『人新世における人間』は、教科書・論理国語で学習する文章です。そのため、高校の定期テストにも出題されています。
ただ、本文を読むと筆者の主張が分かりにくいと感じる箇所も多いです。そこで今回は、『人新世における人間』のあらすじや要約、語句の意味などを簡単に解説しました。
『人新世における人間』のあらすじ
本文は、行空きにより4つの段落から構成されています。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。
①現在、層序学においては、すでに完新世は終わり、新たな地質年代に突入したとされている。新たな地質年代は、「人新世」という名である。これは、人類の活動が、かつての小惑星の衝突や火山の大噴火に匹敵するような地質学的変化を地球に刻み込んでいることを表す新造語である。
②「人新世」という名称は、ノーベル賞を受賞したクルッツェンという学者の発言が始まりだった。この新造語は聴衆に強い印象を残し、分野を超えて多くの研究者やジャーナリストに多用されるようになった。意外だったのは、学問的には保守的と考える専門家でさえ、「人新世」という地質年代区分を好意的に受け入れていたことだ。
③「人新世」は、1950年前後に始まったという説が有力である。実際に、その頃を境に、人間活動が地球環境に甚大な影響を及ぼし始めた。人新世を確認できる指標はいくつもあるが、多くは核開発・産業化・都市化の結果として説明できる。核実験などによるプルトニウムの放出は、明確な人新世のマーカーとなる。その他にも、テクノ化石や二酸化炭素の科学的痕跡なども残ることになる。
④「人新世」の内実はドライかつニュートラルであり、必ずしも人間中心主義的とはいえない。それどころか、「人」の語の導入こそ重要だと言えるかもしれない。「人新世」は、科学技術によって存在が周縁部に追いやられていた人間が、再び中央まで呼び出され、素行の悪さから逮捕でもされたような趣がある。
『人新世における人間』の要約&本文解説
本文を理解する上で、「人新世(ひとしんせい)」という言葉が一つのキーワードとなります。
「人新世」とは、地質学や環境学の分野で使われる言葉で、人間活動が地球環境に大きな影響を与えるようになった時代のことです。
具体的には、1950年前後を境に、人間の活動が地球規模で自然環境や地質に明確な影響を与えるようになった時代のことを指します。
地球の歴史を地質年代で分けたとき、現在は「完新世(かんしんせい)」という時代とされていますが、産業革命以降、人間の活動が地球規模で地質に大きな影響を与えるようになったことから、「人新世」という新たな時代区分が議論されるようになったのです。
「人新世」という時代区分が正式に地質年代として認められるかどうかは、まだ議論の途中であり、現在も学術的な検証が続いています。
そのため、「人新世」という名称自体が、人間中心主義的な願望によって提案されたものだと抵抗を覚える人も多いです。
しかし、筆者は、「人新世」について、その内実はドライかつニュートラル(中立)であり、必ずしも人間中心主義的とは言えないと述べています。
その上で、実際に地質学的証拠にもとづいて「人新世」の区分が適切だと認められるのであれば、私たちは文句をつける筋合いはないとも述べています。
筆者は、「人新世」を支える思想は、1960年代~70年代に現れた環境保護思想とは異なり、人類の終末と世界の終末は同じではないというドライかつニュートラルな認識があるものだと考えているのです。
『人新世における人間』の意味調べノート
第一段落の語句一覧
【地軸(ちじく)】⇒地球の回転軸のこと。北極と南極を結ぶ直線。
【多様化(たようか)】⇒物事がさまざまな種類や形態に変化すること
【紆余曲折(うよきょくせつ)】⇒物事が順調に運ばずに、込み入った経過をたどること。
【一端(いったん)】⇒一部。一部分。
【堆積(たいせき)】⇒積み重ねること。
【痕跡(こんせき)】⇒前に何かがあったという跡。
【定説(ていせつ)】⇒ある事柄について、その分野の専門家の間で正しいと認められている説。
【匹敵(ひってき)】⇒対等の存在になること。肩を並べること。
【新造語(しんぞうご)】⇒新しくつくられた言葉。
第二段落の語句一覧
【発端(ほったん)】⇒物事の始まり。
【高名(こうめい)】⇒高い評価を受け、広く一般の人々に名前を知られていること。
【軽率(けいそつ)】⇒物事を深く考えずに軽々しく行うこと。
【碩学(せきがく)】⇒その分野の権威とされる学者。
【聴衆(ちょうしゅう)】⇒話を聞いている人々。
【言及(げんきゅう)】⇒ある事柄について触れること、または話題にすること。
【ジャーナリスト】⇒新聞・雑誌などの記者・編集者など。
【鍵概念(かぎがいねん)】⇒キーワード。
【新奇(しんき)】⇒新しくて変わっているさま。
【保守的(ほしゅてき)】⇒今までの考え方や行動などを変えずに、守る傾向のあるさま。
第三段落の語句一覧
【生来(せいらい)】⇒生まれつき。
【呼称(こしょう)】⇒呼び名。
【妥当(だとう)】⇒適切であること。実情によくあてはまっていること。
【有力視(ゆうりょくし)】⇒ある考えや意見などが強く支持されること。
【違和感(いわかん)】⇒しっくりこない感じ。
【テクノロジー】⇒科学技術。
【氷床(ひょうしょう)】⇒大陸の全体に広がる大規模な氷河。現在は南極大陸とグリーンランドにだけみられ、厚さ1000メートル以上ある。
【同位体(どういたい)】⇒原子番号が同じで、質量数が異なる元素。
【副産物(ふくさんぶつ)】⇒ある物事に付随して起こる物事。
【危惧(きぐ)】⇒将来の悪い結果や問題に対して心配し、恐れること。
【所以(ゆえん)】⇒いわれ。理由。
第四段落の語句一覧
【火蓋を切る(ひぶたをきる)】⇒戦いや論戦を始める。
【提唱(ていしょう)】⇒新しい意見や主張などを唱え、その必要性を説明する。
【高邁(こうまい)】⇒高い理想を追求するさま。
【奏功(そうこう)】⇒効き目が現れること。目標通りの成果があがること。
【処方箋(しょほうせん)】⇒ある問題を解決するのに効果的な方法。ここでは、地球環境の悪化を止めるための方法を意味する。
【枯渇(こかつ)】⇒物が尽きてなくなること。
【情緒(じょうちょ)】⇒喜びや怒り、悲しみなどの感情。
【内実(ないじつ)】⇒内部の実情。
【巨視的(きょしてき)】⇒大きな視点で全体を捉えるさま。
【客観視(きゃっかんし)】⇒第三者的な立場で見ること。
【希求(ききゅう)】⇒強く願い求めること。
【周縁(しゅうえん)】⇒周り。ふち。
【営み(いとなみ)】⇒行い。行為。
【介在(かいざい)】⇒両者の間に存在すること。
【余地(よち)】⇒物事をさらに行いうるゆとり。余裕。
【徒花(あだばな)】⇒咲いても実を結ばずに散る花。転じて、見かけだけで実 (じつ) を伴わない物事のこと。
【繁栄(はんえい)】⇒豊かにさかえること。さかえて発展すること。
【謳歌(おうか)】⇒喜びを大いに楽しむこと。
『人新世における人間』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①土砂がタイセキする。
②ヒッテキする実力をもつ。
③ケイソツな行いをする。
④将来をキグする。
⑤子孫がハンエイする。
まとめ
今回は、『人新世における人間』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。