『日本語は世界をこのように捉える』は、高校教科書・現代の国語に載せられている評論文です。定期テストなどにも出題されています。
ただ、実際に本文を読むとその内容や筆者の主張が分かりにくい部分もあります。そこで今回は、本作のあらすじや要約、語句の意味などを含め解説しました。
『日本語は世界をこのように捉える』のあらすじ
本文は、大きく分けて5つの段落から成り立っています。ここでは、各段落ごとの要旨を簡単に紹介していきます。
①日本語の「いる」と「ある」の違いを訊かれると、多くの人は生き物(有情)には「いる」を使い、無生物には「ある」を使うと答える。だが、よく考えると必ずしもこの区分で言い尽くすことはできない。
②いくら説明を増やしていっても、ただ辞書ふうに複数の使用実態を概念化しているだけのことであり、その理由を解き明かすことにはならないのだ。
③「いる」は、その語られている状況に自分自身がひそかに参入して、その状況と「私」とが親しく居合わせていることを表している。「私」はその状況にともに出会っているので、「いる」と語り出すことによって、その状況を「今ここ」にある自分の身体に引き寄せているのだ。
④「いる」「ある」という言葉は、語られている主格の語が、今ここで語っている主体とどれだけ生き生きと関係し合っているかによって区別されると考えるべきだ。「いる」は、単に存在を冷ややかに表す以上の何かを持っているので、そこには語り手の情緒が必ずはたらいていると考えられる。
⑤一方で、「ある」を用いる場合は、端的に存在や様態を表していると言ってよい。「ある」は、より間接的・客観的で冷ややか、「いる」は、より直接的・主観的で温もりを感じさせる表現だと言える。したがって、「ある」に比べて「いる」のほうが、ずっと「語る私」の意識に親しくつき添う意味合いで使われていることになる。
『日本語は世界をこのように捉える』の要約&本文解説
本文は、「ある」と「いる」の違いについて語られている評論文です。筆者は、「いる」には語り手の情緒が必ず働く一方で、「ある」にはそのような情緒は含まれていないと述べています。
例えば、「あいつは今、パリにいる」という一文があったとします。この場合、「あいつは今パリで何をしているのだろうか」「ちゃんと元気にやっているのだろうか」といった何らかの形で彼を思いやる心情が込められています。
仮に「いる」の部分を「ある」にすると「あいつは今、パリにある」という不自然な文になってしまいます。「ある」は、「机がある」「椅子がある」などのように、端的に存在や様態を表す際に使う言葉なのだと筆者は述べています。
似たような例文で比較しますと、
①「車が走っている。」②「走っていく車がある。」
①は、今、目の前に車があり、聞き手も走っている状況を共有しているような文ですが、②は車が走っているという事実を知らない人に説明するような文です。
つまり、「いる」は直接的・主観的なのに対し、「ある」は「間接的・客観的」ということになります。どちらも似ていますが、「ある」よりも「いる」の方が「語る私」の意識に親しく付き添う意味合いを持つ言葉ということです。
『日本語は世界をこのように捉える』の意味調べノート
【有情(うじょう)】⇒感情や意識などの心の動きを持つ生き物。
【無生物(むせいぶつ)】⇒石や水などのように、生命がなく生活機能を持たないもの。
【大過(たいか)】⇒大きな間違い。大変な失敗。「大過ない」で、「大きな間違いはない」という意味。
【言い尽くして(いいつくして)】⇒十分に説明しきって。
【語彙(ごい)】⇒ここでは、「言葉」とほぼ同じ意味。
【含意(がんい)】⇒表面に現れない意味を含み持つこと。また、その意味。
【言語哲学的に(げんごてつがくてきに)】⇒言語の本質を、より広く深く考察する言語哲学の立場から。
【主格(しゅかく)】⇒主語。主体。「車が走っている」の文だと「車が」の箇所。
【繋辞(けいじ)】⇒主語と述語をつなぎ、両者の関係を言い表す語。例えば、日本語の「である」、英語のbe動詞など。
【S-P構造】⇒Subject(主部)とPredicate(述部)の構造。
【壮麗(そうれい)】⇒規模が大きくて美しいこと。また、そのさま。
【伽藍(がらん)】⇒寺や寺院の建物。
【既往(きおう)】⇒過去。また、すんでしまった事柄。
【音韻(おんいん)】⇒言葉の持つ音の響き。
【概念(がいねん)】⇒個々の事物から共通する性質を抜き出して構成される意味内容。「概念化」で「概念の形にすること」という意味。
【観念的(かんねんてき)】⇒現実を無視して、抽象的、空想的に考えるさま。
【形跡(けいせき)】⇒物事が行われたあと。あとかた。痕跡。
【非情(ひじょう)】⇒草や木のような、感情や意識などを持たないもの。
【端的(たんてき)】⇒はっきりとしているさま。
【乖離(かいり)】⇒背き離れること。
【抵抗(ていこう)】⇒反発すること。逆らうこと。
【客観的(きゃっかんてき)】⇒特定の立場にとらわれず、物事を見たり考えたりするさま。
【主観的(しゅかんてき)】⇒自分ひとりのものの見方・感じ方によっているさま。
【所作(しょさ)】⇒ふるまい。しぐさ。身のこなし。
『日本語は世界をこのように捉える』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①ゲンミツには両者は異なる。
②タイカなく定年まで勤める。
③ガンイを読みとる。
④これはキオウの結果だ。
⑤たき火をしたケイセキがある。
⑥タンテキに説明をする。
⑦ガンゼンに広がる景色。
次の内、本文の内容を表したものとして適切でないものを選びなさい。
(ア)生き物(有情)には「いる」を使い、無生物には「ある」を使う、という区分では必ずしもすべてを言い尽くせるわけではない。
(イ)英語の現在進行形は、「何々は何々という動作状態である」と言うのと同じで、日本語の「いる」とはだいぶニュアンスが異なってくる。
(ウ)「テーブルがある」と言った場合、私の意識が生き生きと流れ続けている間も、それとは無関係に机が「あり」続けることを意味する。
(エ)「店先では、いろいろなお菓子を並べている」と言った場合、単に「お菓子」の存在や様態を客観的に記述していることを表す。
まとめ
以上、今回は『日本語は世界をこのように捉える』について解説しました。ぜひテスト対策として頂ければと思います。