『富嶽百景』は、太宰治による有名な小説文です。高校国語・現代文の教科書などにも取り上げられており、学校の授業などにおいても学びます。
ただ、本文中には意味の分かりにくい言葉や読み方の難しい漢字なども出てきます。そこで今回は、『富嶽百景』に出てくる重要語句・難読漢字などを簡単にまとめました。
第一場面:絵画と現実の富士
富士の頂角、広重の富士は八十五度、~
【富士(ふじ)】⇒「富士山」の略。
【頂角(ちょうかく)】⇒三角形の頂点の角度。0度より大きく90度より小さい角。
【広重(ひろしげ)】⇒歌川広重(うたがわひろしげ)のこと。江戸時代の画家で、『東海道五十三次』が有名。
【文晁(ぶんちょう)】⇒谷文晁(たにぶんちょう)のこと。同じく江戸時代の画家で、江戸の三大画家の一人。
【陸軍(りくぐん)】⇒陸上戦闘を主な任務とする軍備・軍隊。
【実測図(じっそくず)】⇒実際に測った結果を示した図。
【及(および)】⇒および。
【断面図(だんめんず)】⇒物を垂直に切ったと仮定して、その断面を表した図。「断面」とは物を切断した際の切り口を表す。
【縦断(じゅうだん)】⇒縦の方向に断ち切ること。
【華奢(きゃしゃ)】⇒姿や形が細くて繊細なさま。
【北斎(ほくさい)】⇒葛飾北斎 (かつしかほくさい)のこと。江戸時代の画家で、「富嶽三十六景」が有名。
【エッフェル鉄塔(てっとう)】⇒エッフェル塔のこと。フランスの首都パリの象徴的な名所となっている塔。「鉄塔」とは鉄骨や鉄柱を素材とした塔を指す。
【鈍角(どんかく)】⇒90度より大きく、180度より小さい角。
【のろくさ】⇒動作がいらいらするほど遅いさま。
【拡がる(ひろがる)】⇒幅や面積が大きくなる。
【秀抜(しゅうばつ)】⇒他よりぬきんでてすぐれていること。
【すらと】⇒ほっそりしていて形のよいさまを表わす語。すらりと。
【印度(いんど)】⇒インド。
【沼津(ぬまづ)】⇒静岡県東部の地名。
【ふと】⇒はっきりした理由や意識もないままに事が起こるさま。思いがけず。不意に。
【驚嘆(きょうたん)】⇒おどろき感心すること。
【憧れる(あこがれる)】⇒理想とする物事や人物に強く心が引かれる。
【俗(ぞく)】⇒ありふれていること。また、そのさま。
【素朴(そぼく)】⇒自然のままに近く、あまり手の加えられていないこと。
【純粋(じゅんすい)】⇒邪念や私欲のないこと。
【得る(える)】⇒可能である。~できる。
【心細い(こころぼそい)】⇒何となく寂しく感じられる。ものさびしい。
【裾(すそ)】⇒山などの麓(ふもと)。山の下の方の部分。
【十国峠(じっこくとうげ)】⇒静岡県東部、熱海市と函南 (かんなみ)町との境にある峠。
【いただき】⇒物の最も上の部分。山頂など。
【勾配(こうばい)】⇒ 傾きの度合い。傾斜。
【げらげら】⇒しまりなく、大声で笑うさま。
【 他愛ない(たあいない)】⇒しまりがない。
【之(これ)】⇒これ。
【帯紐(おびひも)】⇒衣服を着るときの帯と紐。
【諸君(しょくん)】⇒主に男性が、対等かそれ以下の多数の相手に対して、親しみを込めていう語。きみたち。みなさん。
【逢(あ)う】⇒互いに顔を向かい合わせる。場所を決めて対面する。
【慶祝(けいしゅく)】⇒喜び祝うこと。
【非礼(ひれい)】⇒礼儀にそむくこと。失礼なこと。
【とがめる】⇒過ちや欠点などを取り上げて責める。非難する。
【地平線(ちへいせん)】⇒大地と天との境にほぼ水平に見える線。
【飾り菓子(かざりがし)】⇒花・鳥・魚などの形に美しく細工した菓子。
【船尾(せんび)】⇒船の後ろの部分。
【沈没(ちんぼつ)】⇒船などが水中に沈むこと。
【軍艦(ぐんかん)】⇒軍用艦船の総称。
【或る(ある)】⇒ある。
【途方に暮れる(とほうにくれる)】⇒方法や手段が尽きて、どうしてよいかわからなくなる。
【一睡(いっすい)】⇒ちょっと眠ること。ひと眠り。
【あかつき】⇒太陽の昇る前のほの暗いころ。夜明け。明け方。
【小用(しょうよう)】⇒小便をしに行くことを遠回しに言った語。
【金網(かなあみ)】⇒針金を編んで作った網。
【アスファルト路(みち)】⇒アスファルトの道路。
【疾駆(しっく)】⇒速く走ること。
【めつぽふ】⇒めっぽう。並みの程度でないさま。
【呟き(つぶやき)】⇒つぶやくこと。
第二場面:御坂峠と井伏氏と三ツ峠
昭和十三年の初秋、思ひをあらたにする覚悟で、
【初秋(しょしゅう)】⇒秋の初め。
【甲州(こうしゅう)】⇒山梨県北部の地名。
【起伏(きふく)】⇒高くなったり低くなったりしていること。
【虚しい(むなしい)】⇒空虚である。内容がない。
【小島烏水(こじまうすい)】⇒日本山岳会の初代会長。登山家。
【拗ね者(すねもの)】⇒すねた態度をとる人。
【仙遊(せんゆう)】⇒俗を離れて仙境で遊ぶこと。「仙境」とは俗界を離れた静かで清浄な土地を表す。
【げてもの】⇒普通とは違って、風変わりなもの。
【御坂峠(みさかとうげ)】⇒山梨県南部、御坂山地(みさかさんち)にある御坂山と黒岳間の峠。
【海抜(かいばつ)】⇒海水面から測った陸地の高さ。
【峠(とうげ)】⇒山道をのぼりつめて、下りにかかる所。山の上り下りの境目。
【天下茶屋(てんがちゃや)】⇒大阪市西成区の地名。
【茶店(ちゃみせ)】⇒道ばたに設けて通行人を休ませ、茶や菓子、料理などを接待する店。
【井伏鱒二(いぶせますじ)】⇒小説家。本作の主人公(太宰治)の師匠。
【初夏(しょか)】⇒夏のはじめ。
【隣室(りんしつ)】⇒となりの部屋。
【東海道(とうかいどう)】⇒江戸時代の五街道の一つとしての道。
【鎌倉往還(かまくらおうかん)】⇒鎌倉と各地を結んだ古道のこと。
【衝(しょう)】⇒必ず通る道や地点。要所。
【観望台(かんぼうだい)】⇒景色などを遠く広く見渡すために設けた高い台。
【三景(さんけい)】⇒景色のすぐれた土地を三か所選んでいう語。
【軽蔑(けいべつ)】⇒ばかにすること。さげすむこと。
【おあつらひむき】⇒あつらえむき。注文通りであること。希望通りであること。
【河口湖(かわぐちこ)】⇒山梨県南部、富士山北麓にある湖。富士五湖の一つ。
【近景(きんけい)】⇒近くの景色。
【両袖(りょうそで)】⇒左右両方のわきの部分。
【狼狽(ろうばい)】⇒あわてふためくこと。あわててうろたえること。
【ペンキ画(え)】⇒ペンキ(油ペイント)を用いて描かれた絵。特に、銭湯の壁にペンキで描かれた風景画のこと。
【書割(かきわり)】⇒芝居の大道具の一。木製の枠に紙や布を張り、建物や風景などを描いて背景とするもの。
【註文(ちゅうもん)】⇒注文。
【三つ峠(みつとうげ)】⇒山梨県都留市、西桂町、富士河口湖町の境界にある山。
【急坂(きゅうはん)】⇒傾斜の急な坂。
【這ふ(はう)】⇒手足を地面や床などにつけて進む。
【蔦(つた)かづら】⇒つる草の総称。
【山路(やまみち)】⇒山の中の道。
【見よい(みよい)】⇒見た感じがよい。
【軽快(けいかい)】⇒軽々としていて、動きのすばやいこと。
【持ち合せ(もちあわせ)】⇒ちょうどそのとき持っているもの。
【ドテラ】⇒綿を厚く入れた広袖の着物。防寒や寝具に使う。
【毛脛(けずね)】⇒毛深いすね。
【一尺(いっしゃく)】⇒約30cm。「尺」は尺貫法の長さの基本単位を表す。
【露出(ろしゅつ)】⇒あらわれでること。
【老爺(ろうや)】⇒年をとった男性。
【地下足袋(じかたび)】⇒ゴム底の労働用の足袋(たび)。(じかに土を踏む足袋の意。「地下」は当て字)
【むさ苦しい(むさくるしい)】⇒だらしなくてきたならしい。
【角帯(かくおび)】⇒男帯の一種。男性の和装においてもっとも用いられる帯。
【麦藁帽(むぎわらぼう)】⇒むぎわらの帽子。夏に日よけ用として用いる。
【なりふり】⇒身なりと振る舞い。服装と態度。
【霧(きり)】⇒大気中の水蒸気が凝結し、無数の微小な水滴となって浮遊する現象。
【パノラマ台(だい)】⇒周囲の景色が遠くまで見渡せる高い所。展望台。
【断崖(だんがい)】⇒垂直に切り立ったがけ。
【縁(へり)】⇒すぐ手前。
【眺望(ちょうぼう)】⇒見晴らし。眺め。
【煙草(たばこ)】⇒タバコ。
【放屁(ほうひ)】⇒おならをすること。
【老婆(ろうば)】⇒年をとった女性。
【経営(けいえい)】⇒事業を行なうこと。
【掲示(けいじ)】⇒明らかに示すこと。かかげ示すこと。
【懸命(けんめい)】⇒力のかぎり努めるさま。精一杯。
【注釈(ちゅうしゃく)】⇒補足的な説明を加えること。
【番茶(ばんちゃ)】⇒日本で飲まれる緑茶の一種。
【眺める(ながめる)】⇒じっと見つめる。
【おとも】⇒目上の人などに、つき従っていくこと。
【見合ひ(みあい)】⇒結婚の相手を求めて、男女が会うこと。
【無雑作(むぞうさ)】⇒技巧をこらさないこと。念入りでないこと。
【夏羽織(なつばおり)】⇒夏に着る薄い単(ひとえ)の羽織。
【薔薇(ばら)】⇒バラ科バラ属の低木の総称。
【母堂(ぼどう)】⇒他人の母を敬っていう語。母上。
【客間(きゃくま)】⇒来客を応接する部屋。
【挨拶(あいさつ)】⇒人に会ったときや別れるときなどに取り交わす礼にかなった動作や言葉。
【よもやま】⇒世間。また、世間のさまざまなこと。
【長押(なげし)】⇒日本建築で、柱から柱へと水平に打ち付けた材。
【鳥瞰写真(ちょうかんしゃしん)】⇒真上からとった写真。「鳥瞰」とは鳥が空から見おろすように、高い所から広い範囲を見おろすこと。
【額縁(がくぶち)】⇒絵・写真・書画などを入れて壁などにかけるための枠。がく。
【睡蓮の花(すいれんのはな)】⇒水の上に浮かぶように咲くスイレン科の花。古くから神聖な花として扱われてきた。
【帰京(ききょう)】⇒都に帰ること。ここでの都は「東京」を指す。
【へたばる 】⇒疲れはてる。へとへとになる。
【対談(たいだん)】⇒ここでは、「(苦手な富士山と)対話する」という意味。
【浪漫派(ろうまんは)】⇒芸術の一派。古典的なものを尊重する傾向がある。
【ハイキング】⇒自然を楽しみながら野山などを歩くこと。
【僧形(そうぎょう)】⇒僧の姿。髪を剃り、袈裟 (けさ)を着た僧侶の姿。
【顎(あご)でしゃくる】⇒相手を見下した態度で、人や物事を指し示す。
【墨染(すみぞめ)】⇒墨で染めること。また、そのような黒い色やねずみ色。
【ころも】⇒衣服。きもの。
【振り仰ぐ(ふりあおぐ)】⇒顔を上へ向けて高い所を見る。
【小男(こおとこ)】⇒小さい男。
【富士見西行(ふじみさいぎょう)】⇒西行法師が笠や旅包みをわきにおいて、富士山をながめている後ろ姿の図。
【聖僧(せいそう)】⇒徳の高い僧。
【乞食(こじき)】⇒食物や金銭を人から恵んでもらって生活する人。
【冷淡(れいたん)】⇒思いやりがないこと。同情や親切心を示さないこと。
【脱俗(だつぞく)】⇒世間から離れて、俗事にわずらわされないこと。
【能因法師(のういんほうし)】⇒平安時代中期の歌人。
【周章狼狽(しゅうしょうろうばい)】⇒あわてふためくこと。
【有様(ありさま)】⇒物事の状態。
【みぐるしい】⇒見苦しく情けない。
【右往左往(うおうさおう)】⇒うろたえてあっちへ行ったりこっちへ来たりすること。あわてふためいて混乱したさま。
【かなぐり捨(す)てる】⇒身につけているものを荒々しく取って放り出す。
【取り乱す(とりみだす)】⇒心の落ち着きを失う。見苦しいようすをする。
【退散(たいさん)】⇒その場からのがれ去ること。
第三場面:文学青年、新田の訪問
新田といふ二十五歳の温厚な青年が、~
【温厚(おんこう)】⇒穏やかで、優しくまじめなさま。
【岳麓(がくろく)】⇒山のふもと。
【依つて(よって)】⇒よって。
【馴れて(なれて)】⇒慣れて。
【お邪魔(じゃま)】⇒人の家などを訪問することをへりくだっていう語。
【しりごみ】⇒気後れしてためらうこと。ぐずぐずすること。
【デカダン】⇒退廃的。「退廃的」とは道徳的にくずれて不健全なさまを表す。
【性格破産者(せいかくはさんしゃ)】⇒性格に問題がありすぎる人のこと。
【苦笑(くしょう)】⇒おもしろくてではなく、仕方なくする笑い。返答にとまどったり、不愉快に思っても表面に出せない時などに思わずする笑い。
【勇(ゆう)をふるう】⇒勇気を出し尽くす。
【偵察(ていさつ)】⇒相手の様子・動きなどをひそかに探ること。
【決死隊(けっしたい)】⇒決死の覚悟で特殊な任務に当たる部隊。
【率直(そっちょく)】⇒ありのままで隠すところがないこと。
【硝子(がらす)】⇒ガラス。
【念々(ねんねん)】⇒時々刻々(じじこくこく)。間をおかずに引き続いているさま。
【愛憎(あいぞう)】⇒愛と憎しみ。
【聡明(そうめい)】⇒物事の理解が早く賢いさま。
【苦悩(くのう)】⇒あれこれ苦しみ悩むこと。
【藁一すぢ(わらひとすじ)】⇒わずかな。
【自負(じふ)】⇒自分の才能・知識・業績などに自信と誇りを持つこと。
【駄々つ子(だだっこ)】⇒だだをこねる子供。わがままを言う子供。
【幾人(いくにん)】⇒どれほどの人数。何人。
【うすら寒い(さむい)】⇒少し寒い感じである。
【工合ひ(ぐあい)】⇒具合。
【較べる(くらべる)】⇒比べる。
【モウパスサン】⇒モーパッサンのこと。フランスの小説家で、自然主義の代表的作家の一人。
【令嬢(れいじょう)】⇒貴人の娘。身分や地位の高い人の娘。
【貴公子(きこうし)】⇒高貴な家柄の男子。貴族の子弟。
【ストオヴ】⇒ストーブのこと。暖房器具。
【猿股(さるまた)】⇒腰や股を覆う、男子用の短い下ばき。
【鉄鎚(かなづち)】⇒泳ぎのできない人。
【勇敢(ゆうかん)】⇒勇気があり、危険や困難を恐れないこと。
【姫君(ひめぎみ)】⇒貴人の娘を敬っていう語。
【愁嘆(しゅうたん)】⇒なげき悲しむこと。悲嘆。
【朝顔(あさがお)】⇒歌舞伎の『朝顔日記』のこと。本作に登場する盲目の女性の芸名も「朝顔」と言う。
【大井川(おおいがわ)】⇒静岡県を流れる河川。
【大水(おおみず)】⇒大雨などのため、川の水があふれて陸地を浸すこと。洪水。
【めくら】⇒目が見えないこと。視力を失っていること。
【棒杭(ぼうぐい)】⇒棒状の木のくい。
【天道(てんとう)】⇒太陽。
【清姫(きよひめ)】⇒安珍・清姫伝説に登場する清姫という名の女性。
【安珍(あんちん)】⇒安珍・清姫伝説に登場する安珍という名の僧。
【知合(しりあい)】⇒互いに相手を知っていること。また、その相手。
【おのおの】⇒それぞれ。
【月夜(つきよ)】⇒月のある夜。
【したたる】⇒美しさや鮮やかさがあふれるばかりに満ちている。
【燐(りん)】⇒おにび(鬼火)。きつねび。
【鬼火(おにび)】⇒雨の降る暗夜などに、墓地や湿地の空中を漂う青い火。
【狐火(きつねび)】⇒闇夜に山野などで光って見える燐火。鬼火。
【ほたる】⇒ホタル科の昆虫。
【すすき】⇒イネ科の多年草。
【葛の葉(くずのは)】⇒伝説上のキツネの名前。
【下駄(げた)】⇒木製の履き物の一種。
【澄む(すむ)】⇒音がさえてよく響く。
【溜息(ためいき)】⇒気苦労や失望、また、感動したときや緊張がとけたときなどに、思わず出る大きな吐息。
【維新の志士(いしんのしし)】⇒明治維新における志士。志士は一般に日本の江戸時代後期の幕末において活動した在野の人物を指す。※「在野(ざいや)」とは公職につかないで民間に居ること。
【鞍馬天狗(くらまてんぐ)】⇒幕末の京都を背景に活躍した志士。
【ふところ手(で)】⇒和服を着たとき、手を袖から出さずに懐に入れていること。
【興ある(きょうある)】⇒趣が深い。おもしろい。
【ロマンス】⇒空想的、冒険的、伝奇的な要素の強い物語。
【阿呆(あほう)】⇒愚かなこと。愚かな人。
【無意志(むいし)】⇒意志のないこと。「意志」とは、あることを行いたい、または行いたくないという考え・意向を指す。
後半へと続く
「第四場面~第六場面(後半)」へと続く。(こちらもしくはページ下部の2をクリック)