寛容は自らを守るために不寛容に対して不寛容になるべきか 要約 あらすじ 意味調べノート 動脈硬化

『寛容は自らを守るために不寛容に対して不寛容になるべきか』は、教科書・文学国語で学習する文章です。高校の定期テストの問題にも出題されています。

ただ、実際に文章を読むと筆者の主張が分かりにくいと感じる箇所も多いです。そこで今回は、本文のあらすじや要約、意味調べなどを解説しました。

『寛容は自らを守るために~』のあらすじ

 

この文章は、大きく四つの段落から構成されています。以下に、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。

あらすじ

①寛容が不寛容に対して不寛容になった事例は、過去にもあり、今後もあるだろう。だが、それは悲しく呪わしい人間的事実であり、その発生阻止に全力を尽くすべきである。寛容は自らを守るために不寛容に対して不寛容たるべきではない、というのが私の結論だ。これまで、人間はさまざまな掟や契約を作り出して進歩してきた。寛容が不寛容に対して不寛容になってはならないという原則も、新しい契約として獲得されるべきである。

②秩序は常に改善と進展を志さなければならない。既成秩序から恩恵を受ける人は、逆にその秩序の犠牲になって苦しむ人の存在をわきまえる義務を持つべきだ。このような条件内において、寛容は最低限の暴力らしいものを用いる。

③寛容の武器は、説得と自己反省しかない。したがって、寛容は不寛容に対するとき、常に無力であり、敗れ去るものである。しかし、たとえ無力なものでも、犠牲をなるべく少なくしようとし、推進力の一つとして不寛容の暴走の制動機となろうとする寛容は、過去の歴史でも決してないほうがよかったものではなかったはずだ。

④現実には不寛容が厳然として存在する、しかし、我々はそれを激化させないように努力しなければならない。人間は常に自らが危険な獣であると自覚し、反省し、自らの作ったものの奴隷や機械になってはならない。歴史は繰り返すと称して、何度も犠牲を出すことは避けなければならない。

『寛容は自らを守るために~』の要約&本文解説

 

200字要約寛容が自らを守ろうとして不寛容に変質する行為は、人間社会が繰り返してきた問題であり、避けるべき事態である。寛容が用いる手段は説得と自己反省に限られ、力としては弱いが、対立の暴走に歯止めをかける効果を持つ。既存の秩序には必ず不利益を受ける者が存在し、恩恵を得る側にはその痛みを理解する義務がある。現実に不寛容が存在する以上、人間は自らの危うさを自覚し、歴史の過ちを繰り返さない姿勢が求められる。(196文字)

この文章で筆者が最も強く主張しているのは、「寛容な立場の人間は、不寛容な相手に対しても不寛容になってはいけない」 という点です。つまり、「相手が乱暴だからこちらも乱暴に返す」という態度は、寛容の否定につながるため採用すべきではない、ということです。

筆者はまず、歴史の中で「寛容を守るため」と称して、結局は暴力や排除に走ってしまった例があると指摘します。例えば、異なる宗教を認めると言いながら、異端を迫害した時代がその典型です。

こうした行為は寛容の精神そのものを壊し、さらに不寛容を生む悪循環を作ります。筆者はこれを「悲しく呪わしい事実」と批判し、二度と繰り返すべきではないと主張します。

次に筆者は、社会の秩序には必ず「恩恵を受ける側」と「犠牲になる側」が存在すると述べます。だからこそ、強い立場にある者には、弱い立場の者の苦しみを理解しようとする姿勢が求められます。ここで重要なのが「寛容が使える力は、説得と自己反省に限られる」という点です。

寛容は暴力では対抗できず、短期的には敗れやすい立場にあります。しかし、それでも自分自身を見つめ直し、対立を和らげようとする姿勢こそが、歴史の中で争いの暴走を抑える役割を果たしてきました。

最後に筆者は、現実世界には不寛容が必ず存在することを認めつつ、私たちはそれを強めないために自覚と反省を続ける必要があると述べます。人間は時に「危険な存在」になり得るため、自分たちが作った制度や感情に飲み込まれないよう注意すべきだと促します。

筆者は、寛容の側が不寛容に染まらず、冷静な制動役として働くことが、人類の歴史を進歩させる条件だと結論づけているのです。

『寛容は自らを守るために~』の意味調べノート

 

【寛容(かんよう)】⇒心が広く、相手の考えや行動を受け入れること。

【割り切れない(わりきれない)】⇒納得できず、気持ちの整理がつかない。

【切羽つまった(せっぱつまった)】⇒追いつめられて余裕がない状態。

【是認(ぜにん)】⇒正しいとして認めること。

【肯定(こうてい)】⇒その通りだと認めること。

【逆上(ぎゃくじょう)】⇒強い怒りで我を失うこと。

【怨恨(えんこん)】⇒深くうらむこと。うらみ。

【猜疑(さいぎ)】⇒人を疑うこと。

【恣意(しい)】⇒思いついたまま。気まま。

【悶着(もんちゃく)】⇒いざこざ。もめ事。

【当該(とうがい)】⇒その事に関係している。それに当てはまる。

【係争者(けいそうしゃ)】⇒争いごとに関わっている人。

【弱肉強食(じゃくにくきょうしょく)】⇒弱い者が強い者に負けるという世の中の仕組み。

【悲惨(ひさん)】⇒非常に不幸でいたましいこと。

【横行(おうこう)】⇒悪いことが広く行われること。

【日陰者(ひかげもの)】⇒公然と世間に出られない者。世間から冷たい扱いを受ける人。

【制裁(せいさい)】⇒悪い行いに対して罰を加えること。

【安穏(あんのん)】⇒穏やかで落ち着いていること。世の中が穏やかで平和なこと。

【福祉(ふくし)】⇒人々が幸せに暮らせる状態。幸福な生活環境。

【永劫(えいごう)】⇒永遠に続くこと。非常に長い年月。

【人一倍(ひといちばい)】⇒普通の人以上であるさま。

【弁える(わきまえる)】⇒道理や立場などをよく理解すること。

【進展(しんてん)】⇒物事が進み、発展すること。

【円滑(えんかつ)】⇒物事がスムーズに進むこと。

【遵守(じゅんしゅ)】⇒決まりごとを忠実に守ること。

【日常茶飯(にちじょうさはん)】⇒日常によくある、特別ではないこと。毎日のありふれた事柄。

【対峙(たいじ)】⇒向かい合って対立すること。

【厳然(げんぜん)】⇒動かしがたいほどはっきり存在している様子。

【奴隷(どれい)】⇒自由を奪われ、従わされる人。

【愚劣(ぐれつ)】⇒ばかげていて劣っていること。

『寛容は自らを守るために~』のテスト対策問題

 

問題1

次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。

カンダイな対応で安心した。

②建物の契約をコウシンする。

③仲間のダッタイに皆が驚いた。

モウレツな雨で外出を断念した。

レッセイでも粘って勝利をつかんだ。

解答①寛大 ②更新 ③脱退 ④猛烈 ⑤劣勢
問題2「悲しく呪わしい人間的事実」とは、どのような事実か?
解答寛容が自らを守るために、不寛容に対して不寛容になる事実。
問題3「動脈硬化に陥る」とは、どのようなことか?
解答ある秩序が、その秩序の欠陥によって犠牲になっている人を省みず、改善や進展を志すこともないまま、長期間にわたって固定化すること。
問題4「歴史は繰り返すと称して、聖バルトロメオの犠牲を何度も出すべきだと言う人」とは、どのような人か?
解答不寛容であることは人間の宿命であり、過去の歴史がそれを証明しているという考えのもとに、不寛容を推し進めようとする人。
問題5「だからこそ、我々は用心せねばならぬのである。」とあるが、ここでの「用心」とは何に対してか?
解答人間自身の手で作られた制度や決まりの奴隷となり、権力側がそれに盲従することをすべての人々に強制し、従わない人を抑圧すること。
問題6

次の内、本文の内容を最も適切に表しているものを選びなさい。

(ア)寛容が不寛容に対処するためには、必要に応じて力を行使し、不寛容に対して過酷に臨むべきである。

(イ)寛容は説得と自己反省を武器とするため常に弱いが、対立の激化を抑える役割を果たしてきた点で価値がある。

(ウ)既存の秩序は常に正しいものであり、それを守る側は秩序の恩恵を受ける人々を優先すべきである。

(エ)不寛容はあらゆる場面で避けられるものであり、人間が歴史の中で克服してきた問題である。

解答(イ)「(ア)本文は「寛容は不寛容に対しても不寛容になってはならない」としており、力で対抗する考えを否定しているため誤り。(ウ)本文は「既存の秩序には犠牲が生まれるため、改善を目指すべき」と述べており、秩序を無批判に守る考えとは合わない。(エ)本文は不寛容が「厳然と存在する」とし、容易には克服できない問題としているため、「克服してきた」とする記述は誤り。(イ)寛容は弱い手段しか持たないが、不寛容の暴走を抑える役割をもつという主旨と一致する。」

まとめ

 

今回は、『寛容は自らを守るために不寛容に対して不寛容になるべきか』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。