
『神様』は、小説家・川上弘美による文学作品です。高校の教科書・文学国語にも掲載されています。
ただ、本文を読むと作者の考えや伝えたいことなどがわかりにくいと感じる部分も多いです。そこで今回は、『神様』のあらすじやテーマ、語句の意味などをわかりやすく解説しました。
『神様』のあらすじ
この作品は、内容から次の5つの段落に分けることができます。以下に、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介します。
①【私とくまとの出会い】
「わたし」の住むアパートの三つ隣、305号室に、ある日くまが引っ越してくる。くまは近所の住人に蕎麦と葉書を配るなど、非常に礼儀正しく気配りのできる存在である。名前を尋ねられても、「今のところ名はありません」と理屈っぽく答え、自分が唯一のくまである以上、名乗る必要はないと語る。そんな少し大時代で不思議なくまに、ある日「わたし」は河原への散歩に誘われる。
②【大時代で理屈を好むくま】
くまは言葉遣いが丁寧で、物事を理屈で考える性格をしている。「君」や「あなた」ではなく「貴方」と呼ばれることを好むなど、独特の価値観を持っているが、横柄さはなく、終始穏やかである。その話しぶりや態度から、「わたし」はくまを恐れることなく、自然に受け入れている様子がうかがえる。
③【河原までの道】
河原へ向かう途中、「わたし」はくまが周囲からどう見られるかを気にかける。一方で、くまは歩調や体調に気を配り、「わたし」に細やかな配慮を見せる。水田の間の道ですれ違った三人連れのうち、子どもはくまに近づき、毛を引っ張ったり蹴ったりするが、大人はそれを止めず、くまの顔を正面から見ようとしない。こうした場面でも、くまは感情をあらわにせず、淡々としている。
④【河原での様子】
河原に着くと、周囲の人々はくまを遠巻きに見たり、ひそひそ話をしたりする。そんな視線を意識しないかのように、くまは川を見つめ、突然大きな魚を捕まえる。そしてその場で魚をさばき、干物にして「わたし」のために用意する。草の上で弁当を食べ、「わたし」が昼寝をして目を覚ますと、干物は三匹に増えており、くまの自然な行動と気遣いが印象づけられる。
⑤【一日の終わり】
帰り道、くまは「いい散歩でした」と満足そうに語り、別れ際に故郷の習慣だとして抱擁を求める。「わたし」はそれを受け入れ、くまは「熊の神様のお恵みがあなたの上にも降り注ぎますように」と穏やかに言葉を残す。別れた後、「わたし」は熊の神を想像しながら、正体は分からないままでも、不思議と心が落ち着き、「悪くない一日だった」と振り返る。
『神様』の主題&本文解説
結論(筆者の主張)
この文章の作者が伝えようとしている考えは、「自分とは明らかに違う存在(異質な存在)とも、恐れや排除ではなく、自然で穏やかな距離感で共に生きることは可能であり、その関係は人に安らぎをもたらす」という点にあります。
なぜ「くま」が登場するのか?
この作品で最も特徴的なのは、くまが人間と同じアパートに住み、普通に会話をしているという点です。現実ではありえない設定ですが、作中では誰も大騒ぎはしません。
これは、次のことを示しています。
- 「くま」= 人間社会における“異質な存在”の象徴
- 国籍・文化・価値観・外見などが「自分と違う人」を広く表している
つまり作者は、「くま」という非現実的な存在を通して、現実社会の人間関係を描いているのです。
周囲の人々の態度が示すもの
河原へ向かう途中や河原では、周囲の人々が次のような態度をとります。
- 子どもはくまを乱暴に扱う
- 大人は「わたし」の顔色をうかがうが、くまを正面から見ない
- 釣り人は遠巻きに見て何か話している
これらはすべて、異質な存在に対する戸惑い・恐れ・無関心を表しています。重要なのは、「くま自身はそれらに強く反応しない」「怒りも反論もしない」という点です。
ここから分かるのは、差別や偏見は、向ける側の問題であり、向けられる側が必ずしもそれに応じる必要はないという視点です。
「わたし」と「くま」の関係の意味
「わたし」は、くまを守ろうとしたり、社会に訴えたりはしていません。そこには、特別な理解や正義感などは描かれていないです。しかし同時に、くまを排除したりもしていません。
- 一緒に散歩をする
- 弁当を食べる
- 抱擁を受け入れる
これらは、相手を完全に理解しなくても、共に過ごすことはできるという考えを示しています。
「理解しなければならない」「正しく扱わなければならない」といった強い主張はなく、「ただ、穏やかに受け入れる」態度が描かれている点が特徴です。
ラストの「悪くない一日」の意味
物語の最後で、「わたし」は「見当はつかないが、悪くない一日だった」と振り返ります。
これは、次のことを意味しています。
- 「くま(異質な存在)」の正体や神の存在は分からない
- しかし、その不確かさを不安とは感じていない
- むしろ、心が穏やかになっている
つまり作者は、「分からないものを、分からないまま受け入れること」そのものに価値があると伝えているのです。
具体例で考えると、例えば、
- クラスに価値観が大きく違う人がいる
- 行動や考え方が理解できない人がいる
その人を「理解しよう」と無理に分析しなくても、
- 普通に話す
- 必要以上に恐れない
- 距離を保ちつつ尊重する
それだけで、関係は成り立つことがあります。『神様』は、そうした現代社会の人間関係のあり方を、静かに肯定している作品なのです。
まとめ(筆者の主張)
以上のことから、筆者の主張は次のようにまとめることができます。
- 異質な存在は、排除すべきものではない
- 完全な理解がなくても、人は共に過ごせる
- 分からなさを抱えたままでも、穏やかな関係は成立する
- そうした関係は、人の心を静かに満たす
この作品は、声高に主張しないからこそ、読む人に深い余韻を残す文学作品だと言えます。
※タイトル「神様」の意味
『神様』というタイトルは、特定の宗教的な神を指すのではなく、人間には完全に理解できない存在や不思議さ、異質な他者との関わりを象徴していると考えられます。
作中のくまは現実にはありえない存在ですが、その静かで穏やかな行動や気遣いは、日常の中で小さな恵みをもたらすことが描かれています。
つまり、「神様」とは、理解できなくても受け入れたときに心に安らぎを与えてくれる、見えない力や存在を表しているということです。
『神様』の意味調べノート
【ハイキング】⇒野山を歩いて自然の中を楽しむこと。
【ふるまう】⇒もてなす。食事などを人に出す。
【配慮(はいりょ)】⇒気を配って心づかいをすること。心配り。
【まんざら】⇒完全に否定できないさま。必ずしも。
【赤の他人(あかのたにん)】⇒血縁や関係がまったくない他人。
【叔父(おじ)】⇒父もしくは母の弟。
【感慨(かんがい)】⇒しみじみと心に感じること。
【縁(えにし)】⇒えん。つながり。ゆかり。
【昔気質(むかしかたぎ)】⇒昔ふうの気質。昔ながらの考え方を大切にする性質。
【近隣(きんりん)】⇒近くの地域や周囲の人々。
【舗装(ほそう)】⇒道路などをアスファルトなどで固めること。
【大時代(おおじだい)】⇒きわめて古風なこと。考え方が古風で今の時代に合わないこと。
【理屈(りくつ)】⇒物事の筋道や理由。
【邪気がない(じゃきがない)】⇒悪意や裏心がなく素直なさま。
【縄張り(なわばり)】⇒自分の勢力や支配が及ぶ範囲。
【行き届く(いきとどく)】⇒細かいところまで注意や配慮がなされる。
【真面目(まじめ)】⇒誠実で真剣なさま。
【機会(きかい)】⇒物事を行うよい時やチャンス。
【抱擁(ほうよう)】⇒相手を抱きしめること。
『神様』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①ハケン社員として働く。
②害虫をクジョした。
③朝にアイサツをする。
④カゼで学校を休む。
⑤早めにシュウシンした。
まとめ
今回は、川上弘美『神様』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。