南に朋(とも)を得、東北に朋を喪ふ。)
また、奈良時代初期に編纂された『常陸国風土記』には次のような記述があります。
郡西南近有河間。(郡より西南のかた近く河間あり)
同じく、奈良時代に編纂された歴史書である『日本書紀』にも次のような記述があります。
東南橿原地者、(東南の橿原(かしはら)の地は)
いずれも「東」や「西」が先にあり、「南」や「北」が後になっていることが分かるでしょう。
つまり、日本や中国などの東洋では、昔から「東」及び「西」を先頭に方角を記述していたということです。
中国では昔から土地や建物などの吉凶を占う際に、方角をよく用いていました。その占いでは「東」と「西」を先頭にして、方角を表していました。
現在でもその名残はあり、風水を含めた地相や家相などの占いでは、「東南」「西南」などと表記するのが一般的です。
では、もう少し時代を進めて近代以降に入っての用例も確認してみます。
近代の「陸地測量部地図」では、1885年に発行のもので以下のような図名が用いられています。
「東京南東部」「東京北東部」「東京北西部」「東京南西部」
見て分かるように、この時期辺りから「南」と「北」を先頭に置いた方角が使われ出しています。
ところが、1909年の測量ではまた元に戻り、「東」や「西」を先頭とした図名が用いられるようになりました。
「京都東北部」「京都西北部」
そして、比較的最近になって発行された国土地理院の一万分の一の地図(1984年)でも同じく「東西」を先頭とした記述がされるようになりました。
「東京西北部」「東京東北部」「東京西南部」「東京東南部」
流れを整理すると、元々は「東西」を先にする記述がされていたということです。
しかし、近代に入ってからは「東西」を先にするパターンと「南北」を先にするパターンが混合されるようになったということが言えます。
東南と南東の使い分け
すでに説明したように土地や建物などの方角については、「東西」を先にするという習慣が古来からあります。
したがって、土地や建物に関しては「東西」を先頭にして用いるという使い方で問題ありません。
ただし、土地や建物以外の方角については、「南北」を基準にする場合もあります。例えば、風向きを表すような場合です。
風光では「十六方位」と言い、北を始点として時計回りに360度までの角度が用いられます。そのため、「東西」ではなく「南北」が基準の方角が使われることが多いのです。
日本の気象台が創立されたのは1875年の6月1日であり、当時は観測機械を外国に注文し、イギリスの専門家をわざわざ招聘したという経緯があります。
当時の西洋では、気象や航海に関して「南」と「北」を先にする習慣がありました。そのため、西洋の風向の表し方を輸入した日本では、当時の西洋にならって風向きは「南北」を基準に表記するようになったのです。
一方で、日本や中国などの東洋では、方角は風向きに用いるのではなく占いに用いるのが一般的でした。
中国の占いの元である「陰陽五行」では、「東」は「物事が始まる方位」や「春」を意味する方位でした。
これは「東」が太陽が昇る方角であり、すべての物事が始まる方角だと考えられていたからです。
相撲の番付などをみても、東の力士の方が西の力士よりも格上なのは、東の方がエネルギーのある方角だからと言えます。つまり、「東」という方角は、すべての物事の始点だったということです。
日本でも古くからこの太陽の動きを軸にする方法は用いられており、時計回りに「東→東南→南→西南→西→西北→北→東北」という順で方角を記していました。
このような理由もあり、「東南」「東北」などの言葉が使われ出す内に、「東西」を先頭にした方角が使われるようになったのです。
しかしながら、明治以降は気象や航海の分野で西洋の文化を取り入れることが常識となりました。そのため、現在ではどちらの表記も使われているのです。
以上の事から考えますと、本来の由来に沿って両者を使い分けるならば次のような結論を出すことができます。
「気象や航海などの風向きを表す時」=西洋由来の「南北」を基準とした方角を使う。
「土地や建物などの方位を表す時」=東洋由来の「東西」を基準とした方角を使う。
本記事のまとめ
今回は「東南」と「南東」の違いについて解説しました。
「東南・南東」=東と南の中間にあたる方角。
「違い」=意味自体に違いはない。(辞書だとどちらも同一表記)
「使い分け」=風光に使う時は「南東」、土地や建物に使う時は「東南」を用いる。
もちろん、上記の使い分けが絶対的というわけではありません。なぜなら、「東南」と「南東」、どちらの表記も間違いではなく言っていることに変わりはないからです。
ただ、元々の使い方としては「東」を起点に方位学は使われていたという背景があります。私たちが一般に使う際には、土地や建物などの不動産を購入する際に方角はよく用いられます。
その際には、本来の陰陽五行の由来に沿い、「東西」を軸にした方角を使うのが賢明だと言えるでしょう。