「一抹の不安を残して~」という言い方を聞いたことがないでしょうか?
日常的な文章だけでなく、小説の文言やドラマのナレーションなどにおいても使われる表現です。ただ、そもそも「一抹」とは一体何なのかといった疑問があります。
そこで本記事では、「一抹の不安」の意味や語源、使い方、英語訳などを含め詳しく解説しました。
一末の不安の意味・読み方
最初に、読み方と基本的な意味を紹介します。
【一抹の不安(いちまつのふあん)】
⇒ほんの少しだけ解消されずに残っている、不安の念、または不安要素。
出展:実用日本語表現辞典
「一抹の不安」は、「いちまつのふあん」と読みます。「抹」という字は、右側が「末」とあるように「まつ」と読みます。
意味は「ほんの少しだけ解消されずに残っている不安の念・不安要素」などのことです。
例えば、私たちが普段生活している上で、わずかに残るような不安な気持ちを抱くことはあります。身近な例だと、家を出た後に鍵をちゃんと閉めたかどうか?火の後始末を忘れずにしたかどうか?などのような不安な気持ちです。
何かはっきりしないけども、ちょっとした胸のざわつきが気になるようなことはよくあります。このような、実際に何かをするほどではないものの、心に引っかかっているような小さな不安を「一抹の不安」と言うわけです。
一末の不安の語源・由来
「一抹の不安」の語源はどこから来ているのでしょうか?まず、「一抹」という言葉を辞書で引いてみます。
【一抹(いちまつ)】
⇒〔画筆でひとなすり、ひとなでの意から〕ほんのわずか。ごくかすか。
「抹(まつ)」
①なでつける。こすりつける。
②ぬりつぶす。ぬりけす。
③粉にする。
出典:三省堂 大辞林
「抹」には複数意味がありますが、今回は①の「なでつける」という意味が該当します。「なでつける」とは「紙を筆でスッとなでる動作のこと」だと考えて下さい。
この「抹」に数字の「一」を付け足すことにより、「一抹」とは「ひとなでする様子」という意味になります。
次に、「不安」についてです。打消しの「不」と「落ち着き・やすらか・おだやか」を意味する「安」を合わせることで、「不安」とは「心が落ち着かない様子」を表す言葉となります。
よって、二つの意味を整理しますと、「一抹の不安」=「ひとなでした程度の心の落ち着かなさ」となります。転じて、現在の「わずかな不安・わずかな不安要素」という意味になるわけです。
「一抹の不安」の語源をたどると、同じ不安は不安でも、心に引っかかるような小さな不安を表した慣用句であることが分かるでしょう。
一末の不安の類義語
続いて、「一抹の不安」の類義語を紹介します。
以上、4つの類義語を紹介しました。どれも心が落ち着かないことやその落ち着かない原因を表しています。
「一抹の不安」は、「一抹」が「不安」の度合いを説明している言葉です。紹介した類義語の前に、「少し」や「多少の」などを付けるとより近い意味となります。
話の流れや相手が大人か子供かによって使い分けると、より伝わりやすくなるでしょう。
一抹の不安の対義語
逆に、「対義語」としては次のような言葉が挙げられます。
どちらも「不安」と対照的な「希望」を表す言葉です。さらに、「小ささ」を意味する「一筋」や「一縷」を付け足すことで、より反対語に近い意味となります。
一末の不安の英語訳
「一抹の不安」は、英語だと次のように言います。
「slight apprehension(わずかな不安)」
「a little uneasiness(少しの不安)」
「slight」や「a little」は、「少しの・わずかな」といった少量を表す意味があります。そして、「apprehension」や「uneasiness」は「不安・心配」という意味です。
日本語の構成と同じように、「少し」の意味を持つ単語に「不安」の意味を持つ単語を合わせることで、「一抹の不安」を表現することができます。
例文だと、それぞれ以下のような言い方です。
I felt slight apprehension about his behavior.(私は彼の行動に一抹の不安を感じた。)
I felt a little uneasiness about her remarks.(私は彼女の発言には少しの不安を感じた。)
※「about」+「対象」とすることで、何に不安を感じているかを説明することができます。
一末の不安の使い方・例文
最後に、「一抹の不安」の使い方を例文で紹介しておきます。
- 友人の「たぶん大丈夫だよ」という言葉に、一抹の不安がよぎることとなった。
- ささいな失敗であったが、客に一抹の不安を抱かせるには十分なものであった。
- これまでずっと積み重ねた努力を思い返せば、私には一抹の不安もありません。
- その日の話し合いについてだが、一抹の不安を残して幕を閉じることとなった。
- もしかしたらという一抹の不安が、待ち合わせ場所へ向かう彼の足取りを重くさせた。
- 本当に間違いがなかったのだろうか?という一抹の不安が今も捨てきれないでいます。
「一抹の不安」は、基本的には「不安」と同じように使うことができます。「一抹の」を足すことで、表現の幅を広げていると考えてください。
不安がある時に使えばはっきりとしない不安感を表せますし、不安がない時に使えば不安を一切感じていないことの強調ができます。
ただ、「少し・わずか」という意味だからといって、どんな言葉にも使えるというわけではありません。
語源で紹介したように、「抹」という漢字には「ぬりつぶす・ぬりけす」といった意味があるので、「抹殺」「抹消」などが本来の使い方となります。要するに、あまり良い意味としては使われないのです。
したがって、もしも「不安」以外の言葉を使う時は、「一抹の寂しさ」「一抹の疑問」のように否定的な意味として使うのが基本となります。
まとめ
以上、本記事のまとめです。
「一抹の不安」=ほんの少しだけ解消されずに残っている不安の念・不安要素。
「語源・由来」=ひとなでした程度の心の落ち着かなさから。
「類義語」=「懸念・心配の種・憂い事・気掛かり」
「対義語」=「一筋の光・一縷の望み」
「英語訳」=「slight apprehension」「a little uneasiness」
「一抹の不安」という慣用句はよく使われます。漢字本来の意味を理解したからには、ぜひ正しい場面で使って頂ければと思います。