
『文学のふるさと』は、坂口安吾による文章です。教科書・文学国語にも掲載されています。
ただ、本文を読むと筆者の主張が分かりにくいと感じる箇所も多いです。そこで今回は、『文学のふるさと』のあらすじや要約、語句の意味などをわかりやすく解説しました。
『文学のふるさと』あらすじ
本文は、四つの段落から構成されています。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。
①童話には大概、教訓やモラルがあるが、ペローの「赤頭巾」にはそれらが全く欠けている。しかも、三百年もその生命を持ち続け、多くの人々の心の中に生きている。すべて美徳ばかりのかれんな少女がお婆さんに化けた狼に食べられてしまうところに、静かで透明な切ない「ふるさと」がある。それは氷を抱き締めたような切ない悲しさ、美しさである。
②寺詣でに来た大名が、鬼瓦を見て泣き出すという狂言にも、モラルやそれに相応する笑いの意味の設定がない。滑稽であると同時にいきなり突き放される。それは私たちがどうしても組み敷かれずにはいられない性質のもので、我々の生きる道に必ずある。そこでは、モラルがないということ自体がモラルなのだ。
③『伊勢物語』には、長年思いを寄せた女と駆け落ちした男が、荒れた家に泊まった夜、鬼が出るのではないかと一晩中警戒していたが、その間に女が鬼に食べられてしまい、男が嘆き悲しんだという話がある。女を思う男の情熱の激しさ、男と女が駆け落ちをする様子の美しさがあるからこそ、むごたらしさが生きるのである。モラルがない、ただ突き放すということだけでこの凄然たる静かな美しさは生まれない。
④生存の孤独、我々のふるさとというものはむごたらしく救いのないものであり、救いのないこと自体が救いである。文学はここから始まる。大人の仕事はふるさとへ帰ることではないから、私は突き放した物語をそれほど高く評価しないが、ふるさとの意識・自覚のないところに文学があるとは思われない。文学のモラルも社会性も、このふるさとの上に生育したものでなければ信用できない。
『文学のふるさと』の要約&本文解説
童話「赤頭巾」や狂言、『伊勢物語』は、教訓やモラルによる結末がなく、むごたらしい出来事によっていきなり突き放される。しかし、そこには氷を抱き締めたような切ない悲しさや凄然たる静かな美しさがあり、人間がどうしても避けられない生存の孤独という「ふるさと」が現れている。文学はこの救いのないふるさとの自覚から始まるものであり、文学のモラルや社会性もまたその上に生育したものでなければ信用できないのである。 (199文字)
この文章のテーマ
この文章で筆者(坂口安吾)が述べているのは、文学は人間の孤独や悲しさという根本的な感情から生まれるという考えです。筆者はこれを「文学のふるさと」と呼んでいます。ここでいう「ふるさと」とは、実際の故郷ではなく、人間が本来持っている感情の原点を意味しています。
教訓のない物語が心に残る理由
筆者はまず「赤頭巾」の話を例に出します。普通の童話には「悪いことをすると罰を受ける」「正しいことをすると報われる」というような教訓があります。しかし、ペローの「赤頭巾」では、純粋な少女が狼に食べられてしまうだけで、はっきりした教訓はありません。それでもこの物語は三百年も読み継がれています。
筆者はその理由を、物語の中にある切ない悲しさにあると考えます。つまり、人の心に強く残るのは、必ずしも教訓ではなく、人間の感情に深く触れる悲しさや美しさなのです。
人生には理屈で説明できないことがある
次に筆者は、狂言や『伊勢物語』の例を挙げます。そこでは、大名が突然泣き出したり、駆け落ちした女が鬼に食べられたりと、理由がはっきり説明されない出来事が起こります。
このような話には、わかりやすい教訓はありません。しかし、筆者は人生そのものが必ずしも理屈どおりに進むわけではないと考えています。現実の世界でも、理由がわからない悲しみや理不尽な出来事は存在します。文学はそうした現実をそのまま表すことがあるのです。
「文学のふるさと」とは何か
筆者は、人間の存在の根本には「孤独」があると言います。人は誰でも、最終的には一人で生きていかなければなりません。そのため、人生には救いのない悲しさを感じる瞬間があります。
筆者は、この人間の孤独や悲しさこそが文学の原点だと考えています。そしてその原点を「文学のふるさと」と呼んでいるのです。
筆者の主張(まとめ)
この文章で筆者が言いたいことは、文学の価値は単なる教訓にあるのではなく、人間の孤独や悲しみという根本的な感情を表すところにあるという点です。
人生には、理由の説明できない不幸や悲しみがあります。文学は、その現実を見つめるところから生まれます。そして読者は、その物語を通して人間の本質に触れるのです。
つまり筆者は、人間の孤独や理不尽な現実を感じさせることこそ、文学の出発点であり本当の価値であると主張しているのです。
『文学のふるさと』の意味調べノート
【童話(どうわ)】⇒子どもに向けて書かれた物語。教訓や寓意を含むことが多い。
【大概(たいがい)】⇒だいたい。おおよそ。
【教訓(きょうくん)】⇒経験や出来事から得られる戒めや学び。
【モラル】⇒人が守るべき道徳や倫理。善悪の判断の基準。
【甚だ(はなはだ)】⇒程度が非常に大きいさま。たいへん。
【厳たる(げんたる)】⇒厳しくしっかりしているさま。厳しい様子。
【かれん】⇒かわいらしく上品で愛らしいさま。
【心を打つ(こころをうつ)】⇒強く感動させる。深く感動を与える。
【いったい】⇒そもそも。もともと。
【尻切れトンボ(しりきれとんぼ)】⇒物事が途中で終わり、結末がはっきりしないこと。
【滑稽(こっけい)】⇒おかしくて思わず笑ってしまうような様子。
【観念(かんねん)】⇒物事について頭の中で思い描く考えやイメージ。また、あきらめて受け入れること。
【のっぴきならぬ】⇒どうしても避けられない事情があるさま。
【懸想(けそう)】⇒恋い慕うこと。恋心を抱くこと。
【綾(あや)】⇒文章や話の細やかな意味のつながり。巧みな表現の仕方。
【凄然(せいぜん)】⇒ぞっとするほど厳しく、強い印象を与えるさま。
【批評(ひひょう)】⇒物事や作品の価値を評価し、意見を述べること。
『文学のふるさと』のテスト対策問題
次の仮名部分を漢字に直しなさい。
①ノートのヨハクに文字を書く。
②ヘイボンな日々が続く。
③少年がムジャキに笑う。
④今日はヒマなので本を読む。
⑤突然の別れにヒタンの声を上げた。
①余白 ②平凡 ③無邪気 ④暇 ⑤悲嘆
「大人の寒々とした心」とは、どのような心か?
大人が純粋な子供の心を忘れて、モラルから逸脱したむごたらしい世界にも美を感じる心。
「何か約束と違ったような感じ」とあるが、そのように感じられるのはなぜか?
童話には大概、道徳的な結末があるものだが、それがないことを実感するほかないから。
「非常に静かな、しかも透明な、一つの切ない『ふるさと』」を最もよく説明している箇所を本文中から18文字で抜き出しなさい。
生存それ自体がはらんでいる絶対の孤独
「観念の眼を閉じるような気持ち」とは、どのような気持ちか?
覚悟を決めてあきらめるような気持ち。
「そのようでなければならぬ崖」とあるが、ここでの「崖」は何を指しているか?
突き放すことがあるという現実。
「この物語の値打ち」とは、どのようなものか?
救いのない結末とは対照的な男の情熱や情景の美。
まとめ
今回は、『文学のふるさと』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として活用していただければと思います。