骨とまぼろし 要約 意味調べノート あらすじ 地のシルエット 解説

『骨とまぼろし』は、真木悠介によって書かれた文章です。教科書・文学国語にも取り上げられています。

ただ、本文を読むと筆者の主張が分かりにくいと感じる箇所も多いです。そこで今回は、『骨とまぼろし』のあらすじや要約、意味調べなどを解説しました。

『骨とまぼろし』のあらすじ

 

本文は、三つの段落から構成されています。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。

あらすじ

①14世紀のはじめ、アステカ族は現在のメキシコ市を中心に水上の都を築いた。その後、スペインの征服者たちがこの都市を破壊し、メキシコの都を築いた。「メンティーラ」(ウソ)の意識というのは、この社会を意識する一つのカギだ。会話において、彼らは正しい情報を伝える目的よりも、その人に対する共感と好意を表現するという価値が優先する。人間の主観のおりなす世界の全体が一つの共同のまぼろしであれば、「動かぬ真実」という岩盤のありなしにどれほどの意味があろうか。現代メキシコ人の開放性と人恋しさの背後には、植民者や混血者たちの存在の不確かさからくる孤独の深層がある。現代のメキシコ社会は、約16%の白人(植民者)、55%のメスティーソ(白人とインディオの混血)、29%のインディオ(土着の原住民)から構成されている。その基底を構成するインディオの社会には、開放性は一般にない。

②メキシコの国民的な画家であるポサダは、晩年にはほとんどカラベラ(がいこつ)のみを彫り続けた。彼は、一切のメンティーラをはぎとった底に、人間の芯のごとくカラベラを透視し続けた。インディオは土葬するので、カラベラはそのまま残る。だが、日本では火葬するため、インディオにとってはそれは恐ろしいことらしい。カラベラは、生き残った者が祖先と大地へとつながっていく、存在の根のようなものかもしれない。メンティーラとカラベラという二重の視点をもってはじめて、メキシコ文明の全体が立体としてみえてくる。

③メキシコ南部で、キリストの生涯を描く偶像の行列が街をねり歩く光景からは、マヤの信仰があることが分かる。それは、強いられたキリスト教の外被の下で、インディオの信仰の内実が生き続けていることを示す。インディオは、メキシコの街に、召使いや行商人、車洗いの下男などとして流れ込んでくる。彼らはアパートやビルの屋上に住んでいるため、6階の私の研究室からみると、いちめんにインディオたちの世界だ。彼らは、下に住む白人たちの知らない世界を形成しているのだ。

『骨とまぼろし』の要約&本文解説

 

200字要約メキシコ文明は、先住民インディオと植民者・混血者の重層的な歴史の上に成り立っている。会話では「メンティーラ」によって共感や好意が重視され、社会的孤独を和らげる文化がある。また、画家ポサダのカラベラ作品や南部の宗教行列に見られるように、インディオの信仰や文化は表面のキリスト教の外被の下で生き続け、現代都市にも彼ら独自の世界が形成されている。この二重性こそが、メキシコ文明の立体的理解の鍵である。(197文字)

この文章で筆者が伝えたいのは、「メキシコ社会を理解するには、表面的な情報だけでなく、人々の価値観や歴史の積み重なりを踏まえた“二重のまなざし”が必要だ」という点です。特に重要なのがメンティーラ(ウソ) と カラベラ(がいこつ)という二つの象徴的な視点です。

まず、メキシコの人々にとって「メンティーラ」は単なるウソではありません。相手への共感や好意を示すために事実より“関係”を優先する文化です。日本で例えるなら、相手を傷つけないための社交辞令に近い部分があります。

しかし筆者は、その背景には植民地支配と混血の歴史によって生じた「存在への不安」や「孤独」があると指摘します。だからこそ、人々はつながりを求め、好意を大切にするのです。

一方の「カラベラ」は、人間の根源を象徴するものとして描かれます。がいこつはインディオにとって先祖や大地とのつながりを示す“存在の芯”のようなものです。日本のように火葬が一般的な国とは感覚が異なり、死者の骨が残ることに特別な意味があるのです。

さらに筆者は、都市の「上」と「下」に異なる世界が存在する様子を示し、キリスト教とマヤ信仰が重なり合う宗教観にも触れます。これらはすべて、メキシコ文化が“表の顔”と“内側の本質”を同時に持つ社会であることを示しています。

メンティーラという柔らかい外側と、カラベラという揺るがない中心。両者を合わせて見ることで、初めてメキシコ文明が立体的に理解できると筆者は述べているのです。

『骨とまぼろし』の意味調べノート

 

【荒涼(こうりょう)】⇒荒れはてて、ものさびしい様子。

【南下(なんか)】⇒南の方へ進むこと。

【標高(ひょうこう)】⇒海面からの高さ。

【常春(とこはる)】⇒一年中春のように温暖なこと。

【征服(せいふく)】⇒武力や勢いで支配下におさめること。

【目を奪う(めをうばう)】⇒(すばらしさなどで)みとれさせる。

【にび色】⇒鈍い銀色のような灰色。濃いねずみ色。

【気にとめる】⇒気にする。心配する。

【植民者(しょくみんしゃ)】⇒他地を支配し、移住する者。ここでは、メキシコに入ってきたスペイン人を指す。

【混血児(こんけつじ)】⇒異なる民族の間に生まれた子。

【早々(そうそう)】⇒すぐに。早い時期に。

【魅了(みりょう)】⇒強くひきつけ、夢中にさせること。

【迫真(はくしん)】⇒いかにも本物らしく真に迫ること。

【きららかな】⇒きらきらと明るく輝く様子。

【身を入れる(みをいれる)】⇒集中して取り組むこと。

【目もあやに】⇒まぶしくて目がくらむほど美しい様子。

【重畳しながら(ちょうじょうしながら)】⇒幾重(いくえ)にも重なり合いながら。

【地平(ちへい)】⇒大地の平らな面。

【開放性(かいほうせい)】⇒心を閉ざさず、受け入れる性質。

【基底(きてい)】⇒物事の基礎をなしている底の部分。土台となる部分。

【境域(きょういき)】⇒境界となる領域。共同体が自分たちの領域として確保している範囲。

【版画(はんが)】⇒木・金属・石などの版に絵や文字を彫ったり描いたりして、それを紙などに写し取ることで作る絵。

【シルクハット】⇒男性がかぶる礼装用の帽子。

【グロテスク】⇒奇妙で不気味な様子。

【優雅(ゆうが)】⇒気品があり上品なこと。

【幻滅(げんめつ)】⇒理想がこわれ、失望すること。

【透視(とうし)】⇒すかしてみること。

【偶像(ぐうぞう)】⇒木・石・土などで作った像。神として崇拝される像。

【蘇生(そせい)】⇒よみがえること。

【聖者(せいじゃ)】⇒聖人。特にキリスト教で偉大な信徒や殉教者。

【くゆらせ】⇒煙などをゆっくり立たせて。

【たきしめ】⇒香を強くたいて。

【しきつめ】⇒一面にぎっしり敷き。

【呪術(じゅじゅつ)】⇒超自然的な力を用いるまじない。

【ほこら】⇒神をまつった小さなやしろ。

【外被(がいひ)】⇒外側をおおうもの。表面的な部分。

【行商人(ぎょうしょうにん)】⇒店をもたずに、商品を持って各地を売り歩く商人。

【下男(げなん)】⇒家の雑用をする男性の使用人。男の召使い。

【奉公人(ほうこうにん)】⇒雇われた主人の家に住み込んで、家事などを務める人。

【ふく】⇒かわらや板、カヤなどで屋根をおおう。

【自認(じにん)】⇒自分でそうだと認めること。

【墓標(ぼひょう)】⇒墓に立てる標識。埋葬の場所にたてる目印の柱。

【薄暮(はくぼ)】⇒夕暮れ。日が沈んで薄暗い時間帯。

【呼び交わす(よびかわす)】⇒互いに声をかけ合う。

『骨とまぼろし』のテスト対策問題

 

問題1

次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。

セイフクされた土地。

ユウガな所作に見とれる。

ドソウの習慣が残る村。

グウゾウが祭られている。

ハクボの空が染まる。

解答①征服 ②優雅 ③土葬 ④偶像 ⑤薄暮
問題2

「メンティーラ」の意味として最も適切なものを選びなさい。

(ア)歴史的建造物

(イ)宗教的儀式

(ウ)先住民の伝統的住居

(エ)嘘や虚飾を含む社会的表現

解答(エ)
問題3「メンティーラとカラベラという二重の視点をもってはじめて、メキシコ文明の全体が立体としてみえてくるように思う。」とは、どういうことか?
解答白人やメスティーソを象徴する「メンティーラ」と、インディオを象徴する「カラベラ」の両方の視点から見ることで、嘘や虚飾があるが開放的な面と、真実で伝統的だが閉鎖的な面の両方を理解し、メキシコ文明の全体像を立体的に把握できるということ。
問題4

次のうち、本文の内容を表したものとして最も適切なものを選びなさい。

(ア)メキシコ文明はすべて白人や混血者によって作られ、インディオの文化は現代にはほとんど残っていない。

(イ)インディオの伝統や信仰は、現代の都市生活の中でも薄暗い屋上や宗教行列で生き続けており、文明の二重性が理解できる。

(ウ)ポサダは宗教的偶像を中心に描き、インディオ文化にはほとんど関心を示さなかった。

(エ)メキシコ文明は単一の文化に基づいて発展し、都市生活も均一で閉鎖的である。

解答(イ)
問題5「地のシルエットたち」とは何を指すか?
解答「地のシルエットたち」とは、夕暮れの中でビルの屋上で呼び交わしているインディオの若者たちを指す。また、彼らの背後にあるメキシコの大地の魂も象徴的に含んでいる。
解説と補足本文で使われる「地のシルエットたち」とは、文字通りに判断すると、夕暮れ時にビルの六階から見た、下界の、黒く見えるビル街のことです。しかし、ここでの「地のシルエットたち」は、夕暮れの中、ビルの屋上で呼び交わすインディオの若者たちを示す表現です。都市の建物が薄闇に沈む一方で、彼らの姿だけが大地から立ち上がる影のように浮かび上がる場面が描かれています。同時に、この語には彼らの背後にあるメキシコの大地の魂という象徴的な意味も重ねられています。近代的な都市文明のただ中で、インディオの文化が今も確かに息づいていることを示す象徴的な言葉だといえます。

まとめ

 

今回は、『骨とまぼろし』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。