『病と科学』は、高校国語・現代文の教科書に載せられている評論文です。そのため、学校の定期テストなどにも出題されています。
ただ、実際に文章を読むと話の流れや筆者の主張が分かりにくいと感じる人も多いと思われます。そこで今回は、『病と科学』の要約やあらすじ、予想問題などを含め分かりやすく解説しました。
『病と科学』のあらすじ
本文は4つの段落から構成されています。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。
①古来から病気は脅威であったが、19世紀の終わりから20世紀の初めにかけて、伝染病が病原菌によって引き起こされることが明らかにされ、病気の見方は大きく変わった。その結果、人々は全ての病気は科学の力で克つことができるという希望を持つようになった。しかし、この幻想は癌や慢性病という病が存在するにも関わらず、「科学はすべての病気を理解できる」という科学信仰に似ている。そのため、医師は強い権限を持ち、病人も医師に依存する状況が生まれた。
②西洋医学は、病気の症状を分析して数値化することで、病気というものに誰にも理解しやすい尺度を与える。しかし、科学は病人と病気を切り離して、その症状にだけ注目して、そこから測定可能なものや検査可能なものを取り出して判断する。医師も一般の人々も医学が出した答えにだけ注目し、それが全てであるかのように思いこんでいるが、それは人間の体の状態のほんの一部にすぎず、医学が人間を排除していることに気づいていないのである。
③科学は分析不能な問題については打つ手をもたないが、現在の医学が最も注目しているのは、痛みと死である。医師は間接的なデータから患者の痛みの程度を判断するが、痛みの存在自体が医師の判断に委ねられている。医師は医学的に証明されたと考えられる痛みにのみ対処しうるのである。患者はすべてを医師に委ねるので、自ら苦しみを受容する能力は失われ、依存性は無能力へと変貌するのである。
④病気の治療において、科学は多くの利益をもたらし、優れた技術も開発した。しかし、科学を過度に信じた結果、病気から人間を排除し、病人が苦しみを受容する能力を奪ってしまった。また、医師が痛み、癌、死などに注目することによって、それが社会に伝播し、社会はますますそれらを恐れるようになった。遺伝子診断、遺伝子治療、クローン人間の作成などは、生命倫理的に多くの問題をはらんでいる。このような科学技術が、経済的利益と結びつく時に私たちは大きな誤りを犯す可能性があるので、科学や人間の限界をわきまえて謙虚に自然と向き合う必要がある。
『病と科学』の要約&本文解説
筆者はまず、第一段落で現代における「病と科学」の関係性について触れています。現代では、「すべての病気は科学で理解することができる」という科学信仰が、人々の心に根強くあると述べています。
次の第二段落で、その科学信仰の例である西洋医学について述べています。西洋医学では病気を数値化することで、病人と病気を切り離し、病状だけに注目して人間を判断します。この事を筆者は、医学が人間を排除していると問題視しています。
第三段落では、「痛み・苦しみと医学」について述べています。医師というのは、医学的に証明された痛みにのみ対処するため、患者側はすべてを意志に委ねて依存してしまうことになります。
この事を筆者は、「依存性は無能力へと変貌する」と述べています。ここでの無能力とはつまり、自分の病気とそれに伴う痛みや死を、自分の問題として受け止められなくなる、という意味です。
第四段落では、「科学と人間の限界」について述べています。科学と人間というのは何でもできるわけではないため、私たちはもっと謙虚にならなければならないという内容です。
全体としては、「科学信仰の問題点」「科学技術と生命倫理の問題点」といった内容を読み取ることがポイントとなります。
『病と科学』の意味調べノート
【古来(こらい)】⇒昔から今まで。古くから。
【天変地異(てんぺんちい)】⇒天地間に起こる自然災害や異変。台風・地震・洪水など。
【外敵(がいてき)】⇒外部から攻撃してくる敵。また、外国から攻めてくる敵。
【脅かす(おびやかす)】⇒ここでは、(生きている状況を)危ない状態にする、という意。
【脅威(きょうい)】⇒強い力や勢いで相手をおびやかすこと。恐れさせるもの。
【伝染病(でんせんびょう)】⇒病原菌が人や動物から別の個体に移り、似たような症状が現れること。
【不可解(ふかかい)】⇒わけがわからないこと。理解ができないさま。
【科学(かがく)】⇒体系的な知識。広い意味では「知識や学問」を指し、狭い意味では「自然科学」を指す。「自然科学」とは自然について研究する学問のこと。
【分析(ぶんせき)】⇒複雑な事柄を一つ一つの要素に分け、その構成や成り立ちを明らかにすること。
【結核(けっかく)】⇒結核菌の感染によって引き起こされる感染症。
【克服(こくふく)】⇒困難に打ち勝つこと。
【克つ(かつ)】⇒(病気を)努力によっておさえつける。
【幻想(げんそう)】⇒現実にはないことをあるかのように心に思い描くこと。
【癌(がん)】⇒皮膚や体内などにできる治りにくい悪性の腫瘍。
【慢性病(まんせいびょう)】⇒慢性の経過をたどる病気。
【信仰(しんこう)】⇒特定の対象を絶対のものと信じて疑わないこと。
【社会保障制度(しゃかいほしょうせいど)】⇒医療、年金、介護保険、子育て支援、生活保護、福祉、公衆衛生など国民の生活を支える制度。
【呪術師(じゅじゅつし)】⇒まじないなどの神秘的な力を使い、一般的には無理な望みを実現させる人。
【依存(いぞん)】⇒他に頼って存在、または生活すること。
【追求(ついきゅう)】⇒目的を達するまでどこまでも追い求めること。
【測定(そくてい)】⇒ある量の大きさを、計器や装置を用いて測ること。
【尺度(しゃくど)】⇒ものさし。判断の基準となるもの。
【錯覚(さっかく)】⇒思い違い。勘違い。
【陥る(おちいる)】⇒ここでは、「悪い状態になる・望ましくない状態になる」という意。
【排除(はいじょ)】⇒おしのけてそこからなくすこと。
【打つ手をもたない(うつてをもたない)】⇒とるべき有効な手段がない。
【間接的(かんせつてき)】⇒人や物を介して行うさま。遠回しなさま。
【鎮痛剤(ちんつうざい)】⇒痛みを取り除いたり、軽減するために用いる医薬品。
【処置(しょち)】⇒病気や傷の手当てをすること。
【委ねる(ゆだねる)】⇒信用して完全にまかせる。
【受容(じゅよう)】⇒ここでは、「受け入れる」という意。
【メカニズム】⇒仕組み。
【解明(かいめい)】⇒ときあかすこと。不明な点をはっきりさせること。
【計り知れない(はかりしれない)】⇒想像できない。
【侵食(しんしょく)】⇒他の領域をしだいにおかし、損なうこと。
【伝播(でんぱ)】⇒伝わり広まること。広く伝わること。
【遊離(ゆうり)】⇒他と離れて存在すること。
【生命倫理的(せいめいりんりてき)】⇒人間の生命、人類の生存について倫理的な観点も加えて総合的に考えるさま。「倫理」とは「人として守り行うべき道。善悪・正邪の判断において普遍的な規準となるもの」を表す。
【はらむ】⇒中に含み持つ。
【成熟(せいじゅく)】⇒人の心や身体などが十分に成長すること。
【科学技術(かがくぎじゅつ)】⇒科学の研究成果を生かして、人間の生活を役立たせる技術。テクノロジー。
【謙虚(けんきょ)】⇒ひかえめですなおなこと。
『病と科学』のテスト問題対策
次の文の下線部の漢字を送り仮名を含め答えなさい。
①ライバルの存在にキョウイを感じる。
②苦手な教科をコクフクする。
③国家の安全をホショウする。
④ジュジュツに頼って雨乞いをする。
⑤目のサッカクを利用する。
⑥カンペキな演技を行う。
⑦判断を上司にユダネル。
⑧栄養にカタヨリがないようにする。
⑨現実からユウリした突飛な発想。
⑩ケンキョな態度で相手に接する。
「人々を数値の魔術に引き込む危険が満ちている」とあるが、それを説明した次の一文の()に入る適当な語句を文中から探し、12文字で抜き出しなさい。
「科学が( )に陥る」
本文全体を踏まえ、筆者の考えとして正しいものを次の中から選びなさい。
(ア)科学は古来から人間に多くの利益をもたらしている以上、その限界を超えるような努力を私たちはすべきである。
(イ)現代の医療は、科学をもってしても限界があるので呪術師のような非科学的な能力を使うことも時には必要である。
(ウ)遺伝子を操作したりクローン人間を生み出したりする生命倫理に反する技術は、人間に利益があったとしても行ってはいけない。
(エ)科学にも限界があると考え、日々進歩する科学を自然の一部として位置付けるような謙虚な姿勢が人間には必要である。
まとめ
以上、本記事では現代文『病と科学』について解説しました。ぜひ定期テストなどの対策用として読み直して頂ければと思います。