
『あの朝』は、作家・角田光代による随筆文です。日常の生活の中で感じる気づきをテーマとした文章で、文学国語の教科書にも掲載されています。
ただ、本文を読むとその内容が分かりにくいと感じる箇所も多いです。そこで今回は、『あの朝』のあらすじや要約、意味調べなどを解説しました。
『あの朝』のあらすじ
本文は、三つの段落から構成されています。ここでは、各段落ごとのあらすじを簡単に紹介していきます。
①なくなってはじめて、意外と好きだったと思うのがある。市子はある時期まで、決まりきった朝をくり返していた。それがあるうちはなんとも思っておらず、むしろ退屈だと思っていた。起きてから、食事をし、新聞を読む。化粧の手順も決まっていた。出勤までの平日の朝は、判で押したように、同じだった。しかし、ほかのことをやるとなると、とたんに不安になり、いつの間にか元の生活に戻ってしまった。
②二年前、市子の生活は、結婚したことで変わった。戸籍の名前が変わり、住まいも変わり、朝の過ごし方も変わった。新しい住まいは三十分早く家を出ないといけないので、朝食の時間を削るようになった。市子は、日々その都度違う生活が日常になった。季節が二回ずつやってきて、いき当たりばったりのような暮らしに慣れた頃、市子はひとりのあの退屈な朝が好きだったことに気付いた。そして、それがもう二度とこないこと、なくなってはじめて好きになったことに気付いた。
③ある日曜日、市子と夫は町に昼ごはんを食べに出かけた。すると、店の看板が変わっていることに気付いた。なくすということは、前よりだんぜん好きになることでもあるのだ、と市子は考えた。
『あの朝』の要約&主題解説
市子は、起きて食事をし、新聞を読み、化粧をして出勤するという判で押したような平日の朝を退屈だと思いながらも繰り返していた。しかし、結婚して名前や住まいが変わり、いつもより早く家を出る生活となって朝食の時間も削られ、日々その都度違う暮らしに慣れていく。やがて市子は、ひとりのあの退屈な朝が好きだったこと、それがもう二度とこないことに気付き、なくすということは前より好きになることでもあると考えた。 (198文字)
『あの朝』の主題とは何か
『あの朝』を読むと、出来事自体はとても単純ですが、筆者が伝えたいことは「人は、失ってから初めてその価値に気づくことがある」という点です。物語では、市子という人物の生活の変化を通して、この考え方が表現されています。
物語の前半で描かれていること
物語のはじめでは、市子の「結婚前の朝の生活」が描かれています。市子の朝は毎日ほとんど同じで、起きて食事をし、新聞を読み、化粧をして出勤するという決まりきったものでした。平日の朝はまるで同じ型で作られたように繰り返され、市子自身もそれを退屈だと感じていました。
しかし、いざ違うことをしようとすると落ち着かず、結局いつもの生活に戻ってしまいます。つまり、市子はその生活を特別に好きだと思っていたわけではありませんが、無意識のうちにその生活に安心感を持っていたと考えられます。
結婚によって生活が変わる
次に、市子は結婚によって生活環境が大きく変わります。名前や住む場所が変わり、それに伴って朝の生活の形も変化しました。新しい家では通勤のために以前より三十分早く家を出なければならないため、朝食の時間も減りました。
このように、結婚後の市子の生活は以前のような決まりきったものではなく、その日ごとに違う不安定なものになります。最初は慣れない生活でしたが、やがて市子はそのような生活にも慣れていきます。
市子が気づいたこと
しかし、ある程度時間が経ったころ、市子はふと気づきます。それは「以前の退屈だと思っていた朝が、実は好きだった」ということです。しかも、その朝はもう戻ってくることはありません。
ここで市子は、「なくして初めて、その良さに気づいた」という経験をします。この気づきが、この物語の重要な部分です。
最後の場面が示す意味
物語の最後では、市子が夫と町に出かけ、以前あった店の看板が変わっていることに気づきます。この出来事は小さなことですが、市子はそれを見てある考えに至ります。
それは「何かをなくすと、前よりもずっと好きだったことに気づく」という考えです。つまり、市子は自分の朝の生活の経験と、この店の変化を重ね合わせて理解したのです。
筆者が伝えたい主張
以上の内容から、この作品の筆者が伝えたい主張は次のようにまとめることができます。人は、普段当たり前だと思っているものの価値に気づかないことが多いです。
しかし、それを失ったときにはじめて、その大切さや良さを強く感じることがあります。つまり、日常の何気ない出来事や習慣も、実は大切なものであるということです。
まとめ
『あの朝』は、市子の生活の変化を通して「失って初めて気づく価値」というテーマを表しています。退屈だと思っていた朝の生活も、なくなった後には大切な思い出として感じられるようになります。
この作品は、日常の当たり前の生活にも価値があること、そしてそれを失う前に大切にすることの重要さを読者に伝えようとしていると考えられます。
『あの朝』の意味調べノート
【執念深い(しゅうねんぶかい)】⇒一度思い込んだことをいつまでも忘れず、しつこくこだわる様子。
【肩をすぼませる(かたをすぼませる)】⇒肩を縮めるようにして、寒さや不安、遠慮などを表すしぐさ。
【咀嚼(そしゃく)】⇒食べ物を口の中でかみくだくこと。
【判で押す(はんでおす)】⇒判を押したように、すべて同じで変化がないこと。
【大仰に(おおぎょうに)】⇒必要以上に大げさにする様子。
【戸籍(こせき)】⇒出生・結婚などの身分関係を記録し、日本国民の家族関係を公的に示す帳簿。
【郊外(こうがい)】⇒都市の中心部から少し離れた周辺の地域。
【せわしなく】⇒落ち着きがなく、忙しく動き回る様子。
【双方(そうほう)】⇒二つの側のどちらも。両方。
【愕然(がくぜん)】⇒思いがけない出来事に驚きあきれる様子。
【倦んで(うんで)】⇒同じことが続いて嫌になり、飽きてしまって。
【猛烈(もうれつ)】⇒勢いが非常に激しいこと。程度がとても強いこと。
【名残(なごり)】⇒物事が終わったあとにも残っている気配や跡。
『あの朝』のテスト対策問題
『そうして市子のあの退屈な朝も、変わったのである。』とあるが、どう変わったのか?
結婚に伴う転居により、職場にいくのに時間がかかるようになったことと、時折、夫がつくる朝食を食べるようになったこと。
『そのことに気づいて、少々驚くのである。』とあるが、なぜ驚いたのか?
毎日同じように朝の支度をしていなければ不安で落ち着かないと感じていたのに、いつのまにか結婚して変化した生活に慣れているから。
『そうして市子はなつかしく思い出す。』とあるが、「なつかしく思い出す」のはなぜか?
つまらないと思っていた日々が、二度と戻れない貴重な愛おしいものとして思い出されるようになったから。
「でも、そのひとりの朝は、やっぱりあのときとは違うはずだ。」とあるが、「違う」のはなぜか?
自身がさまざまな経験をして変われば、同じ手順で同じことをしても、感じることは異なるはずだから。
『市子はにやにやして、言う。』とあるが、「にやにや」したのはなぜか?
なくなってはじめて好きになることがある、ということを夫と共有できたと感じ、うれしくなったから。
次のうち、本文の内容を最もよく表しているものを一つ選びなさい。
(ア)市子は結婚して生活が変わったことで、以前よりも充実した朝の時間を過ごせるようになり、新しい生活の方が楽しいと感じるようになった。
(イ)市子は結婚後の忙しい生活の中で、以前の退屈だと思っていた同じ朝の繰り返しが実は好きだったことに気づき、なくなったものは前よりも好きになることがあると感じた。
(ウ)市子は毎日同じ朝を過ごすことに強い不満を持っており、結婚によってその単調な生活から解放されたことを喜んでいる。
(エ)市子は結婚してから朝の生活が忙しくなったため、以前の生活に戻るために新しい生活をやめようと考えるようになった。
(イ)
まとめ
今回は、『あの朝』について解説しました。ぜひ定期テストの対策として活用していただければと思います。