「よもや」という言葉をご存知でしょうか?
小説文などでよく使われる表現ですが、普段はなかなか目にしないかもしれません。ただ、この言葉は2020年に大ヒットした漫画、「鬼滅の刃」で使われたことで一躍注目を浴びました。
本記事では、この「よもや」の意味や由来、例文、類語などを詳しく解説していきます。
「よもや」の意味
最初に、「よもや」の意味を辞書で引いてみます。
【よもや】
①万が一にも。いくらなんでも。「よもや負けることはあるまい」
②(あとに推量の表現を伴って)きっと。たぶん。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「よもや」には二つ意味があります。一つ目は、「万が一にも・いくらなんでも」という意味です。
- よもや王が負けるようなことはないだろう。
- よもや母が私を裏切ることはないだろう。
- よもや彼が犯人ということはあるまい。
使い方としては、「まさかそのようなことは起きないだろう」という万が一の予想をするような時に使います。
今までにそんな事態が起こったことはないので、「おそらく、未来もそうはならないだろう」という確信的な推量を表したものです。この意味の場合は原則として、後ろに「~だろう」や「~まい」など打消しの言葉が来ると考えて下さい。
そして二つ目は、「きっと・たぶん」という意味です。
- よもや明日には彼は到着しているだろう。
- あの表情を見ると、よもや嘘をついているだろう。
- 猛勉強したので、よもや合格しているだろう。
この意味の場合は、「おそらくこうなるだろう」「たぶんこうなるだろう」という一般的な予想をするような時に使います。語尾に「~だろう」のような推量の表現が来るのが特徴で、「きっと」「たぶん」などと言い換えることが可能です。
以上、二つの意味を紹介しましたが、一般的には前者の「いくらなんでも」という意味として使われることの方が多いです。後者の「きっと・たぶん」という意味でも使うことは可能ですが、実際にはその用例は思ったほど多くありません。
「よもや」の語源・由来
「よもや」という言葉は、副詞である「よも」に係助詞である「や」を付けて意味を強調したものです。漢字で「よもや」と読むような言葉があるというわけではありません。
「よも」は古くから使われている古語で、平安時代の随筆である『枕草子』にもその用例が確認されています。
「よも起きさせ給(たま)はじとて、臥(ふ)しはべりにき」
[訳] (寝ていらしたので)まさかお起きにならないだろうと、(私も)寝てしまいました。
出典:枕草子 かへる年の
この「よも」だけでも意味は通じますが、現在ではさらに「や」という助詞を付け加えることが多いです。「や」には「疑問・問いかけ・反語」など複数の意味がありますが、ここでは「強調」の意味として使われています。
したがって、「よもや」で「万が一にも・いくらなんでも」という意味になるわけです。
「よもやよもや」とは?
「よもや」を繰り返して、「よもやよもや」と言う場合もあります。「よもやよもや」とは、人気漫画『鬼滅の刃』に登場する「煉獄杏寿郎」という登場人物が発したセリフとして有名なものです。
実際のエピソードとしては、彼がうたた寝をしている間に状況が一変し、目が覚めたら戦いが始まっていたというものがあります。この時に発したセリフが以下のものです。
「うたた寝している間にこんな事態になっていようとは! よもやよもやだ 柱として不甲斐なし! 穴があったら入りたい!」
出典:鬼滅の刃 第7巻
立場的に許されない失敗をしてしまったことが、伝わってくるセリフかと思われます。しかし、自らの失態をはっきりと認め、男らしく恥をきちんと受け入れる姿勢が読者の共感を呼びました。
この事から、「よもやよもや」という使い方も次第に広まるようになったということです。
「よもやよもや」は「よもや」を繰り返しているので、通常の「よもや」よりもさらに強調の意味が込められた言葉と考えるのが妥当です。
「よもや」の類義語
続いて、「よもや」の類義語をご紹介します。
- 「まさか」(打ち消しの推量を強める語)
- 「もしや」(もしかしたら・ひょっとしてなどの意)
- 「万が一にも」(万の中に一つという意でめったにないこと)
- 「いくらなんでも」(どのような理由や事情があれ)
- 「ひょっとすると」(もしかしたらなどと同じ意味)
いずれの言葉も「実現性の低いことを仮定する語」という意味で共通しています。
この中では、「万が一にも」と「いくら何でも」はほぼ同じ意味です。したがって、この二つは「よもや」の同義語だと考えてよいでしょう。
なお、似たような語で「もはや」がありますが、「もはや」とは「今となっては・もう」などの意味を表す副詞です。
【例】⇒もはやこれまでだ。もはや手遅れである。
「もはや」という語は、物事がすでにかなり進んでおり、今からやり直したり軌道修正したりすることが不可能な状態を意味します。
よく戦隊モノなどで、「もはやこれまで」というセリフを聞きますが、あれは「もう手遅れである」という意味で使われています。「もはや」は「よもや」とは違い、時間的に手遅れな様子を表す言葉なので混同しないようしてください。
「よもや」の使い方・例文
最後に、「よもや」の使い方を具体的な例文で紹介しておきます。
- 小学生相手の対決なので、よもや負けることはあるまい。
- あいつはプロの選手だ。よもや失敗するなんてことはないだろう。
- 現役の教師なのだから、よもやこれくらいの知識は知っているだろう。
- よもや病気が発覚したことを想像すると、精神が持たないだろう。
- 帰国子女なのであれば、よもや英会話くらいはできるだろう。
- よもや、相手も攻めてくることは想定していたことだろう。
- こんな結末が待っていようとは。よもやよもやの展開である。
見て分かるように、「よもや」という語は「万が一にも」もしくは「いくらなんでも」という意味で使うことがほとんどです。
「きっと・たぶん」という意味で使われているのは例文の6だけとなります。他はすべて「まさかそのようなことは起きないだろう」という予想を立てた上での発言です。
「よもや」という言葉は3文字なので、「万が一にも」「いくらなんでも」などとするよりは短くて使いやすいです。したがって、文章を短くしたい場面などでは適している表現だと言えます。
逆に、「きっと」「たぶん」などの意味の場合は、単にこれらの言葉を使えば済む話なので無理して使う必要性はありません。
まとめ
以上、今回のまとめとなります。
「よもや」=①「万が一にも・いくらなんでも」②「きっと・たぶん」
「語源・由来」=副詞「よも」に係助詞「や」を付けて意味を強調した語。
「よもやよもや」=「よもや」を繰り返してさらに強調した表現。
「類義語」=「まさか・もしや・万が一にも・いくらなんでも・ひょっとすると」
日本語にはいくつかの副詞がありますが、「よもや」という語は未来のことを想定する際に使われます。これを機にぜひ今後の文章で使ってみてはいかがでしょうか。