『不思議な拍手』は、教科書・現代の国語で学ぶ文章です。定期テストの問題などにも出題されています。
ただ、実際に本文を読むとその内容が分かりにくいと感じる人も多いと思われます。そこで今回は、『不思議な拍手』のあらすじや要約、語句の意味などを含め簡単に解説しました。
『不思議な拍手』のあらすじ
本文は、行空きにより4つの段落に分けることができます。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。
①カワカベさんは、アルツハイマー型の認知症であり、高齢者施設の最古参である。普段は声が出ることも少なく、じっとどこかを見ていることが多い。それでも娘さんはカワカベさんに何度か声を掛け続けている。
②カワカベさんは声を上げ、不思議な拍手をする時がある。それは、娘さんがリビングの扉を開け、引き戸の向こうへ消える時であった。また、週に一度来るパン屋さんが職員さんと話をして、リビングの扉を開け、引き戸の向こうへと消える時にも同じような拍手をした。私の見た限り、カワカベさんが拍手をしたのは娘さんとパン屋さんが退場した時であった。必ずしもすべての退場者に対して拍手をしているわけではないのだ。
③私は1960年代に行われた心理学の実験を思い出した。参加者に興奮性の薬物を投与し、片方のグループには身体の変化を薬物によるものだと知らせる。だが、もう片方のグループには何も知らせない。事情を知らせなかったグループを、さらにサクラが楽しそうな状況を作る場合と辛い状況を作る場合に分けた。すると、楽しい状況にいた参加者は情動の高まりをポジティブに捉え、辛い状況にいた参加者は情動の高まりをネガティブに捉えた。人はある原因で情動が高まっている時、情動を説明しやすい別の現象が起こっていると、別の現象のほうで自分の情動を捉える。娘さんやパン屋さんとの会話は、カワカベさんにとって非日常なハレの雰囲気であるため、情動を高めることになる。しかし、情動が高まった原因を忘れてしまうカワカベさんは、まだ先ほどの高揚が残っているため、「高揚」と「立ち去る人」を結び付けて、「パフォーマンス後の退場」とし、拍手をするのではないか。
④自分の高まった情動を、相手への称賛や感謝に結びつけるのは誰にでもできることではない。カワカベさんの拍手には、彼女の朗らかや人柄やユーモア、機知さを感じる。娘さんと他人との拍手の有無や高揚の違いを見ても、カワカベさんはやはり娘さんのことを分かっているのではないか。
『不思議な拍手』の要約&本文解説
アルツハイマー型認知症であるカワカベさんは、自分の娘さんが扉を開けて帰ろうとしたときに拍手をしました。また、週に一度パン屋さんが来て、扉を開けて帰ろうとした時にも同じような拍手をしました。
ここから筆者は、誰でも退場するたびに拍手をしているわけではなく、娘さんとパン屋さんが退場する時だけカワカベさんが拍手をしていることに気付きます。
そして、1960年代に行われた心理学の実験を思い出します。この実験では、薬物を投与したことを知らされていない参加者が、周囲のサクラが楽しい状況を演じると自身の情動の高まりをポジティブに捉え、逆に周囲のサクラが辛い状況を演じると自身の情動の高まりをネガティブに捉えることが判明します。
この現象を筆者は、「高まりの誤帰属」だと述べています。人間というのは、自分の情動が高まることとそれをどう捉えるかは別の機能であり、その繋がりを誤って帰属させてしまう場合があるということです。
例えば、本来は楽しくないのに、自分が楽しいと感じるのは、周囲で皆が楽しい雰囲気でいるからだと誤解してしまうようなことです。これと同じ現象が、カワカベさんにも起こっていたのではと筆者は分析します。
カワカベさんにとって、自分の娘との会話もたまに訪れるパン屋さんの会話も、日常とは違った晴れがましい雰囲気をもたらすため、気分が高揚します。
カワカベさんは認知症なので気持ちが高まった原因をすぐに忘れてしまいますが、先ほどまでの高揚はまだ残っています。そこで、二人が退場する状況を見て、「高揚」と「立ち去る人」を頭の中で結び付けて「パフォーマンス後の退場」と誤って捉えて拍手をするということです。
筆者はこのカワカベさんの行動を誰にもできることではないのだと語ります。なぜなら、人間は自分の感情が高まっている原因を他の人間への感謝や称賛へと結びつけることは簡単にはできないためです。
心理学の実験でも分かった通り、高まりの後に起こる感情はポジティブにもネガティブにもなる可能性があります。ポジティブに捉えたのは、カワカベさんの朗らかな人柄、ユーモアや機知があるからだと筆者は考えているわけです。
最終的に筆者は、カワカベさんはやはり娘さんのことを「分かっている」のではと結論付けています。
それは、娘さんと筆者では拍手の有無の違いがはっきりと表れていることからも分かります。また、娘さんの声やたたずまいは、筆者とは全く異なる高揚をカワカベさんにもたらしていることからも分かります。
筆者は人間行動学者でもあるため、一般の人であれば分からないと思ってしまうことも、このようにしっかりと相手を観察することで、その謎を解き明かせるということを私たち読者に教えてくれているのです。
『不思議な拍手』の意味調べノート
【淡々(たんたん)】⇒あっさりしているさま。
【ひととき】⇒しばらく。いっとき。
【嘆き(なげき)】⇒深く悲しむこと。
【最古参(さいこさん)】⇒最も古くからそこにいる者。
【入所(にゅうしょ)】⇒施設などに入って生活すること。
【頓着(とんちゃく)】⇒気にすること。
【名演(めいえん)】⇒すばらしい演技。
【興奮に駆られる(こうふんにかられる)】⇒感情が高ぶることでいっぱいになる。
【胸を突く(むねをつく)】⇒びっくりする。はっとする。
【卸し(おろし)】⇒問屋が商品を小売店に売り渡すこと。
【愛想(あいそ)】⇒人当たりのいい態度。
【気ぜわしさ】⇒忙しさ。
【冷や水を浴びせる(ひやみずをあびせる)】⇒意気込みをくじくような言動をする。意気込んでいる人に元気を失わせるような言動をする。
【退場(たいじょう)】⇒出て行くこと。
【誰彼構わず(だれかれかまわず)】⇒相手が誰かを問わないさま。誰であっても気にしないさま。
【情動(じょうどう)】⇒一時的な感情の動き。
【依頼(いらい)】⇒頼むこと。
【投与(とうよ)】⇒薬を与えること。
【誤帰属(ごきぞく)】⇒従わないこと。
【高揚(こうよう)】⇒精神や気分などが高まること。
【唐突(とうとつ)】⇒出し抜けであるさま。突然、事が起こるさま。
【披露(ひろう)】⇒人に見せること。
【賞賛(しょうさん)】⇒ほめ称えること。
【朗らか(ほがらか)】⇒心にこだわりがなく、晴れ晴れとして明るいさま。
【機知(きち)】⇒その時その場合に応じて働く才知。
【親密(しんみつ)】⇒互いの交際が深いこと。
『不思議な拍手』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①病院でシンダンを受ける。
②コウフンして眠れない。
③会場でハクシュが起こる。
④アイソのよい店員。
⑤薬物をトウヨする。
⑥士気がコウヨウする。
⑦彼とはシンミツな間柄だ。
まとめ
以上、今回は『不思議な拍手』について解説しました。ぜひ何度か読み直して、内容を理解して頂ければと思います。