『人がアンドロイドとして蘇る未来』は、高校教科書・現代の国語に載せられている評論文です。ただ、本文を読むと筆者の主張が分かりにくい箇所もあります。
そこで今回は、『人がアンドロイドとして蘇る未来』のあらすじや要約、語句の意味などを含め簡単に解説しました。
『人がアンドロイドとして蘇る未来』のあらすじ
本文は、内容により5つの段落に分けることができます。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。
①1982年に公開されたSF映画『ブレードランナー』では、2019年のロサンゼルスが舞台となっている。この映画ではアンドロイドは自律した意識を持っている。だが、現在ではまだアンドロイドは自律した意識を持つようになってはいなく、精巧な外見と生々しい表情や身振りを再現するにとどまっている。
②NHKのテレビ番組『天国からのお客様』では、故人のアンドロイドが身近な人々から、写真や映像、思い出の品々などからは引き出せないような反応を引き出していた。アンドロイドは、亡くなった人々が残していった足跡を、体験可能なできごととして呼び出すというポテンシャルを持っているのだ。アンドロイドが故人に部分的に憑依するという魔法は、今後はもっと自由に精密に制御していけるようになるだろう。
③だが、死者を蘇らせる行為には、私たちの良識や倫理観に反する何かが含まれている。アンドロイド技術は、そこで模された対象がまさに目の前にいる、という体験を作り出し、喪失というできごとそのものを抹消してしまうかもしれないからだ。
④もう一つ現実的な問題としては、故人の喪失の悲しみを癒すという役目を終えたアンドロイドをどうするのかということがある。アンドロイドは、単なるモノとは異なる何かとして扱われなければなるはずなので、おそらく、供養という宗教的な手続きが求められるはずだ。ただし、日本文化は、人形を供養したりロボットを身近な存在として描写したりする伝統を持っているため、「人のようなモノ」をめぐる想像力は有している。そのため、喪というテーマにおいては、アンドロイドとの関係を作る上で優位な点を持っている。
⑤私たちの社会はアンドロイドとどのように付き合っていくべきなのか。その答えはまだ誰も知らない。アンドロイドを制作する行為は、人間の領分を超えた何かがあり、それゆえアンドロイドはひときわ強い欲望の対象となる。アンドロイドをめぐる基本原則を構築するに際して、最終的に問われるのは、私たちはアンドロイドが可能とするどのような未来を欲望していくのか、という点になるはずだ。
『人がアンドロイドとして蘇る未来』の要約&本文解説
筆者はまず、現代のアンドロイド技術というのは、すでに亡くなった人々のことを呼び出すことができるのだと述べています。この事を説明するために、『天国からのお客様』という番組を例として挙げています。
このテレビ番組では、亡くなった人を再現し、故人と近い関係にあった人々に対して、写真や映像などでは引き出すことのできない反応を引き出しているのだ、と述べています。
ところが、こういった死者を蘇らせるような行為には、良識や倫理に反するような負の側面もあるのだと続けます。例えば、私たちは誰かが死ぬと深い悲しみを得ますが、こういった、「人が亡くなった」という喪失そのものを私たちの心の中から抹消してしまうという可能性もあります。
また、そのアンドロイドが私たちの悲しみを癒したとしても、役目を終えたアンドロイドをどうすればいいのかという問題もあります。単に捨てたり誰かにあげたりすることはできないですから、供養という宗教的な手続きを行わければなりません。
このように、現代のアンドロイドというのは、私たちに良い意味でも悪い意味でも様々な影響を与えています。したがって、どのように付き合っていくべきかはまだ正解がない問題です。
だからこそ筆者は、私たちはアンドロイドが可能とする未来をどのようにしていきたいかをしっかりと考えていかなければならない、と結論付けていることになります。
『人がアンドロイドとして蘇る未来』の意味調べノート
【SF】⇒サイエンス・フィクション。科学的な想像に基づいて、空想的な世界を描いた物語。
【複製(ふくせい)】⇒ある物と同じ物を作ること。
【進展(しんてん)】⇒物事が進歩・発展すること。
【自律(じりつ)】⇒他からの支配や制約を受けずに、自分で考えて行動すること。
【判別(はんべつ)】⇒区別すること。
【ひるがえって】⇒これとは逆に。
【人工知能(じんこうちのう)】⇒コンピューターで、記憶・判断・学習などの人間の知的機能を再現したシステム。AI。
【搭載(とうさい)】⇒機械などに、ある機能を組み込むこと。
【精巧(せいこう)】⇒仕組みが細かくよくできているさま。
【象徴(しょうちょう)】⇒抽象的な思想・事物などを、具体的な事物によって理解しやすい形で表すこと。
【監修(かんしゅう)】⇒作品などを監督すること。
【生前(せいぜん)】⇒(亡くなった人が)生きていた時。
【故人(こじん)】⇒死んだ人。
【胸を打つ(むねをうつ)】⇒強く感動させる。
【折にふれて(おりにふれて)】⇒機会があればいつも。ことあるごとにいつも。
【傑出(けっしゅつ)】⇒他のものよりもずば抜けて優れていること。
【偉人(いじん)】⇒すぐれた事をなしとげた人。
【憑依(ひょうい)】⇒霊や魂などがのりうつること。
【精密(せいみつ)】⇒極めて細かい点にまで注意が行き届いているさま。
【良識(りょうしき)】⇒物事に対する健全な考え方や判断力。
【倫理観(りんりかん)】⇒倫理についての考え方。人として守るべき行いについての考え方。
【喪失(そうしつ)】⇒うしなうこと。※多く抽象的な事柄に対して使う。
【不可分(ふかぶん)】⇒強く結びつき、分けたり切り離したりできないこと。
【対照的(たいしょうてき)】⇒二つの事物の違いが、際立って認められるさま。
【模する(もする)】⇒ある形に似せて作る。まねる。
【喪(も)】⇒人の死後、その親族が一定の期間、外出や社交的な行動を避けて身を慎むこと。
【プロセス】⇒過程。
【抹消(まっしょう)】⇒消すこと。
【決別(けつべつ)】⇒きっぱりと別れること。
【廃棄(はいき)】⇒不用なものとして捨てること。
【供養(くよう)】⇒死者の冥福を祈ること。
【未踏(みとう)】⇒まだ誰も足を踏み入れたことがないこと。
【優位(ゆうい)】⇒他よりまさること。
【蓄積(ちくせき)】⇒たくわえること。たくわえ。
【領分(りょうぶん)】⇒権限・能力などの及ぶ範囲。
【ひときわ】⇒いちだんと。きわだって。
【昇華(しょうか)】⇒物事がさらに上の段階へ上がること。
【模範(もはん)】⇒見習うべき手本。
【普遍的(ふへんてき)】⇒すべてに例外なくあてはまるさま
【疑義を唱える(ぎぎをとなえる)】⇒ここでは、「異を唱える」と同じような意味。「異を唱える」とは「反対の意見を言うこと」を表す。
【喚起(かんき)】⇒呼び起こすこと。
【触媒(しょくばい)】⇒ある反応が起こる速度を変化させるもの。
『人がアンドロイドとして蘇る未来』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①ヒカえめな性格。
②セイコウな工芸品。
③機械をセイギョする。
④記憶ソウシツした人物。
⑤食材をハイキする。
⑥先祖のクヨウをする。
⑦注意をカンキする。
次の内、本文の内容を表したものとして適切でないものを選びなさい。
(ア)アンドロイドはモノであって人ではないが、精巧に作り込まれ、巧みに演出されるとき、アンドロイドには個人が部分的に憑依するという魔法がかかる。
(イ)遅かれ早かれ、将来において「アンドロイドとともに生きる世界」は身近なものになっていると考えられ、それは時間の問題である。
(ウ)アンドロイドは喪失というできごとそのものを抹消してしまうかもしれないが、私たちが前に進んでいく際に避けては通れないものであるため、社会全体にとっては問題ないことである。
(エ)日本文化は、アシモやペッパー、鉄腕アトムやドラえもんなどからも分かるように、「人のようなモノ」をめぐる想像力という点で、大いなる蓄積がある。
まとめ
以上、今回は『人がアンドロイドとして蘇る未来』について解説しました。ぜひ定期テストなどの対策として頂ければと思います。