
『未来をつくる言葉』は、ドミニク・チェンによる文章です。教科書・文学国語にも掲載されています。
ただ、本文を読むと筆者の主張が分かりにくいと感じる箇所も多いです。そこで今回は、『未来をつくる言葉』のあらすじや要約、語句の意味などをわかりやすく解説しました。
『未来をつくる言葉』のあらすじ
本文は、三つの段落から構成されています。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。
①複数の言語間で育ったわたしは、日常の何気ないコミュニケーションの一つひとつが「翻訳行為」だと感じるようになった。身につけてきた多くの言葉は、自分や他者の感覚を表し、互いに伝え合おうとするための翻訳の技法である。情報社会で異質な個人同士が出会う機会が増える今こそ、「わかりあえなさ」をつなぐために、先人が積み重ねてきた翻訳の知恵と経験を受け継ぐ必要がある。
②今日のインターネット上では、他者と接する機会が広がる一方で、フィルターバブルによって「わかりあえる」集団と「わかりあえない」集団の分断が強まっている。それでも、言葉の力によって多様性を結び、行き来することは可能だと考える。コミュニケーションは、理解し合うことを目標とするよりも、わかりあえなさを橋渡しする技法であり、その結び目から新しい意味や価値が生まれてくる。理性だけでなく身体にも働きかける言語や、「共話」によって心理的な土台を築くことが重要である。
③私のこれまでの研究も、家族や社会、自然環境との関係にある固有の「わかりあえなさ」に向き合い、その乗り越え方を探る試みであった。どの関係性にも起こる「わかりあえなさ」も、それは埋められるべき隙間ではなく、新しい意味が生じる余白である。そこにじっと耳を傾けていれば、そこからお互いをつなげる未知の言葉を紡いでいけるのだ。
『未来をつくる言葉』の要約&本文解説
複数の言語間で育ったわたしは、何気ないコミュニケーションが他者とをつなぐ翻訳行為だと思えるようになった。情報社会では、「わかりあえる」集団と「わかりあえない」集団の分断が強まるが、コミュニケーションとはわかりあうためのものではなく、「わかりあえなさ」をつなぐためのものである。「わかりあえなさ」をつなぐ結びめから、新たな意味と価値が生まれ、そこからお互いをつなげる未知の言葉を紡いでいけるのだ。 (199文字)
この文章で筆者が一番伝えたいのは、「コミュニケーションとは、完全にわかりあうためのものではなく、わかりあえなさをつなぐためのものだ」という考えです。
筆者は複数の言語や文化の中で育ちました。その経験から、日常の会話も一種の「翻訳」だと考えるようになります。翻訳とは、外国語を別の言語に直すことだけではありません。自分の感じたことを相手に伝え、相手の気持ちを受け取る工夫も翻訳だと述べています。
しかし、インターネット社会では、自分と似た意見の人だけが集まり、異なる考えの人とは分断されがちです。これをフィルターバブルといいます。その中で大切なのは、無理に「同じ考えになる」ことではありません。
たとえば、クラスで意見が対立したとき、すぐに相手を否定するのではなく、「なぜそう考えるのか」を聞いてみることが大切です。違いを認めたうえで、つながろうとする姿勢が必要なのです。筆者はそれを「共話」と呼びます。対立して勝ち負けを決めるのではなく、共に在る感覚をつくる話し方です。
わかりあえない部分は、欠点ではありません。そこには新しい意味が生まれる余白があります。違いに耳を傾けることで、未来をつくる新しい言葉が生まれると筆者は考えているのです。
『未来をつくる言葉』の意味調べノート
【身悶えする(みもだえする)】⇒苦しさや悲しさなどで、体をよじってもだえること。
【些細(ささい)】⇒取るに足りないほどわずかで、小さいこと。
【任意(にんい)】⇒自分の意思にまかせること。強制ではないこと。
【情緒(じょうちょ)】⇒しみじみとした気分や感情の動き。
【数多(あまた)】⇒数が非常に多いこと。たくさん。
【紐解く(ひもとく)】⇒本を開いて読むこと。また、物事を順に明らかにすること。
【試行錯誤(しこうさくご)】⇒失敗と工夫を繰り返しながら解決を目指すこと。
【嗜好性(しこうせい)】⇒人の好みに合う性質。好みの度合い。
【皮膜(ひまく)】⇒物の表面をおおう薄い膜。皮膚や粘膜。ここでは「それぞれの価値観」に閉じ込められることの比喩として使われている。
【許容(きょよう)】⇒受け入れて認めること。
【フィルターバブル】⇒インターネット上で、自分の好みに合う情報だけが表示され、異なる意見に触れにくくなる現象。泡の中にいるように見たい情報しか見えなくなる状態から。
【原初(げんしょ)】⇒物事のはじまり。最初の状態。
【越境(えっきょう)】⇒境界線を越えること。
【共話(きょうわ)】⇒互いの違いを認めながら、共に在る感覚をつくる話し合い。
【牽引(けんいん)】⇒先頭に立って引っ張っていくこと。
【露呈(ろてい)】⇒隠れていたことが表に現れること。
【架橋(かきょう)】⇒橋をかけること。転じて、何かと何かをつなぐ役割を果たすこと。
【抗う(あらがう)】⇒抵抗する。逆らう。
【意思の疎通(いしのそつう)】⇒お互いの考えや気持ちが通じ合うこと。
【生起する(せいきする)】⇒ある物事が起こる。生じる。
『未来をつくる言葉』のテスト対策問題
次の仮名部分を漢字に直しなさい。
①サッカクに気づく。
②ボウセキ工場へ行く。
③コッキを胸に挑む。
④ユウテンが高い金属。
⑤カソの村を訪ねる。
①錯覚 ②紡績 ③克己 ④融点 ⑤過疎
「その隙間をなんとか埋めようとする仕草に、」とあるが、ここでの「隙間」とは、何と何の間のことか?
翻訳で「自分の体験を通じて感じたこと」が相手のわかる言葉に置き換えられるものと、置き換えられないものとの間。
「情報技術は、人間の社会にもとより存在する傾向を強化しているに過ぎない。」とあるが、ここでの「傾向」とはどのような傾向か?
人間が互いに「わかりあえる」集団と「わかりあえない」集団に区別されるような傾向。
「わたしたちは自らの生のプロセスを託す相手を見つけながら生きている。」とあるが、これはどういうことか?
わたしたちは親子の関係はもちろんのこと、友人や恋人、仕事仲間、師弟といった関係性のなかで、自分と等しく生命的なプロセスを生きるものが存在している、共に在ると感じられる場を作りながら生きているということ。
次の内、本文の内容を表したものとして最も適切なものを選びなさい。
(ア)コミュニケーションとは、互いに完全に理解し合い、意見の違いをなくすことを目的とする営みである。
(イ)情報社会では分断が進んでいるため、異なる価値観をもつ他者との対話は避けるべきである。
(ウ)コミュニケーションは「わかりあえなさ」をつなぐ技法であり、その違いから新たな意味や価値が生まれてくる。
(エ)合理的な議論さえ徹底すれば、異質な他者との間に心理的な土台は自然に形成される。
(ウ)
まとめ
今回は、『未来をつくる言葉』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として活用していただければと思います。