『文学の未来』は、小野正嗣という作者による評論文です。高校現代文の教科書にも取り上げられています。
ただ、本文を読むとその内容や筆者の主張などが分かりにくい箇所もあります。そこで今回は、 『文学の未来』のあらすじや要約、語句の意味などを解説しました。
『文学の未来』のあらすじ
本文は、内容により5つの段落に分けることができます。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。
①文学を専門的に研究したり、文学作品について語ろうとしたりするときに、自分だけの新しい問題や切り口を見つけることは困難に思える。しかし、実際には新しい問題も新しい切り口も見つかるのである。それは、時代や社会の変化に応じて、読む我々が変化しているからであり、我々の一人一人が、誰一人として同じではないからだ。かりにテクストが変わらなくても、時代は変化していく。それぞれの時代や社会には固有の問題の配置があるため、目の前にある百年前に書かれたテクストを、今ここにいる我々が百年前と同じように読むことはできない。そもそも、文学作品とは単に書かれたテクストのことではない。
②テクストとは読者に読まれて、初めて作品として完成し、意味を持つ。作品は書き手のものでも読み手のものでもない。作品とは、書かれたテクストと、それを読む我々一人一人との間にそのつど取り結ばれる関係なのである。
③読書とは極めて能動的な行為である。作品を生かすか死なすかは読者次第なのだ。読者のそれぞれが作品のなかに作者が思い描いてもいなかったような主題や風景を見い出すことで、作品は豊かになる。
④読書によって作品だけではなく、読者自身も豊かになる。同じ本でも読むたびに発見があるのは、我々が変化しているからだ。読むことはしたがって、自分の中にある他者を絶えず発見することにつながる。文学作品とは、書かれた言葉とそれを読む「私」との、どの一瞬をとっても同じではない不思議な混合体なのだろう。
⑤テクストという他者を真剣に読むことは、テクストと「私」との関係を大切にすることである。それは、他者としてのテクストの周囲に広がる世界と「私」を取り巻く他者たちの世界に注意深く心を傾けることでもある。読むこと、書くことは、言葉によって「いま、ここ」にはいない他者とつながっていくことにほかならない。他者とのつながりを回復させるために、人はおそらく文学に訴えるのだ。人はどんなときでも、とりわけ社会が危機的な状況にあるときほど、書くことと読むことをやめない。
『文学の未来』の要約&本文解説
私たちは、文学作品をすでにできあがったものだと捉えがちです。しかし筆者は、文学作品は読者と作品の関係により生まれるものだと指摘します。これが本文の主な論旨です。
例えば、有名な小説一つをとっても、その読者は無数にいるため、そこに別の観点や発想の仕方が生じることになります。同じ本であっても、人間の見方というのは様々なので、感想が全く同じということはありません。
また、読書をすることにより、読者自身も変わっていくということを筆者は述べています。昔は違う自分だったにも関わらず、読書を続けることで、自分の中にある別の他者の発見があるということです。
そして最後には、社会が何よりも危機的な状況にあるときこそ、文学が力を持つのだという結論で締めくくっています。
『文学の未来』の語句・漢字ノート
【一度ならず】⇒何度も。たびたび。
【蓄積(ちくせき)】⇒たくさんたくわえること。
【自分ごとき】⇒「自分のような者」の意。自分のようなつまらない者、というへりくだった意を込めた表現。
【労苦(ろうく)】⇒心身が疲れ、苦しい思いをすること。苦労すること。
【切り口(きりくち)】⇒物事を批判したり分析したりする際の視点や方法。
【アプローチ】⇒学問研究などで、その研究対象への接近の仕方。
【テクスト】⇒言葉で書かれたもの。
【固有(こゆう)】⇒そのものだけにあること。
【文学テクスト】⇒文学作品として創作されたテクスト。ここでは、テクストの中で文学作品(詩や小説など)として作られたものを指す。
【妥当性(だとうせい)】⇒うまく当てはまる度合い。うまく適合する度合い。
【受容(じゅよう)】⇒受け入れて、味わい楽しむこと。
【知見(ちけん)】⇒見解。ある物事についての評価。
【示唆(しさ)】⇒それとなく知らせること。
【動員(どういん)】⇒ある目的のために、多くの人や物を集めること。
【能動的(のうどうてき)】⇒自分から他へはたらきかけるさま。
【自認(じにん)】⇒ある状態が事実だと自分で認めること。
【様相(ようそう)】⇒ありさま。すがた。状態。
【拝受(はいじゅ)】⇒受けること、受け取ることをへりくだっていう語。
【懐(ふところ)】⇒物の内部。
【繁茂(はんも)】⇒草木が盛んに生い茂ること。
【傑作(けっさく)】⇒すぐれた作品。
【窮屈(きゅうくつ)】⇒心身の自由が束縛され、思うままにできないこと。ゆとりがなく気ままにできないこと。
【とめどなく】⇒際限もなく。きりがなく。
【媒介(ばいかい)】⇒両方の間に入って、なかだちをすること。
【営為(えいい)】⇒人間が日々いとなむ仕事や生活。
『文学の未来』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①歴史をケンキュウする。
②ロウクに報いる。
③ダトウな結論を出す。
④キョクタンな意見。
⑤水草がハンモする。
⑥将来をシンケンに考える。
⑦多くのケッサクを残す。
次の内、本文の内容を表したものとして適切でないものを選びなさい。
(ア)文学作品を語ろうとする時、新しい問題も新しい切り口も見つかるのは、それを読む我々が変化しているからである。
(イ)作品は書き手ではなく、読み手のものであり、極端なことを言えば、作品を生かすか死なすかは読者次第なのである。
(ウ)文学作品とは、書かれた言葉とそれを読む「私」との、どの一瞬をとっても同じではない不思議な混合体である。
(エ)テクストという他者を真剣に読むことは、テクストと「私」との関係を大切にすることである。
まとめ
以上、今回は 『文学の未来』について解説しました。この評論は文学作品とは何かということを私たちに教えてくれます。もう一度本文を読んで、ぜひ正しい内容を理解できるようになって頂ければと思います。