貨幣共同体 要約 わかりやすく解説 意味調べノート 現代文 あらすじ

『貨幣共同体』は、教科書・論理国語で学習する文章です。高校の定期テストの問題にも出題されています。

ただ、本文を読むと筆者の主張が分かりにくいと感じる箇所も多いです。そこで今回は、『貨幣共同体』のあらすじや要約、意味調べなどをわかりやすく解説しました。

『貨幣共同体』のあらすじ

 

本文は、三つの段落から構成されています。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。

あらすじ

①同一の貨幣を共有することによってむすばれる人間の集団を「貨幣共同体」とよぶ。ひとびとは、貨幣を貨幣として使うことを目的として、貨幣共同体の構成員になる。その意味で、貨幣共同体とは、利害の一致にもとづいて合理的に形成される社会的関係としての利益社会である。貨幣共同体の成立には、契約や定款は存在せず、成立要件は、ひとびとが貨幣を貨幣として使っているという事実のみである。

②貨幣共同体は、貨幣を貨幣として使っていること以外になんの実体性もない。それはただ、みずからが未来永劫にわたって存在しつづけるという宙づり的な期待によってのみ支えられている。モノを商品として売ることが貨幣共同体に参加することであり、モノを商品として買うことが貨幣共同体から退出することである。ただし、売ることは買うことよりもはるかに困難なことである。

③売ることと買うことを超越論的な立場から見直すと、売買の非対称性はおおきく反転する。商品の売り手は、どのような場合でも、貨幣共同体にとっての「異邦人」となる自由だけはもっている。これに対して、すでに貨幣を手のなかにもっている商品の買い手には、そのような自由は残されていない。なぜなら、今実際に貨幣を手にもっているということは、すでに貨幣共同体と運命をともにしてしまったことを意味するからだ。貨幣を手にもつ商品の買い手は、その意味で、つねに「危機」のなかにおかれている。つまり、貨幣で商品を買うということは、売り手が「異邦人」ではなかったということを、そのたびごとに実証する行為にほかならない。それは、貨幣を貨幣としてあらしめ、貨幣共同体を成立させた歴史の始原のあの「奇跡」を日常的にくりかえすことである。

『貨幣共同体』の要約&本文解説

 

200字要約「貨幣共同体」は、ひとびとが貨幣を貨幣として使うという事実だけで成り立つ利益社会である。この共同体は実体を持たず、宙づり的な期待によって支えられている。売り手は共同体の「異邦人」となる自由があるが、貨幣を持つ買い手は共同体と運命を共にしており、常に危機にさらされている。貨幣で商品を買うことは、売り手が異邦人でないことをその都度実証する行為であり、歴史の始原の「奇跡」を日常的に繰り返すことである。(199文字)

現代社会において、私たちは日々お金を使って商品を買ったり、サービスを受けたりしています。しかし、こうした行動の背景には、見えにくいけれども重要な「貨幣共同体」という考え方があります。本文では、この「貨幣共同体」の本質と、その不安定さについて、哲学的に考察されています。

1. 「貨幣共同体」とは何か?

筆者はまず、「貨幣共同体」という言葉を定義しています。これは、同じお金(貨幣)を使っている人々の集まりのことです。人々は、「お金を使う」というただそれだけの理由で、この共同体の一員になります。

この共同体には、契約や定款などの明文化されたルールはありません。ただ、「みんながお金をお金として使っている」という事実だけで成り立っています。つまり、お互いが『お金は価値がある』と信じ合っていることで社会が成立しているのです。

このような社会は「利益社会」と呼ばれます。「利益社会」は、家族や友情のような感情的なつながりではなく、利害の一致によって作られる関係です。

2. 「貨幣共同体」の不安定さ

次に筆者は、「貨幣共同体」の不安定さに注目します。「貨幣共同体」は、皆が『これからもお金が使えるはずだ』と信じ続けていることだけによって支えられています。つまり、「根拠のない信頼」によって成り立っている、極めてあやふやなものです。

さらに、筆者は、商品を「売ること」と「買うこと」の違いについて述べています。

売る人は、貨幣共同体の外にいる「異邦人(よそ者)」のような立場であり、商品を売るか売らないかを自分で決めることができます。つまり、共同体に加わるかどうかを選べる自由があるのです。

一方で買う人は、すでに貨幣を手にしている時点で、その共同体にどっぷりと浸かっており、逃れられない立場です。貨幣が通じなければ、自分の持っている価値そのものが無に帰してしまうからです。

このように、売り手が「異邦人」のように共同体に出入りできるのに対し、買い手は常にその内部に縛られているため、不安とリスクを引き受けているのです。

3. 買うことは「奇跡」の再現である

筆者は、さらに深いレベルからこの売買関係をとらえ直します。

「物を買う」という行為は、単に商品を得ることではなく、その商品が「本当に売ってもらえるものだった」と証明することになります。

もし売り手が「このお金は受け取れません」と言えば、その瞬間、共同体の前提が崩れてしまうからです。

「売ってくれる人=異邦人ではない」と分かるたびに、私たちは「この社会がまだ機能している」と感じることができます。筆者はこのことを、「貨幣共同体が成立したときの奇跡をくり返している」と表現しています。

つまり、私たちが日常的にしている買い物は、社会の根本を毎回確かめる行為ということです。

まとめ:筆者の主張とは

筆者が伝えたい主なポイントは、次のとおりです。

「貨幣共同体」とは、貨幣の使用を通じて成り立つ、根拠のない期待と信頼に支えられた社会である。そして、物を買うという行為は、この社会が今なお成立していることを、そのつど確かめる『奇跡の再現』である。

この文章では、日常的で当たり前に見える「お金のやりとり」が、実はとても不確かで、そして深い意味を持っているということが論じられています。特に、「お金を使うこと=貨幣共同体への参加」という視点は、経済の仕組みを哲学的に考えるうえで興味深い発見と言えるでしょう。

『貨幣共同体』の意味調べノート

 

【共同体(きょうどうたい)】⇒人間社会で、人々が利害関係ではなく、血縁や地域の関係によって結合している社会集団。

【慣習(かんしゅう)】⇒長い間、社会で繰り返されて定着した行動や決まり。

【情念(じょうねん)】⇒強く心にわき起こる感情。特に、激しい思い。

【血縁(けつえん)】⇒血のつながり。親子や兄弟などの関係。

【地縁(ちえん)】⇒同じ土地に住んでいることから生まれる人間関係。

【定款(ていかん)】⇒会社の活動や業務内容などの基本ルールを定めた文書。

【略奪(りゃくだつ)】⇒力づくで奪い取ること。

【連鎖(れんさ)】⇒物事が次々とつながっていくこと。

【呪術的(じゅじゅつてき)】⇒まじないや神秘的な力に頼るさま。

【威信的(いしんてき)】⇒人をおそれさせるような強い力と、それによって人から信用を受けるさま。

【始原(しげん)】⇒物事の始めや起こり。

【自明(じめい)】⇒言わなくても当然のこととしてわかっていること。

【転化(てんか)】⇒形や性質が他のものに変わること。

【跳躍(ちょうやく)】⇒とびはねること。比喩的に、急に変化・発展すること。

【茶化す(ちゃかす)】⇒からかったり、ふざけたりすること。

【流動性(りゅうどうせい)】⇒物や状況が常に変化し、安定しない性質。

【崇めたてる(あがめたてる)】⇒この上なく尊いものとして敬う。

【反転(はんてん)】⇒ひっくり返ること。ひっくり返すこと。

【異邦人(いほうじん)】⇒その土地や社会に属さない、よそから来た人。ここでは、貨幣共同体に関わりをもたないような人を指す。

【保蔵(ほぞう)】⇒貨幣によってなされる価値の貯蔵。

【原理的(げんりてき)】⇒根本となるしくみに基づいているさま。

【排除(はいじょ)】⇒そこから取り除くこと。

【実体的(じったいてき)】⇒中身があり、現実に存在しているさま。

【実証(じっしょう)】⇒事実や証拠に基づいて明らかにすること。

【あらしめ】⇒存在させ。

『貨幣共同体』のテスト対策問題

 

問題1

次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。

ケツエン関係を確認する。

レンサ反応が次々と起きた。

タイショウ的な構図が目を引く。

ハイジョの論理が働いている。

⑤歴史のシゲンの物語に触れる。

解答①血縁 ②連鎖 ③対称 ④排除 ⑤始原
問題2「ものの数にもはいらないモノ」という語句が繰り返されているが、どのような効果があるか?
解答貨幣として使用されている金属や紙、電磁的なパルスといったものは、それが貨幣でなければまったく価値がないものであることを読者に強く印象づける効果。
問題3「逆である。」とは、どのようなことか?
解答ひとびとは貨幣共同体の構成員だから貨幣を使うのではなく、貨幣を貨幣として使うことを目的として、貨幣共同体の構成員になるということ。
問題4ここでの「非対称性」とは、どのようなことか?
解答貨幣をもつ買い手と、商品をもつ売り手は対等な関係にあるわけではなく、売ることは買うこともよりもはるかに困難であるということ。
問題5「命をすてる結果」とは、どのようなことか?
解答貨幣を貨幣として受けいれない「異邦人」の出現により、貨幣が通用しなくなり、貨幣共同体が崩壊するようなこと。

まとめ

 

今回は、『貨幣共同体』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。