戦争と平和についての観察 解説 あらすじ 意味調べノート 論理国語

『戦争と平和についての観察』は、中井久夫によって書かれた評論文です。教科書・論理国語にも掲載されています。

ただ、実際に文章読むと筆者の主張が分かりにくいと感じる箇所も多いです。そこで今回は、本文のあらすじや要約、意味調べなどを解説しました。

『戦争と平和についての観察』のあらすじ

 

本文は、四つの段落から構成されています。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。

あらすじ

①人類はなぜ戦争するのか。なぜ平和は永続しないのか。小学校六年生で太平洋戦争の敗戦を迎えた私には、戦争の切れ端を知る者として、自分の考えを「観察」として提出せずにはいられない。

②戦争は有限期間の「過程」である。指導者はカリスマ性を帯び、民衆は自己と指導者との同一視を行う。指導者の責任は単純化される一方で、指導者が要求する苦痛、欠乏、不平等などは民衆が受容し、忍耐するべきものとしての倫理性を帯びてくる。人々は道徳的となり、兵士という雇用や兵器の需要が生まれて経済が活性化する。戦争の酸鼻は見えにくく、非常な不公平を生む。戦争とは、エントロピーの大きい(無秩序性の高い)状態であって自己収束性がない。

③戦争が「過程」であるのに対して、平和は無際限に続く有為転変の「状態」である。平和は絶えず負のエントロピーを注入して、秩序を立て直し続けなければならない。そのための膨大なエネルギーは目に映りにくく、平和が続くと「平和ボケ」と蔑視される。すなわち、平和が続くにつれて家庭も社会も世間も国家も、全体の様相は複雑化、不明瞭化し、見通しが利かなくなる。問題があげつらわれ、指導者は批判され嘲笑の的にされがちで、浅薄な目には戦争はカッコよく平和はダサイと見える。

④時が経つと、戦争を知らない指導層では、戦争への心理的抵抗が低下する。国境線についての些細な対立が重大な不正、侮辱、軽視とされ「ばかにするな」「なめるな」の大合唱となる。そして、ある日、人は戦争に直面する。

『戦争と平和についての観察』の要約&本文解説

 

200字要約戦争は秩序のない「過程」であり、指導者と民衆の同一視により倫理性が付与され、経済も活性化する。一方、平和は秩序維持のために絶えず負のエントロピーを注入する「状態」であり、努力が見えにくいため軽視されやすい。平和が長引くと人々はその複雑さに不満を持ち、戦争への心理的抵抗が薄れていく。やがて、戦争を経験していない人が指導層を占めるようになると、些細な対立が重大視され、人は再び戦争に向かうことになる。(199文字)

筆者は、太平洋戦争の終戦を小学生の頃に経験した人物であり、「なぜ人間は戦争を繰り返すのか」「なぜ平和は続かないのか」という根本的な疑問を、自らの視点から考察しています。この疑問こそが、全体の出発点です。

戦争は「過程」であり、熱狂と単純さが支配する

筆者は、文章の中で戦争の特徴をこう述べています。

  • 戦争は「有限の期間」で終わる「過程」である。
  • 指導者にはカリスマ性が生まれ、民衆はその指導者と自分を重ねる。
  • 苦しみや貧しさも「倫理的に正しいもの」として受け入れられる。
  • 戦争は一種の秩序の崩壊(エントロピー増大)でありながら、逆に人々に明快さや熱狂を与える。

つまり、戦争には「単純で分かりやすい世界がある」ということです。敵と味方がはっきりし、指導者に従えばよいという構図が成立します。だからこそ人々は、戦争の非人道性や不条理さを見失いやすくなるのです。

平和は「状態」であり、努力し続けなければ維持できない

一方で、筆者は平和についてこう説明します。

  1. 平和は「無限に続く状態」であり、維持には不断の努力が必要である。
  2. 社会は複雑化し、指導者も批判されやすくなる。
  3. 戦争に比べ、平和は目立ちにくく、評価されにくい。
  4. 結果として「平和ボケ」や「だらしなさ」のように見える。

つまり、平和は静かで地味な営みでありながら、非常に手間とエネルギーのかかるものなのです。しかし、その価値は日常の中で見えにくくなってしまうため、軽視されがちになります。

戦争の記憶が薄れると、また戦争が始まる

筆者が伝えたいのは、以下のような点です。

  • 時が経つと、戦争の経験を持たない世代が社会の上層を占める。
  • 戦争に対する心理的な抵抗が薄れ、過去の悲劇が忘れ去られる。
  • そして些細な対立から「軽視された」「侮辱された」という感情が先走り、ある日突然、戦争が始まってしまう。

この指摘は、戦争の再発を防ぐには「戦争を知らない世代」が平和の意味を理解しなければならないという強い警告でもあります。

結論──筆者の主張とは何か

筆者の主張は、以下のようにまとめられます。

戦争は一時的な熱狂の「過程」であり、平和は維持が難しい「状態」である。だが、人類はしばしば平和の努力を忘れ、戦争に戻ってしまう。過去の戦争の記憶を持たない世代が増えるほど、その危険は高まる。ゆえに、私たちは平和の維持に自覚的でなければならない。

戦争がかっこよく見えてしまう瞬間、平和が退屈に感じられるときこそが最も危険である──そうした感覚への警鐘こそが、この文章の核心です。

『戦争と平和についての観察』の意味調べノート

 

【寄与(きよ)】⇒役に立つこと。貢献。

【収斂(しゅうれん)】⇒一箇所に集まること。集中すること。

【美学(びがく)】⇒美しさについての考え方や価値観。

【不首尾(ふしゅび)】⇒うまくいかないこと。失敗。

【因子(いんし)】⇒ある結果を引き起こす要素。要因。

【弛緩(しかん)】⇒ゆるむこと。緊張がなくなること。

【隠蔽(いんぺい)】⇒隠して見えなくすること。

【専売(せんばい)】⇒特定の人や機関だけが販売すること。

【抵当(ていとう)】⇒借金の担保として差し出す財産。

【酸鼻(さんび)】⇒むごたらしくて、見るにたえないこと。

【修羅場(しゅらば)】⇒激しい争い。混乱の場面。

【帳尻を合わせる(ちょうじりをあわせる)】⇒つじつまを合わせて計算などを調整すること。

【術策(じゅっさく)】⇒策略。たくらみ。

【自己収斂性(じこしゅうれんせい)】⇒自らの力で収束していく性質。

【強迫的(きょうはくてき)】⇒無理にでもそうさせるさま。

【有為転変(ういてんぺん)】⇒この世が絶えず変化すること。

【葛藤(かっとう)】⇒心の中の迷いや対立。また、争い。

【珠玉(しゅぎょく)】⇒すぐれた作品や美しいもののたとえ。

【小康(しょうこう)】⇒一時的におさまっている状態。

【陳腐化(ちんぷか)】⇒古くさくなって価値を失うこと。

【慢性(まんせい)】⇒良くない状態が長く続くこと。

【空疎(くうそ)】⇒内容や実質がなく、形だけなこと。

【棺を覆うて事定まる(かんをおおうてことさだまる)】⇒人の評価は死んでから定まるということ。

【末梢的(まっしょうてき)】⇒中心から外れた取るに足らないこと。

【扇動(せんどう)】⇒人々の感情をあおって動かすこと。

『戦争と平和についての観察』のテスト対策問題

 

問題1

次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。

①有名人のセイキョが報じられた。

トウジョウ口で手荷物を預けた。

③上司のホサで成功できた。

クウキョな議論が続く。

クツジョクに耐えて生き延びた。

解答①逝去 ②搭乗 ③補佐 ④空虚 ⑤屈辱
問題2「選択肢のない社会」とは、どのような社会か?
解答自分の生き方が自由に選べず、指導者の指示に従うことしか認められないような社会。
問題3「そのしあわせの場」とは、どのような場か?
解答平和状態を維持するための負のエントロピーを生み出すために必要な、無秩序という高いエントロピーの排泄の場。
問題4「この欠落」とは、どのようなことか?
解答指導者に、戦争とはどういうものか、どのように終結させるか、その損失とは何かを考える能力や経験がないこと。
問題5

次のうち、筆者の主張を適切に表しているものを一つ選びなさい。

(ア)戦争は偶発的な出来事であり、指導者の過失によってのみ起こるため、民衆には責任はない。

(イ)戦争には倫理性があり、社会や経済にとっても有益であるから、適度な戦争は必要である。

(ウ)戦争は秩序を失った過程であり、平和は複雑で不安定な状態であるため、維持には不断の努力が必要である。

(エ)平和は当然のものであり、戦争のような極端な状況を考えることは現代には不要である。

解答(ウ)

まとめ

 

今回は、『戦争と平和についての観察』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。