沈黙 村上春樹 考察 要約 あらすじ 意味調べノート 伝えたいこと

『沈黙』は、村上春樹によって書かれた文学作品です。教科書・文学国語にも載せられています。

ただ、本文を読むと内容が分かりにくいと感じる箇所も多いです。そこで今回は、『沈黙』のあらすじや語句の意味、テスト対策などをわかりやすく解説しました。

『沈黙』のあらすじ

 

この小説は、四つの段落から構成されています。以下に、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。

あらすじ

①大沢さんは、中学時代からボクシングを習い始め、現在も続けている。中学二年でボクシングジムに入った頃、同じクラスに青木という人物がいた。青木は、頭もよく人気者だった。しかし、大沢さんは、青木のことが嫌いだった。計算高い青木が生理的に我慢できなかったのだ。あるとき、英語のテストで大沢さんが一番になったが、カンニングだという噂が流れた。それはいつもトップだった青木が妬んで仕組んだものだと思った大沢さんは、青木のことを殴る。

②高校三年の夏休みに、同級生の松本に深刻な出来事が起きた。それをきっかけに、「大沢さんが日頃松本に暴力を振るい、金銭を取っていたのではないか」という噂が広がる。この件で警察から事情を聞かれることになり、さらにクラスの仲間や教師から無視されるようになる。大沢さんは、またもやその噂の元は青木だと考えるようになる。

③ある朝、大沢さんは青木と同じ電車に乗り合わせる。互いに睨み合うが、最後は青木のほうが震え始める。クラスでの無視は続いたものの、大沢さんは気にしない決意をした。その後は誰とも言葉を交わさずに高校を卒業し、九州の大学へ進学する。

④大沢さんが最も許せないと感じるのは、口当たりの良い人間の言葉を無批判に受け入れ、他人を傷つけていることも想像せずに生きている連中である。

『沈黙』の考察とテーマ解説

 

『沈黙』は、一人の青年が経験した「孤立」と「不信」、そしてその背景にある他者との距離感を描いた物語です。

大沢さんが語る出来事は、特定の誰かによる露骨な暴力よりも、周囲の人々が空気に流されながら噂を信じ込み、本人へ確認することなく態度を変えてしまうという、現実にも起こりやすい構造を含んでいます。

タイトルにある「沈黙」は、単に声を出さないことだけを指すのではありません。真実を確かめようとしない周囲の沈黙と、大沢さん自身が選ぶ沈黙の両面を表していると考えられます。

特に印象的なのは、大沢さんが青木という同級生に抱いてきた感情です。青木は社交的で優等生として扱われがちですが、大沢さんにはその裏側に潜む計算高さが明確に感じられます。

周囲の人々は青木を「良い人」と評価しつつも、結果的に彼の影響によって生まれた噂が大沢さんを追い込んでいきます。ここには、外見や表面的な印象だけで判断してしまう人間社会の危うさが表れています。

また、大沢さんの語りには、他者に対する鋭い観察が随所に見られます。彼は、意図せず誰かを傷つけてしまう“善良さ”の危険性について強く指摘します。つまり、表面上の優しさや親切心が、実は相手の立場を想像しないまま行われていることを批判しているのです。

物語の終盤で語られる「最も許せないのは、口当たりの良い言葉を無批判に受け取る人間だ」という言葉は、その問題意識を象徴するものといえます。

『沈黙』は、特定の人物を悪として描く作品ではありません。むしろ、日常の中で誰もが無意識のうちに加担してしまう「沈黙」の構造を描き出し、他者の痛みに想像力を向けることの重要性を問いかけています。

読者自身に「自分が何気なく取った態度が、誰かを追い詰めてはいないか」を考えさせる、奥行きのあるテーマを持つ短編だといえるでしょう。

『沈黙』の意味調べノート

 

【不穏(ふおん)】⇒よくないことが起こりそうで、おだやかでないさま。

【眉を吊り上げる】⇒怒ったり不快に感じたりして、眉をきつく上げること。

【温厚(おんこう)】⇒性格が穏やかで優しいこと。

【ごったがえす】⇒人や物が混み合って混乱した状態になること。

【出しぬけ】⇒いきなり予告なしに何かをすること。

【打ちどころ(うちどころ)】⇒物や体を打った場所。

【輩出(はいしゅつ)】⇒優れた人材が次々と生まれ出ること。

【寡黙(かもく)】⇒口数が少ないこと。

【没頭(ぼっとう)】⇒一つのことに深く集中すること。

【一目置く(いちもくおく)】⇒自分より優れていると認め、一歩引いて敬意を払うこと。

【計算高い(けいさんだかい)】⇒損得をよく考えて動くこと。

【自意識(じいしき)】⇒自分自身に対する意識や自覚。

【風采があがらない(ふうさいがあがらない)】⇒外見や服装、態度などがすぐれないこと。

【浅薄(せんぱく)】⇒考え方に深みがなく、内容が乏しいこと。

【鼻にかける】⇒自慢したり得意がったりすること。

【拍子(ひょうし)】⇒物事の調子やきっかけ。

【精を出す(せいをだす)】⇒熱心に努力すること。

【真剣(しんけん)】⇒本気で物事に向き合うこと。

【往々にして(おうおうにして)】⇒よくあることとして。しばしば。

【侮辱(ぶじょく)】⇒相手を見下して傷つけること。

【人望(じんぼう)】⇒多くの人から信頼・尊敬されること。

【相容れない(あいいれない)】⇒互いに考えや性質が合わず、共存できないこと。

【目の色を変える】⇒物事に集中・熱中すること。

【一喜一憂(いっきいちゆう)】⇒状況の変化に応じて、喜んだり悲しんだりすること。

【精進(しょうじん)】⇒努力して励むこと。

【月並み(つきなみ)】⇒ありきたりで平凡なこと。

【よそよそしい】⇒親しみがなく、他人行儀な様子。

【尾鰭をつける(おひれをつける)】⇒話に誇張や余計な情報を付け加えること。

【険悪(けんあく)】⇒雰囲気や関係が悪く、緊張していること。

【申し合わせる(もうしあわせる)】⇒前もって相談して決めておくこと。

【孤立(こりつ)】⇒周囲から離れ、一人だけの状態になること。

【身をけずる(みをけずる)】⇒自分を犠牲にして努力すること。

【やりきれない】⇒つらくて我慢できないこと。

【弁明(べんめい)】⇒誤解や非難に対して事情を説明すること。

【うのみにする】⇒よく考えずにそのまま信じること。

【手の打ちようがない】⇒どう対処していいか方法がないこと。

【冷笑(れいしょう)】⇒あざけるように笑うこと。

【平板(へいばん)】⇒表現や内容に変化がなく、おもしろみのない様子。

【軽蔑(けいべつ)】⇒相手を見下し、価値がないと扱うこと。

【否応なく(いやおうなく)】⇒嫌でも強制的に。

【苦境(くきょう)】⇒苦しい立場や状況。

【根こそぎ(ねこそぎ)】⇒すべてを残らず取り去ること。

【口当たりがよい】⇒とっつきやすい。接しやすい。

『沈黙』のテスト対策問題

 

問題1

次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。

①独断センコウの振る舞いをする。

②不安をフッショクできた。

③秘密がバクロされて困る。

④読書をショウレイする。

ソウゴの協力が必要だ。

解答①専行 ②払拭 ③暴露 ④奨励 ⑤相互
問題2「そういうことってあるでしょう?」と彼は言った。とあるが、「そういうこと」とはどのようなことか?
解答理由がはっきりしないまま、誰かのことをいやでいやでしかたなくなるようなこと。
問題3「青木の方もおそらくそのような気持ちをうすうすわかってたと思います。」とあるが、「そのような僕の気持ち」とはどのような気持ちか?
解答青木のことを浅薄で実のない人間だと見抜き、嫌悪して軽蔑するような気持ち。
問題4「僕はこの学校のそういうところが好きではありませんでした。」とあるが、「そういうところ」とはどういうところか?
解答大学受験のために、教師も生徒もはりつめていて、すべてが入試一辺倒になるようなところ。
問題5「こういう風に罰する」とは、どうすることか?
解答僕のことをクラス全員で無視すること。
問題6「僕はその男の目をみているうちに、だんだん不思議な気持ちになってきた」とあるが、「不思議な気持ち」とはどのような気持ちか?
解答憎んでいるはずの青木に対して、悲しみや哀れみに近い感情が湧き、自分でも理解できないような気持ち。
問題7

次の内、本文の内容を適切に表したものを選びなさい。

(ア)大沢さんは青木に対する怒りを最後まで強く抱き続け、彼を許す気持ちは一切生まれなかった。

(イ)大沢さんは青木と再会したことで、自分の過去の行動が青木に誤解を与えていたことを初めて知った。

(ウ)大沢さんは青木の目を見ているうちに、憎しみとは異なる複雑な感情が込み上げ、自分でも説明しにくい気持ちになった。

(エ)大沢さんは青木の行動を完全に忘れていたが、偶然の再会でその記憶がよみがえり、再び激しい怒りに捕らわれた。

解答(ウ)

まとめ

 

今回は、『沈黙』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。