『ぼくらの民主主義なんだぜ』は、教科書・論理国語で学習する文章です。高校の定期テストの問題にも出題されています。
ただ、本文を読むと筆者の主張が分かりにくいと感じる箇所も多いです。そこで今回は、『ぼくらの民主主義なんだぜ』のあらすじや要約、意味調べなどを解説しました。
『ぼくらの民主主義なんだぜ』のあらすじ
本文は、四つの段落から構成されています。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。
①2014年に、台湾の立法院(議会)は、数百の学生によって占拠された。占拠が二十日を過ぎた時、立法院長(議長)から妥協案が提示された。妥協案を受け入れるかどうか、学生たちの間に葛藤が生じた時、ひとりの学生が「幹部だけで決めるのは納得できません」と言った。リーダーは、丸一日かけて学生たちの意見を個別に訊いて回り、結局撤退を表明した。だが、自分の意見を聞いてくれたことには感謝すると述べた。この小さなエピソードの中に、民主主義の本質がある。民主主義とは、意見が通らなかった少数派が、それでも「ありがとう」と言うことのできるシステムである。ここには、「直接民主主義」が実現されている。
②原発からの廃棄物処理施設を描いたフィンランドの映画がある。この映画では、原発反対派の監督の厳しい質問に対して、施設の責任者たちが、逃げることなく答え続けようとしていた。この映画が可能になったのは、「すべて」を見せることを、フィンランド政府がためらわなかったからだろう。このような政府の誠実な対応に存在していたのが民主主義ならば、わたしたちの国には、まだ民主主義は存在していない。
③日本の学生たちが、「特定秘密保護法」に反対するデモを計画し、CM動画を制作した。楽しさとユーモアにあふれたものだったが、そのCMを見て「デモは『楽しみ』ですか。」と疑義を呈する人がいた。政治に参加することは、苦しみばかりでつまらぬものだという「常識」があるが、そうなのだろうか。わたしたちの中で、「民主主義」は一つの固定した「常識」になっていないだろうか。
③ルソーの『社会契約論』には、不思議な記述がある。彼によれば、一般意志(民意)は、意見の違いが多ければ多いほど、その真の姿を現すことができるのである。わたしたちは、「正しい」民主主義を一度も持ったことがないのかもしれない。民主主義とは、一度も完成したことのない「未完のプロジェクト」なのだろうか。
『ぼくらの民主主義なんだぜ』の要約&本文解説
『ぼくらの民主主義なんだぜ』は、作家・評論家である高橋源一郎氏が語る、「民主主義の本質とは何か」を問う一冊です。台湾やフィンランド、日本の事例を取り上げながら、「民主主義とは単なる制度ではなく、一人ひとりの姿勢や態度にも深く関わる営みである」と伝えようとしています。
① 台湾の学生デモから見える「民主主義の本質」
筆者はまず、2014年に起きた台湾の学生による議会占拠を取り上げます。このデモでは、最後に学生たち自身が時間をかけて全員の意見を聞き、納得のうえで撤退を決めました。
このエピソードが示すのは、「みんなで話し合って決める」という姿勢こそが民主主義の根幹だということです。たとえ自分の意見が通らなくても、プロセスが開かれていれば「ありがとう」と言える。つまり、少数派の声が無視されず、全員が納得しようとする姿勢こそが、民主主義の理想的な形だと筆者は考えているのです。
② フィンランドの原発映画に見る「開かれた姿勢」
次に筆者は、原発処理施設を扱ったフィンランドのドキュメンタリー映画を例に挙げます。この映画では、反対意見を持つ監督に対しても、責任者たちは誠実に答え続けます。
これは、「政府がすべてを隠さず、開示しようとする態度」=「透明性」が、民主主義において重要であることを意味します。筆者は、「こうした姿勢が民主主義だとするなら、日本の政府はまだそのレベルに達していない」と厳しく指摘しています。
③ 「デモは楽しんではいけないのか?」という疑問
日本の学生たちが、楽しげなCMを作って政治デモを呼びかけたところ、「デモは楽しみではない」と批判されました。このエピソードから筆者は、「民主主義に対する私たちの考えが、ある種の“常識”に縛られていないか?」と問いかけます。
つまり、政治に関わることは“まじめ”で“苦しい”べきだという固定観念が、私たちの参加を妨げていないかという問題提起です。楽しさやユーモアを取り入れてもよい、自由な表現こそが民主主義ではないか、と筆者は考えているのです。
④ 「民主主義」とは未完のプロジェクトである
ルソーの『社会契約論』には、「意見がバラバラなほど、真の民意が現れる」という考えがあります。これは、多数決で一つの結論を出すよりも、違いを認め合い、対話を重ねることのほうが大切だという発想です。
筆者はここから、「私たちは、真の民主主義をまだ経験していないかもしれない」「民主主義は、完成することのない“未完のプロジェクト”なのだ」と述べます。
結論:民主主義とは「かたち」ではなく「態度」である
この本を通して筆者が最も言いたいのは、民主主義とはただ選挙があるとか、多数決で決めるとか、そういう“かたち”ではないということです。
それよりも、以下のような「態度」や「姿勢」が大切だとされています。
- 少数派の声を聞こうとすること
- 異なる意見と誠実に向き合うこと
- 開かれた情報と対話の場を確保すること
- 「正しい」やり方は常に未完成であり続けるという謙虚さ
筆者は、民主主義とは「制度」ではなく、「生き方」や「参加の姿勢」であると繰り返し伝えようとしているのです。
『ぼくらの民主主義なんだぜ』の意味調べノート
【民主主義(みんしゅしゅぎ)】⇒国民全体の意思で政治を行う仕組み。
【占拠(せんきょ)】⇒ある場所を占有し、他人が入り込むのを許さないこと。
【審議(しんぎ)】⇒慎重に話し合って決めること。
【統制(とうせい)】⇒全体をまとめておさえ、うまく調整すること。
【感慨(かんがい)】⇒深く心に感じること。
【一部始終(いちぶしじゅう)】⇒物事の初めから終わりまでの全部。
【妥協(だきょう)】⇒互いに意見を譲り合って折り合いをつけること。
【葛藤(かっとう)】⇒心の中で迷ったり、対立したりすること。
【固唾をのむ(かたずをのむ)】⇒緊張してじっと成り行きを見守る。
【民意(みんい)】⇒国民や市民の考えや意見。
【直接民主主義(ちょくせつみんしゅしゅぎ)】⇒組織全員の意見を一人ずつ直接聞いて、物事を決定させる民主主義。
【絶句(ぜっく)】⇒言葉が出なくなること。
【誠実(せいじつ)】⇒まじめで、うそがなく正直なこと。
【横溢(おういつ)】⇒あふれるほど盛んなこと。
【疑義を呈する(ぎぎをていする)】⇒疑わしい点があると指摘する。
【原理(げんり)】⇒物事のもとになる基本的な考え方。
【垣間見える(かいまみえる)】⇒ちらっと見える。部分的に感じられる。
【思想家(しそうか)】⇒社会や人生について深く考え、それを発表し、人々に影響を与えている人。
【未完(みかん)】⇒まだ完成していないこと。
『ぼくらの民主主義なんだぜ』のテスト対策問題
次の傍線部の仮名を漢字に直しなさい。
①広場が学生たちにセンキョされた。
②ミスをシテキされて落ち込む。
③互いにダキョウして話し合いが成立した。
④彼のセイジツな態度に感動した。
⑤強いシゲキで目が覚める。
まとめ
今回は、『ぼくらの民主主義なんだぜ』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として頂ければと思います。